第308話 飛行船エンタープライズ
『周囲安全確認良し。浮力良し。重石パージする!』
レバーを引いて係留用の重石を外すと、船体がふわりと浮き上がるのが分かる。
『係留ロープ、伸びきりを確認!』
『了解。係留ロープパージ。飛行船エンタープライズ、離陸するぜ!』
『安全な旅をお祈りしております!』
ボラケに戻ってから7日目の朝、エンタープライズと名付けられた飛行船は、アーニャの操縦の元ゆっくりと空へ舞い上がった。
なめらかな浮上。3度目の飛行となると、船の扱いもだいぶ慣れてきているようだ。
『高度は十分、進路もクリア。それじゃあタリア、デルバイへのルート案内はよろしく』
『任せて。まずはまっすぐ海へ出ましょう』
『了解。モーター始動、
後部プロペラが回転をはじめ、それと同時に周囲からの風を推進力へと変換して飛行船はゆっくりと進み始める。
風よけの
速度も速い。想定される最高速度は時速80キロほど。数時間も飛べばペローマが見えてくるはずだ。
「さって、相変わらずのお出迎えですねぇ」
飛行船が飛び立つと、毎度のように飛行型の魔物が襲い掛かって来る。
ここ最近の試験飛行で数は減ったものの、それでも目に見えるだけで十数体。鳥型、虫型の混成部隊だ。
『銃座の皆さん、準備は良いですか?』
『問題無いのである』
『我々も問題ありませんよ』
本日の搭乗者は、操縦士アーニャ、副操縦士件メイン砲撃手が俺。二人が運転席に乗り、後部旅客スペースに進路を決める航空士のタリア。さらに側面と後方にある銃座4門に、コゴロウ、それにエルリック氏と護衛である錬金術師協同組合御用達の冒険者2名が付いている。
旅客スペースにはほかにアルタイルさんと、エルリック氏護衛3名が居るが、彼らは緊急時以外空戦には直接参加はしないのでお客様だ。
乗員は総勢11名。練習飛行より重いけど、機動力には問題が無い。魔物をさっさと片付けてしまおう。
操作艦に触れて機銃を起動すると、
やはりゲームみたいだ。レバーを倒した方向に視点が動き、トリガーを引くと二連装
更に操縦席側の手法には二連装
「目標をセンターにとらえて、トリガー……よし、当り!」
魔物の群れに向けて
……やべぇ、外れた
『あー、各位。射程が長すぎて地上に影響が出る。要注意。アーニャ、高度を上げて魔物を地面から引きはがして』
『心得たのである』
『了解。高度を1000メートルまで上昇させるぜ』
アーニャの操作で飛行船が上昇を加速させる。
魔物たちが水平の高さまで上がって来てくれると地上を気にしなくていいんだけど……真下に潜り込もうとするやつがいるな。めんどくさい。
『進路そのまま。ビットを出すわ。そっちの方が影響が少ない。間違って撃ち落さない様に注意してね』
さて
操作レバーを引くと、側面ハッチが開いて4機のビットが宙に舞う。
横に長い二等辺三角形のようなボディ。後部にはプロペラが1門ついており、それが旋回を始めると同時に、機体が滑る様に空を飛ぶ。
ウィングビット。飛行船の航行速度に合わせるため、飛行機型に改良した新型艦載機。
プロペラによって得られる推進力と揚力による飛行を行うこの機体は、ホバリング飛行は出来ない代わりに最高速度はビットの倍近い。
機体の先端には
……作った際相変わらず『どこが人形か?』と訊かれた。
実はこれ、外海の機体と中の人形が別になっていて、プロペラは中で人形が一生懸命足漕ぎで回している人力飛行方式だったりする。上昇加工、旋回も中の人型人形の腕を動かして行うので立派な人形である。
ウィングビットたちが魔物の背後に着くと、
うむ。飛行船内で操作するのは初めてだけど上手くいくな。
『飛び出してきた魔物は全部片付いたみたいだぜ』
『了解。海に出るまで警戒しつつ、各自待機。こちらもウィングビットの回収を行う』
ウィングビットを船体の上部に回り込ませ、バルーンの上部に設置された銃座兼見張り台からパペット君に回収させる。木製人形パペット君。上の銃座に行くのがめんどくさいので
ウィングビットは2日で作った新兵器なので、飛行船への着艦が出来ない。なのでキャッチしてもらうしか回収方法が無いのが問題。これは
『海上に出た。近くに魔物の反応は無し。姉さん、方向の指示を』
『おっけー。……目標は1次の方角よ』
『了解』
風は上手く推進力に変わってくれている。多少揺れるが、外洋の上でも問題なさそうだ。
あまり風が強い場合は
「アーニャ、MPは平気?」
エンタープライズは浮遊、飛行に最低でも1分当たりMP3を使用する。1時間で180。
飛び始めてからもう小一時間立つはず。離陸の時の消費や、高度を1000メートルまで上げた時の消費は、状況によって違うから聞かないと分からない。
「まだ平気だけど半分は切った。誰か変われるならお願いしたいかな」
『了解。後部座席、誰か推進力へのMPをお願いできますか?』
『それなら私がしましょう。銃座は私じゃなくてもよいですし、中からの戦闘は役に立ちませんからね』
エルリック氏が推進力へのMP供給をしてくれる。
高度を操るバルーンの加熱は操縦席からやるべきなので、こちらは俺が担当。これでアーニャのMPは回復していくはずだ。後はのんびりだな。
飛行船はそれなりの速度で海上を進む。
水平線の先には島が見えている。アレはペローマじゃなく別の国かな。
「……う~み~は広い~な大き~いな~♪」
魔物が居る世界に放り出されて、こうして飛行船で旅をすることになるとは、人生分らんもんだなぁ。
しかし海の綺麗さ、空の青さ、日の輝きはこの世界でも地球と変わらない。自然が多く残されている分こちらの方が綺麗か。
……魔物が居なきゃなぁ。……いや、それならそれで人同士で争ってそうだし、良いこと無いか。
「……ワタルの国の曲?」
「ん?ああ、なんとなくね」
「姉さんが聞きたがりそうだな」
「あ~……そう言えば、そういう話はしてなかったなぁ」
あんまり地球の事を思い出すとホームシックに成りそうだから、積極的に日本の話をするのは控えていた。
「聞かせてよ。どうせ魔物が襲ってこなけりゃ暇だろ」
「計器とにらめっこは必要だけど……まぁ良いか」
幸い、この高度で襲い掛かって来るような魔物はそう居ない。のんびり行こう。
懐かしい童謡を歌いながら、飛行船はまっすぐにペローマに向けて飛ぶのだった。
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今週も仕事が忙しそうなので、隔日での更新とさせていただこうと思います。
次回更新は12/6(火)の夜になります。よろしくお願いいたします。
現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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