第209話 クジラとイカの攻防
海面から飛びあがったクラーケンを追って、マッコウがその巨体を水面に表す。
速いしデカい!あわやクラーケンを捕らえるかと言う瞬間、クラーケンはさらに加速すると複数の輝く魔方陣を展開し、そこから水撃を放つ。
十を超える水の槍がマッコウの身体を捕らえるが、その瞬間体表面は青白く輝き、クラーケンの放った水流を受け止め弾く。
「……これはヤバいな」
2体との距離は300メートルほど。にもかかわらず戦闘音ははっきりこちらまで届く。
『どうします?』
『この位置からじゃ攻撃のしようが無い。旋回して並走したいけど200……いや、150くらいまで近づいて』
それくらいが限界だろう。動きが早いので、それ以上近いと気づいた瞬間には巻き込まれていそうだ。
『クラーケン側だけを仕留めるのよね?どうやって?』
『とりあえず撃ってみる』
合計20発の
『タリア、念動力で掴めない?』
『掴むのは早くて厳しいわ。打撃は感触は在るけど、動きが早くて水圧もきついから撫でるのと変わらない』
『雷撃は?』
『やってみても良いけど、どこに流れるか分からないわよ』
『イカの進行路上に置く形で!』
『了解』
タリアはクラーケンと衝突する位置に念動力発生させ、雷撃に変えてぶつける。
水中に雷光が瞬くのが見えたが……。
『ダメ、変質させた瞬間に放電されちゃって、あらぬ方向に飛んでったみたい。多分ダメージ無いわね』
『ダメか』
たまに海中が青く光る。どうも水面下でも魔術の応酬をしているようだ。
クラーケンは
マッコウは衝撃波系のスキルに、吸い込む方向に何かスキルを使っているようだ。たまにイカの足が口元に吸い込まれそうになっている。防御はこちらも
『……ビットで近づいて盾か壁で進路妨害してみる。アーニャ、狙われたら
『『了解』』
追いかけっこをする魔物と魔獣に向けてビットを飛ばす。風が結構きつい。コントロールが難しいから、1機に集中して飛ばさないとうっかり波にのまれそうだ。
それに魔物が早い。この改良型ビットは時速にして80キロほどは出てるはずだが、距離が思った以上に縮まらないな。海中を泳いでいるにも関わらず6~70キロは出ている気がする。浮遊船だと追いつくのがきついか。
これ以上浅瀬に近づかれるとマッコウが不利になるな。
直上を避けて、クラーケンの前方に回り込む。高さを伸びるだけ伸ばして、時間は出来るだけ短く、継続時間は1秒もあればいい。
「……
衝撃音が水しぶきに変わり、発動した魔術がはじけ飛ぶ。
海面から立ち上るしぶきを回避するため急上昇。海中に視界を戻すと、クラーケンの影にマッコウが追い付いていた。
よし、完ぺきにとらえたようだ。
クラーケンが抵抗して、触手がマッコウを締め上げる。
しかし体格差が大きく、意に介さす様子はない。一回転してクラーケンを捻り上げると、海面に向けて突進する。
『!!タリア!クラーケンをが消えたらドロップだけかすめ取って!』
『了解!』
慌ててビットを退避させると、クラーケンを咥えたマッコウが飛び出してくる。
全長20メートルを超える巨体が完全に宙を舞い、全長の倍近くまで飛び上がる。
そのまま回転するように頭を下に向けると、咥えたクラーケンを海面にたたきつけた。
『消えるわ!』
それがとどめになったのだろう。
クラーケンが光の泡に変わっていく。ドロップは……。
『掴んだ!回収して!』
しぶき上げる波間から、ドロップ品と思われるアイテムが勢いよく跳ね上がって来る。
それにビットをぶつけると同時に
『おっけー!第一目標はクリア』
ドロップは武器のようだ。長さ2メートルちょっとの槍。魔力反応から、マジックアイテムであることが分かる。
『魔獣の方はどうするの?』
『出来れば退去願いたい。喧嘩しても海中に潜られたら倒せないし、こいつが近海に居ると船が出ない』
この近海で船が沈む原因は、魔物以外だと台風、大型生物との接触が主な原因だ。
『マッコウは群れで活動する魔物。こいつはまだ子供だから出来れば遠洋に居る群れと合流してもらいたい処』
『これで子供なの!?』
『大人は倍になるらしい』
なにせ島と間違えた、と言う話もある位だ。
動物の方のクジラはそこまで大きなものは居ないが、魔獣はけた違いだね。
クラーケンを倒して一息ついたのだろう。速度を落として優雅に泳ぐ姿が見えるが……向かう方向は陸地側だ。
ライリーは大陸との海峡に面する国で、大陸との間は深く広い海がある。出来ればそっちに向かってほしい。東群島の間に入られると、浅瀬が多くて座礁する可能性も出て来るし、その前に漁船が襲われる可能性が高い。
『……タリア、海の精霊あたりに呼びかけて、魔獣を誘導できない?』
『出来るの?』
『魔獣は精霊と相性がいいって聞いてる。意志の疎通が可能かもしれない』
『ちょっと呼んでみるわ』
タリアが話している間にビットを回収。
幸いにして、マッコウは飛んでるこちらに興味はないらしい。
しかし優雅だね。イカとの追いかけっこも大迫力だったし、ホエールウォッチングとしては最高なのだけど。
……こっちに向かってきたら一瞬で狩られる可能性があるから、あまり気を抜いても居られない。
『すげぇなぁ。でっかいなぁ。アレに乗れたりしないかな?』
『だいぶ無謀だと思いますよ』
『魔獣使いなら手名付けられるのかね?海の藻屑にされる確率の方が高そうだ』
魔物の反映と共に魔獣が減ったが、広大な海にはまだまだ魔獣たちが息づいている。
この時代の魔獣使いや召喚士の中には、わずかながらそう言った海の魔物と契約した者もいる。主に魚人や人魚だけれど。
『……交渉成立。MP300で外洋の群れまで誘導してくれるって』
『MP足りる?』
『素では足りないわね。タンク貸して』
バーバラさんから首飾りを受け取って、タリアが精霊魔術を発動させる。
効果があったのか、それともクジラ型魔獣の気まぐれか、それは一瞬こちらに向けて横目をくれると、ゆっくりと沖合に向けて進み始めた。
……あとは無事に海峡を抜けてくれることを祈ろう。
『……戻りましょう。あいつが居なくなれば、また魔物たちがこっちを狙ってきます』
『了解です。港に戻りますね』
バーバラさんの操舵で、ミスイへ向けて船を動かす。
全員かなりのMPを消費していたが、今日の稼ぎはクラーケンの槍を除いても2万Gほどになった。
クラーケンが撃破された事、魔獣が近海まで来ていて、精霊に外洋へ誘導してもらったこともギルドに報告した。一応、近海で活動する冒険者には注意案内を出すらしい。
当面はこんな感じで、大規模狩猟を続けて行こう。
大物も倒されたし、そろそろ魔物が動いたりしないかね?
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