第342話 捕虜を解放した
村長宅の扉をノックするものの、中から反応は無かった。
「罠とか無いですよね?」
「しらねぇ。サーチの魔力におかしなところはないから、あるとしても物理トラップだろ」
「斥候職の誰かを連れて来るべきだったであるか」
「……まぁ、仮にも自分たちが使っていた拠点にそんな大そうな物仕掛けないと信じましょう」
大がかりな罠を仕掛けるなら、隠匿していた理由が分からないし、後は防御力を信じよう。
村長宅の扉に、カギはかかっていなかった。
扉はうち開き。中は玄関で、扉は3つ見える。ワンルームじゃないのは、さすが村長宅と言った所か。
「ひとの反応はまっすぐ進んだ先の部屋だな」
正面の扉をずらすと廊下が続いていた。この扉、普段は開けっ放しなのかな?
日本と違う造りにちょっと違和感を感じる。
警戒しながら先に進むと2つ先の部屋に魔力の偏りが見えた。
「斬りますか?」
「いや、
バノッサさんが解呪を行い、扉をノックする。中から反応は無い。
「開けますよ」
一番防御力の高い俺が扉をスライドさせる。
ゆっくり開くと、目の前に熊が居た。
「……くまー?」
なんでだっ!
思わず刀に手をかける。
「に、人間!?」
驚いたように声を発したのも目の前の熊だった。よく見ると貫頭衣っぽい服を着ている。
……熊の獣人さん(顔も熊タイプ)ですかね?
他にも4人の女性が――後で確認したが熊の人も女性だった――閉じ込められていたのだった。
………………。
…………。
……。
捕まっていたのは、この周辺エリアの探索に出ていた軍、冒険者の混成チーム13人だった。年齢はみな20から30台。2次職は3名、若手は1次職。
男女別に分けられた後、押し込められた建物の中で略奪された備品の整備や洗濯をさせられていた。
「まさかこんなに早く助けが来るとは思わなかった。ありがとう」
彼らは8人づつのパーティーでこの周囲を索敵していて捕まったらしい。
相手をしたのは予想通りライカンスロープ。名前は知られていないが、恐ろしく強い魔物として最近は話題に上っていたらしい。
「5人ほど足りませんが」
「無事に逃げられたか、それとも別の拠点に連れて行かれたか……あるいは死んだか」
全員に確認したが、いない人達がどこに行ったかは不明らしい。
……もしかしたら、ホクレンに戻っているかもしれないな。俺がこのエリアの話を聞いた時、行方不明のパーティーは一つだったはずだ。
「村は奪還しましたが、壁は穴が開いていて防衛には向きません。ホクレン帰還してください」
魔物も負傷者の治療は行ったようで、幸い動けない人は居ない。
村からホクレンまでは30キロほどあるはずだが、走ってたどり着けない距離でもない。
「む……そう言えば静かだが、一体どれくらいの戦力でここを?」
「ここにいる3人ですよ」
「……は?」
全員が『正気か?』という顔をした。
「ここに居た魔物は100では利かなかったろう?」
「歯ごたえが会ったのは、ウォルガルフ含めて数匹なのである」
「というか、あいつだけヤバかった。残りは標準的な魔物でしたよ」
「1000G級が何体も居たと思うが」
「3次職二人に2次職後半1人ですよ。一人は術師は賢者系のベテランですし、驚くほどではないでしょう」
「……3次職の戦いなど見たことが無い」
なるほど。
「魔物たちは東にいった魔物たちの集合地点としてこの村を拠点にしていたようだ。早く出ないとまた魔物が戻って来るぞ」
「……あたしらはごめんだね。ホクレンに戻った所で、軍が実権を握っていてギルドが機能しちゃいない。また言い様に使われるだけさ」
そう言ったのは、長老の家の方に居た熊の姉さんだ。
彼女は冒険者パーティーのリーダーだったらしい。
「それに、近々大きな攻撃をするっていう話だ。戻った所で、装備の無いあたしらに何が出来るってんだ」
彼らは稼ぎを求めて都市国家群から遠征していた冒険者らしい。
軍と違って、命がけでホクレンの防衛に参加する斬りは無く、メリットも薄い。
軍の士官は不満そうだが、無理やり引っ張っていけるわけでもない。俺達が冒険者だと聞いて、無理を言うのも立場が悪くなると考えたのだろう。苦虫をかみつぶしたような顔している。
色々と気になる情報もあるな。
「俺たちはまだしばらくこの村の周囲を探索します。先ほど倒した魔物のドロップの中に、使えそうな装備があったので提供しますよ」
何せ彼らは服も簡易なもので、靴も履いていない。
魔物のドロップの中には衣類や草履などの日用品が存在した。持っていても
『軍と一緒にホクレンに戻るつもりがないなら、少し個別に話したいので残ってもらっていいですか?』
裏でこっそり熊獣人の女性――グロースさんというらしい――に念話を送って、口裏を合わせてもらう。
クーロン兵だった7人は、ドロップと家に残された備品の中かから使えそうな装備を受け取って村を出て行った。2次職が二人いるし、何とかなるだろう。
「それで、話ってのは何だい?」
グロースさんは2次職で4人パーティーのリーダーらしい。女性が3人、男性が1人。それから女性1人と男性2人の冒険者パーティーがもう一組。このうち、男性一人が行方不明で、残ったのは女性4人に男性2人と。
とりあえず、同じくドロップと館に残されていた備品で身なりを整え、今後の方針を相談している。
「さっき話していた、東の魔物の集合と、ホクレンへの攻撃についてです」
詳しく話を聞くと、魔物たちの話を盗み聞きしたらしい。
現在ホクレンの攻略を指揮しているのは、
まぁ、ウォルガルフがプリニウスの部下って言ってたからなんとなく予想はついた。
「なんでも、ホクレンを攻めていた部隊が大敗したらしい。それでボスが直接攻め入ろうとしているって話をしていたね」
「なるほど。また頭の悪い話だ」
原因は俺達が大亀を倒したからかな。
村への攻撃が拡大しているから、長期戦をするつもりなのかと思っていたが……足並みがそろっていない?
「ふむ。真っ向勝負をするつもりなら話が早くて良いのであるな」
「それだけ被害も出そうだがな。ウォルガルフは3対1なら何とかなるとしても、
氷獄解呪のため、是が非でも経験値が欲しいバノッサさんは大物を狙う気マンマンだが、それでも七魔星クラスと戦うのは躊躇するらしい。
「東に行った魔物を呼び戻してるってのは?」
「その話を聞いたのは昨日の晩なんだんだけどね、ホクサンの難民を追いかけてた部隊が居たらしい。それを呼び戻したんだってさ」
「よくそんな話を聞けたであるな」
「あいつら、あたしらがここに居るの何て気に気にしちゃいなかったからね。スキルも使えなかったし、油断していたんだろ」
「なるほど……スキル、使えなかったんですか?」
そう言えば、助けた時彼らには枷はついていなかった。
グロースさんは武闘家らしい。無手でも十分戦えると思うのだけど……。
「そう言えば、あんたらどうやって結界を突破したんだい?あたしらじゃいくら殴ってもダメだったし……そもそも結界内じゃスキルは使えないし、ステータスもほぼ封じられるから、抵抗しても無駄って言われたんだけど……」
「おや?」
3人で顔を見合わせる。
「……ワタル殿、よく平気だったであるな?」
「……そんな変な感じは……いや、入った時に縮地の動きがおかしかったか」
後は霞斬りの性能に任せてぶった切ったからな。気づかなかったのはそのためかな?
「危なかったのは置いておいて、皆さんこの後はどうします?」
「街道を北に行って、ウィダルケンあたりを目指すか、魔物をやり過ごして東に向かうか……難しい所だね」
「仲間がどうなったのか分からないので、襲撃された辺りを調査したいです。……もしやられていたら弔ってやりたいですし……見つからなければ、ホクレンに戻る際にご一緒させてもらえませんか?」
もう一組のパーティーは、捕まっては居ないもう一人を探したいらしい。
ふむ。どちらも手を貸せるし都合が良いかな。グロースさんが東に言ってくれるなら、狂信兵団に連絡を取れるかも知れない。襲撃場所の調査も問題無い。
ただ、戦力的にちょっと不安はある……かな。
俺としては東から戻って来るらしい魔物は潰したいし、この村で1泊や2泊はしても問題無い。
補給は足りてるし、ここなら軍の目は届かないから、受送陣を使うことも可能。タリア達に送った手紙の受信が出来るかもしれない。飛行船を呼び寄せることも可能か。
……よし。
「ここであったのも何かの縁です。魔物に一泡吹かせるのに、力を貸してもらえませんか?」
不安がある程度払しょくできるくらいに、ちょっと手を出しておきますか。
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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