第341話 占領された村
俺達は周囲に魔物が居なくなったことを確認したのち、村の跡地に向かう。
村を囲う堀は空堀で、石積みの低い壁はところどころに穴が開いていて、戦闘の激しさをもの語っている。
ちょっと空から見て回るというバノッサさんを見送り、近くの建物を物色する。
扉が壊されて開きっぱなしになっている家に足を踏み入れる。大きな魔力反応はすでに無く、家の中にはだたっぴろい空間だけが広がっていた。家具も含めて、動かせるものは根こそぎ持ち去られたようだ。
「きれいな物であるな」
「プロの引っ越し業者に成れますねぇ」
むしろこの綺麗さが狂気を感じるな。
「ドロップの中に箱詰めされた寝具があったのである」
「ベッド用の敷き藁1本すら残さず持って行きますからねぇ」
狭い部屋の中を見て回るが、遺留品はなさそう。
地下室は……無いか。典型的な平屋のようだ。そう広くない家、取り残された旅人が隠れているなんてことも無さそうだ。
しかし、ここにない物はどこに運んだんだろうな。勢力範囲からすると、クーロンを出て北に行ったか、それともホクサンへ運んだか……。
そんな事を考えながら家々をめぐっていると、バノッサさんから念話が入る。
『面白いもの見つけたから、ちょっと山側の大きな建物まで来てくれ』
俺達は南のふもとから山へ向かって攻めていた。つまり一番離れた建物になるわけだが……。
「なんです?これ」
その建物は恐らく村の集会所兼避難所だろう。造りからすると半分は村長の屋敷も兼ねていそうだ。
石煉瓦造りの平屋で、規模はかなり大きい建物が2つ、すっぽりともやに覆われていた。
「むぅ、魔物の使う魔術であるな」
「みたいですね」
感覚的には、目の前には何もない。魔力感知には引っかからないが、魔力視で見るとドーム状の結界があり、中に屋敷がある事が分かる。
「認識阻害の結界だな。俺達が使う
「ああ、そんな設備ありましたね」
原理は不明だが……おそらくは呪法や刻印に近い何かであろう。人の認識を阻害し、干渉を阻む結界だ。
「良く気づきましたね」
「違和感があったんで魔術打ち込んだ。ってか、その物言いだと見えるのか?」
「バノッサさんは見えないんですか?」
「ああ、俺にはそう広さの無い空き地に見える。向うの壁まで10メートルくらいか?」
空間が歪んでいそうな見え方だな。屋敷としては結構デカいぞ。
コゴロウには見えているから、原因は魔力視だろう。
「おそらく、魔力制御の差ですね。
「自前で魔力動かして魔術を使おうとか、狂人の発想だと思ったんだけどな」
そう言いながら彼は頭をかく。
自分ごと焼く戦い方をするバノッサさんに言われたくはない。
「んでだ、中級の対抗呪文や、
「……わかりませんが、やってみます」
退魔の上級魔術、雲散霧消が込められた俺の霞斬りであればこの結界を破壊できるかもしれない。
腰に差した霞斬りの鯉口を切ると、横一線の抜刀。
当たった先の空間が裂け、なかの様子がはっきり確認できた。
「見えた!……結構デカい建物があるな」
「ええ。でも……修復しますね、これ」
一瞬開いた結界であったが、目で追える程度の速度であるが確実に穴が小さくなり、5秒もしない間に完全に閉じた。
連続で切り付けてみると、最初より大きな穴が開く。けれど修復するのは変わらず。
ここから切り付けるだけじゃ、結界自体は破壊できないのか。
「通ろうとしてみました?」
「ああ、というか通ってみた。向うに抜けるだけだぞ。高速移動スキルのワープ系と似た感じだ」
「ふむ」
足を踏み入れてみると、本当にそのまま反対側へ突き抜けた。目の前には石垣の壁がある。
「侵入者を防ぐんですね。とりあえず実験してみましょうか」
しかし俺の手が触れた瞬間、それが反対側へ突き抜ける。
今度は投げ入れてみると、全部が結界内に侵入したところで反対側から放り出された。
……外からの侵入は防ぐか。
今度は霞斬りで結界を割り、その裂け目に素早く薪を差し込む。
結界は普通に閉じた。薪が両断されるなんてことも無い。その状態で押し込むと反対側からはじき出される。
続いて結界を割って、その隙間から中に薪を投げ込む。今度は結界の中に落ちた。
「……薪が消えたな」
「俺にはぼんやりと見えてるんですけどね。結界の中に落ちたみたいです」
……と、言う事は中に入れるな。
「中に入ってみましょうか」
「大丈夫か?」
「この手の結界って、多分コアは結界内にあるはずです。それを潰さない限り再生し続けますから、やってみるしか無いですね」
上級退魔魔術を広範囲にぶち込めま解呪されるかもしれないけど、今の所は手立てがない。
霞斬りは俺にしか使えないから、入るなら俺だろう。内側から斬れないという事もあるまい。
「コゴロウが見えてますから、問題が在りそうなら最悪救援を呼んでください」
まあ、そんなに凶悪なモノではないだろう。
魔物が戦いに用いず、あっさと撤退したことからも推測が付く。
「それじゃあ、行ってきます」
縦斬り一閃、視界が開けた瞬間に縮地で結界内に飛び込む。
「おおっと!?」
結界を完全に抜けた瞬間、想像よりも早く減速してたたらを踏んだ。
……高速移動スキルの妨害効果でもあるのか?
結界の裂け目は完全に閉じた。中から外を見る分には違和感がない。ただ出ようとすると壁がある感じで、外に出ることが出来ない。
「……問題無く切れますね」
「そのようだな」
中から斬撃で壁を切り裂くと、普通に声が通る。
逆に結界に穴が無い場合、声は届かないし念話も届かないようだった。通過するのは可視光だけかな?
サーチを発動するが、違和感があってうまく動作しない。
……建物の中は後回し、まずは中心に向かうか。
結界は円形で、サイズ的には直径50メートルも無い。
円の中心は屋外だ。こういうのは大体中心に核がある。
建物の合間を抜けて、中心部と思われる庭に向かうと、地面にうっすらもやの掛かった何かがある。
……これも認識阻害がかかってるのか。
一瞬、薪でもぶつけてみようかと考えたが、それで爆発でもしたら馬鹿らしい。
魔力を籠めた霞斬りを叩きつけると、あっさり割れた。ふむ、やはり退魔魔術で何とかするのが正解か。
もやがかかってよくわからなかった物体は、歪なひし形の石碑だったようだ。
それが真っ二つに割れている。触れても平気か躊躇していると、ぽろぽろと崩れて黒い砂に変わってしまった。
……結界が消えている。どうやらこれが核だったようだ。
これは……魔石の残骸か?
集合知では魔物が使う呪具の類という以上の事は分からない。どうやら研究者もよく分かっていないらしい。
一応回収しておくか。
『結界、解けましたよね?』
直接手で触れないようにスコップで砂を集めながら、二人にメッセージを飛ばす。
『ああ、こっちも確認した。それでだ……人がいるな。右の大きな建屋に8人、左の元村長宅に5人、全員成人っぽい』
そして予想外の言葉が返ってきた。
『おっと、それは想定外。捕まっていた人かな?』
このエリアは探索に出た斥候が行方不明になっている。捕まっている可能性は十分にある。
それから
『……邪教徒ではないであろうか?』
『可能性は無くは無いです。でもそれならすぐに動き出すのではないですかね』
邪教徒なら捕まってるわけじゃないし、外くらい観測しているだろう。
バノッサさんの声からするに、すぐに動き出している感じじゃない。
『とりあえず、人数が少ない方から確認してみるか』
『賛成です』
出来れば敵じゃありませんように。
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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