第307話 飛行船の出来栄え
「おお、すげぇ!なんかめっちゃかっこよくなってる!」
広場に係留された飛行船を目にして、アーニャが目を輝かせる。
船体には元の特徴を残したまま細かな意匠が施され、単なる布張だったバルーン部には要所要所に金属と思われるパーツが取り付けられていた。
より風の影響を減らす為か、先端には錐のようなノーズが増設されているし、飛行中に上下のコントロールをする為の羽も増設されているようだ。
「ずいぶん外見も変わりましたね。性能向上との両立は大変だったのでは」
「なに、予算はあったし、機能的に必要だと判断した部分が多いんだ。後は、陛下や王国に納める二番艦以降の試作品だな。何分、初めての物なんでイメージてはどうにもならない事も多い」
そう言うとゲンナイさんは機体の説明をしてくれた。
「船体の大部分を占めるバルーンには、風を推力に変える魔術回路が施しである。これで最高推進速度は2倍以上に伸びた。予定していた改造だが、これによって新たな問題が発生した。速度が上がるとバルーンの先端が潰れて不安定になる」
向かい風を推進力に変えた結果、増えた速度の抵抗にバルーンが抗えなかったらしい。
「進行方向からの風をよけるためにノーズを付けた。これはバルーン内の支柱で支えている。その支柱は加熱のためのフィンを支えるものと共用なんで、金属製の物を使ったが、あまり重くなりすぎると浮力に影響を受けるため、ノーズパーツ自体は木製で耐久力は課題。飛ぶだけなら問題はない」
「昇降が過熱・冷却でしかできないとレスポンスが悪すぎた。なんでバルーンと船を吊り下げから直結に変えて、ウィングを付けた。ないよりマシってレベルだが上下の機動性は向上している。側面からの風は推進力に変わるため、横揺れの抑制ができた。だからこそできた機構だな」
「離着陸の際、浮遊による高度安定はコストが高すぎてお前さん以外には出来ないのでオミット。代わりに地面にアンカーを打ち込む装置を4つ追加した。30メートルほどの高さまで降下すれば、船体を支えるだけの深さまで杭を打ち込める。推進力のプロペラを切り替えることで、巻き取りを行う機構だ。浮力がある状態での着陸が可能になる。問題点としては、変性が使えないと打った杭が抜けねぇが、それは何とかなるだろう。陛下向けは離発着場が固定になるはずなんで、別の着陸方法を検討中」
「全体的に重くなったのでサイズが一回り増えている。最大登場人数も12人、貨物部と合わせて総重量2500キロまで輸送が可能。浮上までにかかる時間は伸びたが、おそらく許容範囲に収まっているはずだ。加熱フィンの配置を効率化し、さらに送風機構を変えた。送風は魔力式になっている。こっちのほうが重量に対して効率が良かった。推進力はプロペラのまま。ただし発電機も推進用モーターも現時点で最も性能の良いものに挿げ替えてある。出力は3割増しくらいなはずだ」
「武装は船体側にお前さんのおいて行った連装
「最後だけめっちゃ軽く大量発注されたんですけど」
「むろん、代価は払うさ」
「……満タンのMPタンクを大量に用意してください」
まぁ、エンチャントの件はどうにでもなる。幸いにどちらの魔術も無詠唱なので、時間があるときに作ってしまおう。
それより飛行船の方だ。
「中は覗けますか?」
「ああ。試験飛行で一昨日この国の周りをぐるっと1周して、今はモーターや操作機構の一部をばらして各所に問題ないかチェック中だが、基本的な内装は出来ている。組合がオプションの調整をしていたはずだが……まぁ、入ってみるか」
木製の扉は変わっていないが、床下や着陸時の足の構造が多少変わっているな。乗り込む際のタラップは船外に折りたたむ形式にして取り付けられている。
「操縦席の窓の形が変わってる!」
「ああ、下が良く見えそうだ。……それに、2重に成ってる?」
「海の上を飛ぶと曇って見えなくなることが分かったからな。2重ガラスにして、水滴で曇るのを防いでいる。いざとなったら
それはありがたい。確かに窓の曇りはノーケアだったなぁ。
「おや、リターナーさん。体調はお変わりなく?」
船内へと昇るとエルリック氏が床にはいつくばって配線のチェックを行っていた。この人会長だろうに。
「新しい物は自分で触りたいじゃないですか。そうじゃ無けりゃ、錬金術師なんてやってませんよ」
さもありなん。
今は操縦席から使える拡張装備の調整をしてくれていたらしい。
「せっかくだから説明しましょう。この艦には魔術の拡張スロットが7つ、さらにMPタンクが500分設置されています。この拡張スロットはエンチャント方式で、拡張カードにエンチャントを施しセットすることで運転席からセットされた魔術が発動できるようになります。拡張カードはこれ。エンチャントできるのは中級魔術までですね」
アーニャが興味深げに床下や操縦席を覗いている。
「中級がエンチャント可能なんですか?」
「可能なサイズの拡張カードにした、というのが正しいです。リターナーさんなら自分で必要な魔術を拡張できる方がいいでしょう。2番艦以降には、錬金術で安定化した物も使えるように予定ですが、そこは開発に手間取っているので、これに搭載は難しそうですね」
「問題ないです。中級までなら俺が付与できますから」
バーバラさんが魔導刻印を体得していれば、錬金アイテムを組み込める方がバリエーションは広がるだろうが……必要なら
「基本的に船体の中心を起点に発動するので、防御魔術などを仕込むことを想定しています。攻撃魔術は発動向きも位置も固定なので、当てるのが難しいと思いますね。防御用の
操縦席に行くと、運転席の脇に6角形のパネルが7枚、7色に塗られて配置されていた。
「セットした魔術とパネルの関係は覚えるしか無いので、7つに絞りました。セットするのは先ほど私が這いつくばっていた後ろ側の床下ですね。誤操作が怖いので、基本的には固定で使う事を想定しています。うっかりで墜落したら死にますから」
「たしかに」
発動させる魔術の種類やタイミングによっては悪影響になりかねない。
「操作系はそこまで変えていません。昇降リターナーさんの設計通りですね。手前に引いて上昇、押して下降。そもそも急制動は出来ませんが。それから、計器類は今開発した者の中では一番制度のいいものを付けています。それでも高度計などは誤差が大きいので過信は出来ませんよ」
「……まぁ、ないよりはましです」
目測で高さを測るのは無理だし、スキルでも結構難しい。その辺はどうしても大雑把になってしまうが致し方ない。乗ってる人間が地球とは比べ物に成らないほど丈夫だし、まぁ何とかなるだろう。
「リターナーさんは、この後大陸に戻られるんですよね?」
「ええ、デルバイでバーバラさんと合流して、その後はクロノスかクーロンに向かう予定です」
エルリックさんには、バーバラさんは向こうで良い技術者を見つけたのでそこで修業中と話してある。
「それなら近日中に引き渡しですよね。出発の予定はいつですか?」
「残りの仕事を考えると、明々後日以降ですね」
冒険者ギルド、商人ギルドからの依頼品、さっきゲンナイさんから頼まれた制作物を片付けて、手紙の返信の手続きをすればボラケで残る仕事は無くなる。
そうしたら
「では、3日後にお渡しできるように仕上げましょう」
「大丈夫ですか?」
「モーター周りのチェックが問題無ければ。ゲンナイさん、行けますよね?」
「ああ、問題ないはずだ」
「よろしくお願いします」
飛行船を使えばデルバイまでは数時間で着く想定だ。3日後には
「そう言えば、エルリックさん、キューブはいかがでした?」
「お土産に頂いたあれですか?3面目まではクリアできましたが」
……俺より圧倒的に早え。これが年の功か。
「キューブってなんだ?」
「エルリックさんへのお土産です。中身は後で。……そこまで出来ているなら、迷宮に潜りますか?案内しますよ」
「迷宮にですか?……ふむ。なるほど。ちょっと仕事の都合を付けます」
どうやら察してくれたらしい。これで彼に依頼されたお仕事は果たしたことになるだろう。
ボラケでのイベントは一通り完了かな。
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