第340話 銀牙のウォルガルフ 3

めちゃくそ痛ぇ!

吹き飛ばされて数回転、ゴロゴロと前進を地面に打ち付けながら、無限と感じられる時間を何とかやり過ごす。

ばっかじゃねぇの!あの野郎、こっちの直撃を受けた後に蹴りで反撃敷いてきやがった!

向こうも吹き飛ばされたが、こちらも防御出来ずにかなり良いのをもらった形だ。


ようやく止まった所でステータス確認。

……っ!今のでHP1割持ってかれてる。10回殴られたら死ぬってか!


「ワタル!大丈夫か!?」


「……幸い怪我は無いです!」


駆けよってきたバノッサさんを横目に身体を起こす。

むっちゃ痛かったけど、それだけだ。幸いHPが削れただけで肉体的な損傷はない。

削れたHPを回復したいところだが、MPが半分を切ってる。さすがに消費が馬鹿にならない。


吹き飛ばした狼野郎の方に目を向ける。クリーンヒットだったはずだが……蹴り返してきたって事は倒せちゃいない。

身体を両断出来ているようならスリップダメージで死ぬかも知れないが……


「がぁぁっ!……くっそ!久々に痛ぇ!」


炎裂砲フレイム・カノン!」


ウォルガルフの雄たけびに、バノッサさんが問答無用で魔術を打ち込み、それが爆炎をまき散らす。

やっぱり倒し切れるよなダメージに成ってないか。

ウォールでディアボロスの腕切り落とした時よりも、ずっと切れ味は良いはずなんだがな。


「情緒がねぇなぁ!」


倒れたままのウォルガルフは、しかしそれを蹴り上げて防いでいた。


『真正面から撃ってもダメですね』


『……みたいだな。だいぶ相性が悪い』


魔術は発動していた。しかし魔力の流れを見るに、ウォルガルフにダメージを与えるの効果は打ち消されているように見える。


「俺様にこんだけダメージ与えたんだ、どっしり構えてろや」


身を起こしたウォルガルフは、左肩から袈裟懸けに銀色の毛並みが大きく裂け、焦げ跡と共に地肌が露出している。こちらの攻撃はちゃんとダメージに成っているようだ。

しかし……雷撃で焼けた毛並みから除く肌は狼、つまりつまり哺乳類を模した物とは違い……。


「……鱗?……甲羅か!」


目を凝らしてみると、1枚一枚は親指第一関節分くらいの大きさの甲羅が、感覚を開けて肌を守っていた。


「よっと……ご名答だぜぇ。こいつの硬度は鉄じゃきかねぇ」


亀の甲羅は背骨とアバラだろうに。狼人の皮膚にはえているとかどうなってやがる。


あれはつまり、天然の鎖鎧チェインメイルのようなものだ。その存在は普段、隙間から生えた長い銀色の体毛に隠されていて確認できない。斬りつけてもその硬い甲羅が邪魔して、身体を深くまで傷つけることが出来ないのだろう。

刺突系スキルなら隙間を塗ってダメージを与えられそうだが、斬撃が利かないとなると途端に難しくなるな。


「ご丁寧にどうも。それでもダメージがあると判断したから受けてるんだろう? 炎はやせ我慢か?」


相手の動きを警戒しながら刀を構える。


「手の内分からねぇのに、受ける馬鹿もいねぇだろ」


「……魔物のくせに立派な事で」


なんともやりづらいな。

ダメージが無いなんてことは無いのだろうが、それでも向うにはまだ余裕があるように見える。

傷が消えて行かない事から、超回復系統のスキルは有していない。やはり対抗魔術によるスキルの無効化と高速移動を用いて肉弾戦をするタイプだな。魔術師系とは極端に相性が悪い。


無効化の度合いも、中級魔術ぐらいなら余裕をもって打ち消せるのだろう。

そして上級や伝説級を唱えさせないスピードがある。バノッサさんの最大火力は再魔砲リユース・カノンだが、これは打ち消しと極めて相性が悪い。

こいつ一人を相手にするにしても、今の二人だと倒すにはちょっと足らない。俺の剣術がコゴロウレベルならまだ分からなかったが……舞踏魔技アーツ魔操法技クラフト、呪法を駆使しても出し抜けるかどうか。


『バノッサさん、相手の動きを制限するデバフはありませんか?』


『ステータスダウン系は当たらないだろ。雲系クラウドが利くかは怪しい上、今は良いがお前を巻き込む。後は……使ったこと無い時魔術は効果が分からん』


集合知にほとんど情報が無いから、俺も時魔術については詳細が分からない。

覚えたスキルはステータスから効果の参照が可能だけれど、何がどんなふうに起こるか完全に把握できるような記載ではない。


『どちらにせよ魔力の流れを見てるっぽいあいつに、単発で当てるのはまず無理ですね。さてどうしたモノか』


ビットは恐らく役に立たない。フェイスレスに変わる人形は作ってないし、土人形クレイドール岩人形ロックドールは多分発動が遅すぎる。手数が足りない。


……だがあちらも打つ手が無いのは同じか。

技量は及ばないが、それでもトレーニングの意味はあった。バフ魔術のおかげでインファイトの攻防について行けている。

コゴロウが合流できればかなり楽になるはずだが、あっちは大丈夫か……?


互いににらみ合ったまま十数秒。

このまま続くかと思われた硬直は、しかして状況は別の所で動いた。


『討ち取ったり~~~~っ!』


「……ちっ、向こうがやられたか」


念話を通じて聞こえるコゴロウのでかい声。どうやら大物を仕留めたようだ。


「さすがに俺一人じゃ分が悪いな。いったん引かせてもらうか」


「……逃がすとでも?」


こいつは間違いなく幹部クラスの大物だ。ここで倒してしまいたい。


「ああ、逃げるだけなら何とでもなるからな。……亀をやられてうちのボスはだいぶご立腹だ。ホクレンでまたやろうぜっ!」


そう言うと同時に高速移動スキルを発動させる。

こっちに突っ込んで!迎撃するしかないじゃないかっ!


飛翔斬を発動。それと同時に縮地で前へと飛び出るが……。

ウォルガルフは飛翔斬が当たる直前で向きを変えると、それを交わして真横へ駆けていく。

っ!そっちはコゴロウの居る方!


炎裂砲フレイム・カノン!」


バノッサさんからの狙撃は……当たってない!


『コゴロウ!そっちに大物が行った!』


『む!?』


縮地で背後まで距離を詰め、魔投槍マナ・ジャベリンを発動。

しかしウォルガルフは地面を蹴って一回転し、それらを打ち消す。


「笑止!血華斬!」


「そいつは痛ぇやな!」


目の前に迫ったウォルガルフに、彼は回避と攻撃を同時に行う上級スキルを発動する。

しかしウォルガルフはそれをあえて受けると、スピードを上げで駆け抜けた。


「なっ!待つである!」


「こいつらは連れてかせてもらうぜ!」


背後に回ったコゴロウの刃は当然届かない。

残っていた魔物――おそらく価値が高いであろう2匹――をそのままの速度で抱えると、スピードを落とさず遠のいていく。


『追うか?』


『いや、無理でしょう』


言っているそばから敵が影へと沈んで行く。ああなってしまうともう追いつかない。

高速移動スキルを持って本気で逃げる相手を捕まえるなら、高速移動スキルを封じる結界系スキルが無けりゃ話に成らない。


『雑魚がドロップを持って散っていくのである!』


『そっち優先で方しましょう』


残っていた数百Gの魔物たちも散っていく。この拠点を守るつもりはないらしい。

逃げていく魔物を確実に仕留め、ドロップを回収していく。


残っていた魔物を殲滅するのには5分とかからなかった。

倒した魔物の中に奴隷が核だったものはおらず、ドロップ品の総額も10万G相当は軽く超えただろうか。それでも痛み分けと言った所。


実力不足を肌で感じる戦いだった。

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展開を修正していたら昨日は投稿間に合いませんでした。どこかで2話投稿できるように頑張ります。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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