第400話 アルヒェ・グラナードの罪
「よしよし、は~い落ち着てな~。姉さん居ないんだから、嫌なことがあったらちゃんと相談するだぞ~」
「ごめん、悪かったからさすがにやめて。恥ずかしい」
我慢していた本音が出たら、即行でアーニャになだめられた。
空気が重い。奇人変人を見るような視線が刺さる。……シュタルク、てめぇは許さねぇけどな。
「あ~、失礼。取り乱しました。ええ、私は正気です。コゴロウ、抜刀準備やめて。騎士の皆さん臨戦態勢に成ってるでしょ」
「む、斬らなくて良いのであるな」
判断が早すぎるんよ。うちのパーティーとかクラン、俺に寄せる変な信頼がたまに怖いと感じるね。
「すいませんね。ちょっと神の意向が悪さをしました。陸竜ですよね。さっき言った通り、被害を出さずに逃げ切るのは可能な範疇ですから、騎士団が引くとしても私たちは行く予定です。そう言う契約ですしね」
もともとザースのモニュメント攻略は、クトニオス攻略の足掛かりでしかない。
「……ふむ。リターナー殿は逃げ切れると判断すると」
気を取り直したゴールドスタインは、俺の意図を確認するように返した。
「はい。他のロックドラゴンと同様、カトプレパスも持久力はそこまでありません。デカいので移動速度はそれなりに有りますが、平均速度は装軌車両の半分くらいですかね。瞬発的にはもっと出ますが、10秒も続けばいい方。
彼らの編成が分からないから明言は出来ないが、闇の魔術師、もしくは大魔術師が居れば一人で装軌車両3~4台は一度に転送できるだろう。2回の転送で2キロも離れれば、後は装軌車両の最大速度で逃げ切れるとの見立てを伝える。
「であれば先に進むのは選択肢に入るな。……しかし彼らはどうする? 恐らく装軌車両の振動は感知されているだろう。我々が逃げ切ったのち、彼らが襲われる可能性は十分にあるじゃろう」
無辜の民を見捨てるのは騎士の誇りにかかわると声が上がる。
気持ちは分かる。俺だって別にアルヒェの人類全員を見捨てたいわけじゃないが……。
「……死体にすれば陸竜を足止めするエサくらいには使えるかもしれませんね」
シュタルクと目が合って殺意が出た。
「落ち着け~、ワタル~、バーバラ姉さんの胸でも揉んで落ち着け~」
「なんで私なんですかっ!」
「いや、揉まないからね」
アーニャが気をそらしてくれるが、その反らし方はダメだと思うのよ。
いや、こんなところで彼女に負担をかけてる俺の方がダメダメか。気を強く持て。
「……キサマ、我らが一体何をしたと……」
「エリック・クリプトン、ロディー・I・ウィズリー、グラームス・ドートマン……」
俺が告げた名前に、ゴールドスタイン卿が顔をしかめる。
シュタルクの表情は分からない。
「マーグス一党は盗賊なのでまぁ良いとして、一番罪が重いのは22年前、政争に敗れて死の大地から東へ亡命しようとしたリヴィエール王国のサルマン伯爵とその息子、それに護衛合わせて8名を殺害。妻と侍女への強姦あたりでしょうか。リヴィエールは東大陸国家連合の加盟国ですし、サルマン伯爵はあまり素行の良い人物では無かったとは言え、
集合知にはプライベートな情報は記録されて居ない。
しかしそれは、あくまで神の不評を買わない範囲で、である。
「
知らなければよかった。知らなければ平静でいられた。
でも、知ってしまったらもう引き返せない。
「……なにをバカな」
「残念ながら、
成り行きを見守っていた騎士たちが一斉に剣を抜く。
「真偽が取れた。拘束させてもらうぞ」
やはり真偽官は同行していたか。
「それならそっちの、ムーティヒとプレヒティヒも一緒にとっ捕まえておいた方が良いですよ。余罪も多い」
そう言った瞬間、シュタルクたちが動き……。
「グハっ!?」
次の瞬間にはシュタルクの腕が飛び、天幕の天井に当たってからボトリと落ちた。その間に奴は地に伏し、他の二人も取り押さえられている。
職業は分からないが、魔物が少ない地の民はレベルが低い。この場で暴れる何て無謀も良い所だ。
「
目の前の捕縛劇を意に介した様子もなく、ミハイル王子が肩をすくめてこちらに視線をくれた。
「アルヒェの奴らは何処も似たようなもんですよ」
「……貴殿が頑なにオアシスに拠らないルートを押した理由はこれだね」
知らなくて良い事は知らないままにしておきたいし、関わらなくていいならその方が良いのだ。
集合知は知りたくなくても勝手に情報が浮かんでくる。意識的にコントロールしているが、完全ではない。人殺しの顔を見れば、そいつの罪状が事細かに呼び起こされるわけだ。……日本に帰りたいわ。
「……キサマ……どこで……ソレヲ……」
取り押さえられたシュタルクが、睨むようにこちらを見上げている。
「神は、お前がグラナードを抜けようとしたヴァイゼを殺したことも知っているよ。人生のツケは、一番苦しい時に回って来るらしいぞ?」
「なっ、キサマはっ!ガッ!?」
何かを発しようとしたシュタルクの顎が砕かれた。
中級以上のスキルは詠唱や
他の者も含めて、アルヒェの民が引っ立てられていく。封護官はいないようなので、スキルが使える物は身辺調査をして、逃亡の恐れがある物は足を切り落とすくらいはするだろうなぁ。
天幕にいた隊長たちの半数が仕事に行き、アルヒェの民も居なくなると大分すっきりした。
「さて、
「だから俺が話す前に始末しておくべきだったんですよ」
「さすがにそう言うわけには行かないんだよ」
ミハイル王子はため息をつく。
「黙っていればいいモノを。知ってしまったら動かざるをえないだろう」
調べれば嘘は必ずバレる世界だからな。
国際条約違反がバレれば、第三王子とて責任問題になる可能性はあるのだろう。
「堪え性が無いのはわきまえています」
「
「……人類最初の
集合知の影響は、対話型の
記録の閲覧なはずなのに、記憶の閲覧なんじゃないかってくらい精神にクル時がある。
「……先にお伝えしておきますが、分かるのは人殺し、それも悪質な事件くらいですよ」
「……ほう、その意図は?」
「捜査員にされてはたまりませんので。そもそも、
集合知でも天啓でも、分かるのは取り返しのつかないマイナス、になった相手くらいだ。
「ふむ。神は相変わらずという事か。アルヒェ・グラナードの民の調書を取るまでしばらくここで待機だな。陸竜の影はまだ見つかっておらぬらしい。貴殿は休息がてら警戒に当たれ」
警戒がてら休息じゃないんですね。働けと。
殿下に頭を下げて天幕を出る。高地とは言え、遮るものの無い荒野で、夏の日差しは暑いわぁ。
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荒野の治安はクーロン何て非じゃないくらいに悪いです。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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