第399話 魔獣・ロックドラゴン

陸竜・ロックドラゴン・カトプレパス。

厄災の異名である陸竜の名を冠する魔獣であり、石化の力を有し、カトプレパスの名を与えられた巨大なロックドラゴンである。


「今は最北の竜が活動期。カトプレパスはあと10年は目覚めぬハズであったが、なぜかそれが目覚め我々の集落を襲ったのだ」


死の大地に生息する竜は3体。それぞれが300キロを優に越すなわばりを持ち、その一部は重複しているが、活動期間が違うことによって互いに衝突する事無くこの地の平穏を保っていた。

彼らの話す通り、今は北側の竜が活動している時期て、王国でもそれを把握している。逆に現在位置はその縄張りから外れており、安全に通行できるはずのルートであったが……。


『これは殿下も交えて協議の必要がある』


急遽、簡易天幕が張られると、アルヒェ・グラナードの民も交えて作戦会議が行われることとなった。

渇望者たちクレヴィンガーズの4人は全員参加である。


「ここまで会敵もせず引き返すなど、騎士団の恥さらしも良い所ぞ。竜とて生き物!我らが力を併せれば退ける事など容易い」


「しかし開いては厄災の象徴。それが出来てたとしてもこちらの被害がゼロとはいくまい。その後の魔物との戦、そして何より帰りをどうする?」


会議は概ね『このままルートを進む派』、『南にそれて竜の縄張りを避けて進む派』、『流民を連れてエーデに引き返す派』の案に分かれており、紛糾していると言っていいだろう。


このまま進む問題点はカトプレパスの脅威。ザース到着までに消耗する可能性があり、本番にどれだけ支障が出るか未知数。また帰りにも同様の問題が発生する。


南にそれるルートの問題点は補給と魔物。迂回ルートの為日数がかさめば食料が足らなくなるし、南にカトプレパスの縄張りを抜ける所まで進むと、大陸を東西に分けるシガルダ山脈に近づくことに成る。この辺りは魔物の支配地域て、見つかれば組織だった魔物の襲撃を受けるのは避けられないだろう。


引き返すせば作戦は失敗になるモノの損耗は無い。ただ、流民をどうするかは問題。騎士道精神にあふれる方々にとっては、このまま見捨てていくのは忍びない。しかし連れてでは行軍は劇的に落ちる。カトプレパスの縄張りを抜けるにも数日かかるであろう。リスクは高い。


『なあ、ワタル。そのカトプレパスってのはそんなに強いのか?』


『そうだね……集合知の情報で言うと、ちょっとどころじゃなく勝つのも撃退するのも難しいかな』


さて、何処から説明したものか。


『まず、ロックドラゴンって魔獣。名前の通りドラゴン種の一種』


見た目はイグアナに近い。

卵生で生まれた時は1メートルほど。成獣の大きさは10メートルから20メートルで、一般にメスの方が大きい。ほとんどのドラゴン種と同じく変温動物に近い特徴を持つ。

雑食性でなんでも食べるが、主食として必ず食べるのは鉱物元素を多く含む石や土など。このため悪食ではあるものの、食への執着は薄くドラゴンの中では大人しい方に分類される。希少金属の鉱脈に住み着いている場合があり、その時は例外的に縄張りを守るため人と衝突する場合がある。


身体を覆う鱗は金属質で、接種している鉱物によって微妙に色が違う。

多層構造により硬度と強度を両立していて魔力密度が高い。このためロックドラゴンの鱗は貴重な素材となる。しかしその硬度から討伐の難易度は高い。職業が与えられる以前の人類には狩ることが出来なかった魔物であり、現在でも討伐するには3次職以上が複数人必要とされて居る。

個体によって差があるが、瞬発力は有るものの持久力は無い。このため相対した時に逃げることは可能。


地中で生活する個体が多いためか、聴力がもっとも発達しているといわれる。地中から地上の獲物や外敵を察知する事が可能。目と鼻が悪いわけでもなく、主に地上で活動する変わり者もそれなりに居る。


『3次職が複数人って……どんな生き物だよ』


『びっくりだよね。まだ生存している魔獣は全部似たようなかんじだけどさ』


魔獣は魔物と違って野生動植物に分類されるわけだが、さらに言うなら魔力を扱う生物の総称である。

恐らくは進化の過程で魔術刻印が体内に固定された生物。生態は種族によって異なるが、いくつかの共通点はあり……。


『その一つは、体表面に魔力の層を帯びている事。これがかなり厄介なんだけど、その理由はスキルや魔術の特性に起因する』


スキルや魔術は、その発動形態に従って2種類にわけられる。

一つは起爆型。これは魔弾マナ・バレットなどほとんどのスキル・魔術が分類される形態で、発動前の術式を飛ばし、一定以上の魔力密度を持つ物体に接触することで起動するという物である。


起爆型のメリットは距離による効果の減衰が無い事。術者から放出されるように見えているほとんどのバレット系やアロー系も、当った所から効果を発動する。このため有効射程内でなら威力が変わらない。

暴風系などの範囲魔術も、破壊力の大半はこの起爆型が占める。


もう一つは余波型。これは投石や石弾ストーン・バレットなどごく一部のスキルや魔術があたる。

発動後の余波が効果の主体であり、距離によって威力が減衰したり重力の影響を受けたりする代わりに、魔術無効化ディスペルで打ち消されづらいなどの特徴を持つ。


『起爆型のスキルは魔獣が纏う魔力層に振れた時点て発動する。してしまう、というべきかな。魔力層の厚さはロックドラゴンだと十数センチから数十センチ。例えば魔弾マナ・バレットだと、“数十センチ先から押し出した空気の塊”がダメージ元。質量が小さすぎてダメージに成らない』


武器強化・疑似刀身を作り出す理力の剣フォースソードや、錬金術師が使う念動力、束縛糸バインドなんかも広義の起爆型である。


『魔力層に物理的な防御力は皆無だけど、魔力層は魔素の操作を阻害する……層の内側は魔獣側が魔素をコントロールしているから、起爆型の魔術は全てこの境界を突破する事が出来ない』


スキルや魔術は効果が大きくなればなるほど広義の起爆型に成る。大きな破壊をもたらす上級とか伝説級の術は特にだ。


『ちなみに、この魔力層は人類や魔物にもある。ただしどちらも体表面とほぼ同じだね。だけどそのおかげで、体内を直接破壊する、みたいな魔術やスキルは存在しない』


念動力で脳や心臓を直接破壊、なんてことが出来ないのはこのためだ。

この性質は生物だけじゃなく、有機物無機物問わず、密度の高い物質ほど強固である。そして、物質の内部の魔素が外から影響を受けづらいという性質があるため、魔術回路などはこの制約を変質させて、術を物質に固定しているわけだ。


『興味深い話ですが……それだと回復魔術はどうなるのでしょう?』


おっと、珍しくバーバラさんから質問が。


『良い観点ですね。回復魔術も、俺が最近使い始めた物質移植マテリアル・インプラントなんかもそうですが……どうも、これらは対象の術は対象自身の魔素支配を改変ハックしてるっぽいんですよね』


この難易度は極めて高い。それこそ、エルダーたちが人の身では無理だ、と言うほどだ。

ちなみにエルダーを始めとする進人類ネクストたちも、他者への回復を魔操法技クラフトで使うのは無理らしいので、人類が扱うのは無理だろう。

俺も試しに愚者の時間タイム・オブ・ザ・フール中に治癒ヒールを再現しようとして、一瞬でぶっ倒れた。脳の計算リソースが圧倒的に足らないようだ。


『まぁ、そんなわけで魔術の多くの影響を受けづらい魔獣だけれど、それに加えてロックドラゴンはデカくて重くて、さらにただただ鱗が固い。たったそれだけのことで格段に強くなる』


ただでさえ強いロックドラゴンだが、カトプレパスと呼ばれている個体はさらに異常だ。

集合知にある情報だと、体長は50メートルを超える。ゴジラかよ。

そしてデカくなった分装甲が厚くなり、生半可なスキルじゃダメージすら与えられない。それに人間が使うサイズの武器じゃ大きさが足らない。金属鎧で武装した騎士を画鋲で刺し殺すのは無理だ。それくらいの差がある。


『襲われたら……お手上げか?』


『それだったら俺もここでのんびりしてはいないよ』


当然欠点もある。

こいつも他のロックドラゴンと変わらず、基本的に瞬発力は有るが持久力が無い。襲撃されても高速移動スキルを使えば振り切ることは可能。俺たちだけなら、影渡しシャドウ・デリヴァーを連発することで逃げ切る事は出来るだろう。

流石に200人の軍を全員転送するにはリソースが足りないので、騎士団には騎士団で何とかしてもらいたい処だ。


『ふむ。それであれば遭遇したらスキルで逃げて進軍ということか』


『そうですね。ちなみに遭遇は確実でしょう。何せ、この死の大地で一番うるさいのは装軌車両我々ですから』


騎士団もそれが分かってるから動きださずに対策を練ることになったのだ。

アルヒェ・グラナードも我々とかち合う方に逃げるとは運が無い。


「この遠征の発案者でもあるリターナー殿にも、一つ見解をいただきたいのじゃが」


おっと、半分現実逃避して念話で話していたらお呼びがかかった。

話半分だったが、進むか戻るかが話の主体のようだ。


「そうですね……装軌車両やゴーレム騎兵の速度と、殿下と巫女の能力を用いた索敵があれば、例え陸竜に見つかっても逃げ切る事は可能だと思いますが……」


俺の言葉にみんなの視線が集まる。シュタルクと名乗ったライオン獣人と目が合った。


「……そこのシュタルクを殺しましょう」


思わず本音が出た。


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