第309話 コクーンは平常運行
数時間のフライトの後、飛行船エンタープライズはデルバイ沿岸の砂浜に着陸した。
「魔物の対処はコゴロウとアルタイルさん中心にお願いします」
ここは周囲の漁村からは少し離れた海岸であるが、あまり悠長にもしていられない。
集まってくる魔物の対処を2人に任せ、俺とタリア、それにアーニャの3人は急ぎ飛行船を解体する。
ペローマの役人や冒険者ギルドの目を避けるためだ。
まずはバルーンを
フレームや翼などは幾つかに分割。幸いにして小型船なのでパーツの重さはそれほどではない。どれも永続付与で耐久力を上げているので、溶接じゃなくボルトでの固定となっているのも解体が楽な理由の一つだ。
俺の
フレームなどはそこからアルタイルさんに
搭乗部などは分解が出来なくなってしまっている。俺の
「素晴らしい手際ですね」
「次の組み立てが不安ですけどね。出発しましょう」
アーニャの操縦で、仮組みメルカバーが発進した。
「あががががっ」
「ちょっ、これっ!揺れが」
「喋ると舌を噛むのであぐっ!」
サスペンションを始めとする地上走行用の衝撃吸収装置を外されたメルカバーはめっちゃ揺れた。
最初など未整備の荒れ野を走るもんだから酷い。街道に入って多少マシになったが、それでも以前とは比べ物にならず。運転しているアーニャ以外、大なり小なり皆んな酔った。中で戻すやつが居なかっただけ御の字だ。
旅客部が大型化したものの、蒸気機関に比べれば軽くなったメルカバーは2時間ほどでデルバイの郊外まで到着した。
一旦エルリック氏達を下ろして俺たちはダンジョン集落へ。
まず俺とタリアが持てるだけ荷物を持って
軽量化を使ってあるとはいえ、総重量は6トン無いくらいか?軽いなぁ。
エルリック氏達は明日、この集落で合流する事につなっている。
興味深々なエルダー達のために中で飛行船の再組み立て……の前に、状況確認かな。
ダンジョンの様子、デルバイ領主の動き、その他
「ダンジョンは縮小が止まって、今は落ち着きを取り戻しています。上層階は分岐やトラップが減った状態で落ち着いて、最近は4階層でもたまにパーティーがいる様です。迷宮を安全地帯として使っているパーティも増えたようですよ」
良いタイミングで槌を振るう手を止めたバーバラさんは、汗を拭いながらここ一週間の状況を教えてくれた。
「ダンジョンへの給餌は2回ほど有りました。アクセサリー類が7割、残りが武器と盾などですね。捕まっていた獣人の皆さんと数名の亡者さんが協力して、残っていた加工用魔法陣を動かしてます」
「上手く回ってるの?」
「おそらく。やはり加工に魔力を使う様で、作った装備はコアに捧げないと調子が悪いそうです。ダンジョンコアの調子が良い悪いが分かるのが謎ですが」
何だろうね。膨らんだり萎んだりするのだろうか。
「今のところこれ以上の動きはなさそうです。領主も静観のようですね。迷宮の管理者さんたちが調べてくれましたが、奴隷の追加などは今のところなさそうです」
「すぐにでもコアを叩き壊す必要が無くて安心したよ」
閉じ込められていた奴隷たちの状況から、元ダンジョンマスターもコアも隷属紋は使えない様だった。
今のコアに誰か食われている可能性があるけれど、判別不明なので先送りにしている。タリアが割りたそうにしているのだけれど、叩き壊すのはいつでもできるからな。6階層のレベル上げの恩恵の方が大きい。
……アーニャのスキルなら中身をかすめ取れるかな?試してもらおう。
「
「ああ、そっか。お年寄り方も?」
7階層に捕まっていた奴隷は未成年と年配の獣人だった。
魔術と食事で健康状態は問題ないが、みんな一般職だったので出来る事が少ない。
「封魔弾の在庫とエンチャント装備を使ってレベル上げをしています。まだ50から60前半ですから、引退していただくには早いです」
人間や獣人の50代、60代はこの世界だと結構年配なんだけどな。
病気はスキルで何とかなるけど、栄養状態が地球と比べると大分悪いからな。助けた時には80代、90代にしか見えないくらいヨボヨボだった。食事と再生治癒をベースに体質改善を繰り返して、今は俺の感覚と一致するぐらいには若返っている。
「そう言えば、飛行船の話を聞いた長が、ワタルさんに教えたい呪法があると言っていましたね」
「俺に?」
「はい。最終的には飛行船を見て決めると言っておりましたが」
「んじゃ、飛行船汲んだら長の所にも行ってみよう」
エルダーたちは基本的に個人で修業をしているから、構ってくるかは向こう次第。興味がないと何をしていてもスルーされる。
積極的にかかわって来るのは、迷宮管理組と食料などの調達組くらいだ。
「ボラケや、大陸の方はどうでしたか?」
「ボラケは変わらずだよ。アース商会は名義だけ残して、権利系は商人ギルドに預けてきた。クロノスからの親善大使が来るらしくて、しばらく滞在を勧められたけど逃げてきた」
「いたら国に連れ戻されますね」
「だろうね。後は、クーロンの情勢が芳しくないっぽい。狂信兵団からの手紙でしか分からないから、詳細は分かってないけど」
「年末前からですから、もう4カ月以上ですよね?」
「魔物がだいぶ広い範囲に展開してるみたい。クロノスから封魔弾が流れているみたいだよ。多分、ウォール辺境伯の所からだね」
「王国は援助を出さないのでしょうか」
「大陸の西側だし、物資だけ送って静観だと思う。城塞都市国家群は連携して守りを固めはするだろうけど、援助をするかと言われると微妙。そもそもクーロンと中が悪いじゃん」
クーロンは領土拡張路線を取っていて、しょっちゅう開拓村を作っては魔物に襲われている。人や物の管理が緩いので、いつの間にか強力な魔物が生まれているなんてことも良くある話。
城塞都市国家群が陣取る山間にも進出していくので、領土問題と魔物がらみで衝突することもしばしばだ。
「エルリック氏がデルバイに来てる。彼を叡智の間の先に進ませたら、時の迷宮経由でクロノスに帰って、飛行船でクーロンの前線に様子を見に行こうかと思ってる。狂信兵団がそっちにいるらしいし」
「……と、言う事は私がここで鉄を打てるのもそれまでですね」
「そうだね。形になりそう?」
「まだまだ荒いですが、魔導回路の基礎を含め、ベースの技術は形になりました。呪法も15種類は発動まで行けたので、新しいのを教えてもらいつつ、魔導刻印の初歩を学んでいます。効率は悪いですが、時間をかければ何とかなる、くらいまでは形にします」
「……根を詰め過ぎないようにね」
「大丈夫ですよ。最近は
……可哀そうな
「そう言えば、ワタルさんはどうしたのか聞かれましたよ」
「
「コアが破壊されるまでのロスタイムと認識しているようで、1度で良いから一杯食わせてやると意気込んでました。レイスと連携を強化したり、挑戦者が居ない時に魔術の連携を練習している様子を目撃されています。竜戦士の方も、小部屋で素振りをしているのが目撃されました」
あいつら修練するのかよ。だんだん人間臭く成ってくんな。やりずらい。
「魔剣士のレベルが足りてないからレベル上げに行くつもりだったけど、気を付けるよ」
一杯食わされて死んだら笑えない。鎧で防御力が上がってるはずだけど、注意を払って損はないだろう。
「飛行船の組み立ては今日行いますか?どうなったかも見てみたいです。可能なら手伝います」
「ああ。これからやるつもりで広場に並べてあるからお願い。設計図があるから、これ見ながらアーニャと二人で組み立てるつもりだったんだ」
「わかりました。行きましょう」
それから日が傾いてくるまで、エルダーたちに見守られながら飛行船の再組立てを行った。
残念ながらその日の内には終わらなかったので、完成と
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次回更新は12/8(木)の夜になります。よろしくお願いいたします。
現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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