第343話 廃村拠点化計画

「それじゃあ、バノッサさんは引率をお願いしますね」


とりあえず立てた作戦はこうだ。

グロースさん達には西に向かい、アース狂信兵団への連絡を頼む。

俺達はこの村を拠点化してタリア達や狂信兵団と合流、東に行った魔物が本隊と合流するのを防ぎつつ、ホクレンへの攻撃が始まった段階で北側から魔物の軍勢を強襲する。


その為の準備として、グロースさん達には確実に伝達をこなせるようレベルを上げてもらう。

もう昼を過ぎているので、東に向けて出発するにしても時間が遅い。食料は足りているので1泊はこの村にとどまるのに異論はないと確認した。

もう一組の冒険者、シャンさん、ムーさんの二人も同じく。MPによってはとばりの杖を使う事も考えて、バノッサさんに付き添いをして貰っている。


「護衛はそれがしで良かったのであるか?」


「バノッサさんに受送陣は見せられないですからね。コクーンの話に発展したらパッパラパーに成りますよ」


「そうであったな。……しかし彼なら、聞くなと言えば聞かないのでは?」


「確かにそんな気はするんですけどね。まぁ、クトニオス攻略の前に時の迷宮攻略になると思うので、もうしばらくの辛抱です」


村長宅の一室に二つの受送陣を設置する。

一つはホクレンでも使った直径30センチほどの小型の物。起動するとウォールに設置してある陣から小箱が送られてきた。

中身は手紙と、バーバラさんに準備をお願いしたMPタンクのアクセサリ。無事にウォールにたどり着く事が出来たらしい。


「……向こうは無事について、子供たちは商会の方で面倒を見ているみたいですね。頼んだ資材の準備は終わってるみたいです」


「便利な物であるな。受送陣で連れてくるであるか?」


「悩ましいですね。受送陣の方が安全ですけど、飛行船を動かした方が説明が楽だし、全員を連れて来れるからそっちかな。とりあえず、一回行って話してみます」


「ふむ。……そう言えば、領主スキルに引っかからないのであるか?」


「……どうなんでしょうね」


領主のスキルは、外部から防壁範囲内に侵入した者、出た者を感知できる。ホクレンでワープを使って外に出た時に、軍が把握していたのはこのためだ。

ただ、魔物はともかく人間は詳細な位置までは分からないはず。


「どちらにせよ、向こうで関係者以外に見つからないように注意するのである」


「俺が商会に居る分には問題無いと思いますけど」


「門をくぐってない人間が中に居たら問題であろう。少なくとも、フォレスなら監査でバレるのである」


「……その通りですね」


えっと、今使えるスキルに姿を隠すものは……無いか。

しかたない、ずっとヘルメットをかぶって居よう。


「送信をお願いします」


150センチで作った中型の受送陣の上に座る。


「……前も思たが、不思議な座り方をするであるな」


「体育座りと言いまして」


ぶっちゃけ普通に胡坐をかいて座れるサイズなのだが、なんとなく落ち着くのだ。刀を抱えられるし。


「それでは起動するである」


コゴロウが魔法陣に触れると、受送陣が起動して余剰光が発生する。

完璧にコントロールできている陣なら、この光も発生しなくなるはずなのでまだまだ造りが甘いな。

そんな事を考えていた次の瞬間、一気に視界がブレた。


………………。


…………。


……。


「……うぉ、めっちゃ酔う」


一瞬の間の後、視界が切り替わって見たことのある部屋に切り替わる。

けれど感覚が着いて行かず、ちょっとめまいが……まだまだ造りが甘い。


「ワタル!大丈夫?」


「あ、ああ、タリアか……ちょっと酔ってるだけ。想定内だから大丈夫そう」


部屋に居たのはタリアだった。


「……ふぅ、無事に帰り着いたようでなにより。他の皆は?」


「バーバラは下でまた金鎚を振るってるわ。今日はアーニャが外に出てる」


誰か一人は交代でこの部屋で待機していたらしい。

部屋に置かれたテーブルの上には、水の入ったグラスや蠟燭、キューブなどが放置されている。精霊と更新していたのかな。


「辺境伯に侵入を気づかれてるかもしれないから手短に。ホクレンの北東30キロに、今回の戦いで廃村化した村を奪還した。軍が居ないからそこを拠点にして、人を集めて魔物側に反攻をかけたい。飛行船で合流できる?」


「飛行船はいつでも飛ばせるわ。必要なものは?」


「食料と武器防具。それから生活に必要な日用品。商会から装備を調整できる技師を連れてきてもらえると助かる」


「わかったわ。すぐに渡せるものもあるわね、ちょっと待って。バーバラ?ワタルが来てるわ』


『ワタルさんが?ちょっと待ってください、今手を離すとまずいので』


しばらくは念話で状況を話す。


『今、私の手持ちで用意できそうなのは、剣が3本、槍が2本、ナイフが5本。どれも付与魔術が入る程度で調整してあります。それから、矢が100本とラウンドシールドが2枚は行けます。それ以外は商会の方にお願いしないと難しいですね』


『了解。それは今持って行くよ』


『ご飯も作り置きがあるから持っていく?』


『助かる。結構撒いちゃって。バーバラさん……素材はある?』


『インゴットで良ければ』


『鉄とアルミ、石英、それに木材を少し貰える。向うで加工する。向うに6人ほど、装備がちぐはぐな冒険者が居るんだ。それ以外にも30人ほど、半難民の兵士が狂信兵団の一員で加入してる』


『フリーサイズの防具も準備します』


商会が予備として確保している装備がある。それを調整すれば、使える物になるだろう。


「資材の準備に時間がかかると思うけど、合流は明日で良い?」


「構わない。夜に飛ぶのはさすがに危ないと思うし」


「なら、ウィダルケンだっけ?あそこを越えたら、わたしが千里眼でその村を探すわ。目印になる物を後で送るから、村の広場か、高い建物の屋根に掲げて」


「気が利くね。了解。今のところは大丈夫なハズ」


着陸地点の整備、運ぶ物品の詳細などをこまごまとした内容をタリアと相談して詰める。

普段持ち運んでる毛布などの日用品は俺が回収して持って行く。必要なものを詰め込んでいたら、なんだかんだで1000キロ以上になった。……ベッドまで運ぶ必要は無いか?


「無理言ってでも、明日の夕方には合流できるようにするわ」


「ありがとう。いつホクレンへの攻撃が始まるかも分からないから、準備はそこそこで構わない。一人だけ、受送陣を使える亡者の人をこっちに残しておいて」


「わかった。お願いしておくわ」


「バーバラさん、辺境伯がこの転送に気づいたか、それとなくウォールの中で話を聞いてもらえる?」


「わかりました。出発の連絡ついでに、勘ぐられない程度に調べてみます」


二人に見送られつつ、小一時間ほどでクーロンに戻る。

……うぐ……やはり酔いがちょっとキツイ。


「大丈夫であるか?」


送られた時と同様、コゴロウが迎えてくれる。


「ええ、今度作り直しが必要そうですがなんとかです。装備と、日用品などをもらってきました。村の整備を始めましょう」


ここは廃村なので魔物からの防御が極めて薄い。下手をすると村の中でも物が魔物化する。

堀と塀を直して、荷物は小結界キャンプの付与で守る。ダンジョンで使ったペイント方式の応用で、外でも魔物化が防げるのは確認済みだ。

アーニャが居れば盗賊スキルで何とかなるのだが、合流するまではこれでしのごう。


時間は無いけどやることはたくさんだ。手を動かさないと、ホクレン攻めが始まっちまう。

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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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