第306話 ボラケに戻りて

俺の太刀にムネヨシ氏が首を傾げまくってから更に数日。

バーバラさんを除いた生者四人にアルタイルさんを加えて、俺たちはボラケの首都カサクに戻っていた。


やらなければいけない事はそれなりにある。

エルリック氏、ゲンジュウロウさんへの報告。飛行船を作っているゲンナイさんの状況確認。カサク止まりにしていた緊急以外の手紙の処理など。また、アース商会がボラケにも進出していることになってるから、ギルドに委託している状況確認もだ。


手紙なんかは読んだ所でどうにもならないので、先に報告事項を済ませていく。


「残念ながら幻影商隊の居場所の手がかりは得られませんでした。これはお土産です魔力を流すと光ります。後は自力で迷宮の奥を探索してもらう必要があります」


エルリック氏にキューブを渡す。コクーンについて話せることは限られてるので、察してもらうしかない。


「ふむ。……エルダーには会えたのですか?」


「えっと……なんでしたっけ?」


「?」


マジでなんの話をしていたっけ?

なんて感じで、宿に戻ってタリアに指摘されるまで、コクーンの事を綺麗さっぱり忘れ去っていた。

怖ぇよこの呪い!予兆なくきれいさっぱり記憶が無くなるし、それに違和感も感じない。

一度試練を突破した者どうしなら影響は受けないらしい。最低でもエルダーレベルに到達してこの呪法を解かないと話は出来ん。


「ふむ。何が変わったのか……何かは変わった。しかし何が変わったかは俺には分からねぇか……」


翌日、ゲンジュウロウ・ソウエンさんには付喪神化したらしい太刀を見せると、そう言って唸った。

こいつについては俺もわからん。ムネヨシ氏も良く分からないと言っていた。

付喪神化の条件を満たすには圧倒的に使っている時間が足りないらしい。壊れた武器を鋳つぶした材料を使ってはいるものの、それにしたってだ。コボルト地獄や幽霊部屋で魔物は斬りまくったが、それだって自然発露までは年単位で時間がかかるだろうという見立てを覆した。

何がどうなっているんだか。


「そう言えば、ダンジョンの奥にエルダーが住まうってのはどこから出た話なんです?」


俺達のような試練を突破した者は呪法で話が出来ないし、エルダーたちも自分からアピールしないはずなんだけど。


「ん、迷宮に出入りする謎のドワーフが居るらしいって話は昔からあるぞ。物語にもなってるくらいだしな。俺がかつて見た神器も、古き者たちから譲り受けたって言っていたしな」


……それ、エルダーだって言ってないんじゃ。

なるほど、明言しなけりゃいいのか? それか、一般的な略称じゃなきゃ影響がないとか、公然の事実扱いされてりゃ発動しないとか、そんな感じか?怖くて試す気には成らんな。


「しかし鎧の方に行ったか。そいつは盲点だった」


太刀の変化より鎧の出来栄えの方が驚きらしい。

今のところ、俺にとっては丈夫なだけの鎧だけど、見てわかる程そんなに凄いのだろうか。

たしかにダンジョンのコボルト7体に袋叩きにされてみても、痛くもかゆくもなかったけどさ。


最初に詳しい話は答えられないと言っておいて正解だった。

もしかしたらエルリックさんから俺の様子がおかしくなったことを聞いていたのかも知れないが、呪いが発動することも無くゲンジュウロウさんへの報告を終えることが出来た。


それから冒険者ギルド、商人ギルドで受け取った手紙を精査。


「手紙は……これはジェネ―ルさんからの会計報告とその他」


商会関連の手紙が一番多い。

封魔弾、エンチャントアイテムの売り上げは少し落ち着いたが、今でも良い利益を上げている。ここを離れていたのはひと月ちょっとだが、かなりの金額が生まれ、そして消えて行った。王都のレベル上げ闘技場作成は順調なようだ。


王都やアインスの周囲は魔物が減って、封魔弾の需要は別の地域に移りつつあるらしい。

冒険者が減って大規模反撃を受けない様に、備蓄と常備兵の拡張が進んでいるようだ。封魔弾で一般職から戦闘職への転職レベル上げが用意になったし、ある程度レベルを上げて予備兵を確保するのだろう。

アインス男爵を窓口に軍への卸しが結構な金額に成っていな。


装軌車両の運用台数は二桁を越えた。アース商会も1台を所有し、王家や軍にも納品をした。

飛行機能をオミットした量産型が多く作られていて、街から街への伝令に利用され始めていると書かれていた。そのせいで街道の劣化が気になると声が上がっていて、対策は無いかと問われている。

無限軌道は地面へのダメージが多いからな。馬車と同じく車輪にすべきだろう。


なんにせよ商売は順調そうで何よりだ。


「えっと……お、これはリネックさんからからのお礼の手紙だ」


2度ほど甘味のレシピを送ったが、2回目の物へのお礼だな。

……兵士を止めて甘味処を開くか迷うのはやめてもらいたい。そろそろ2次職に上がるだろうし、人を雇って自分は魔物を狩ることを勧めておこう。


「こっちはグローブさんから」


今はウォールに向かっている感じか。

ロバートさんがアインス領兵を退職して冒険者に成り、一度王都に出たことは知っていたが……なるほど、ジェネ―ルさんに4人を紹介する手紙を書いておいたのが功をそうしたようだ。

グローブさん、ロバートさんの二人が2次職になったらしい。グローブさん頑張ったな。

手紙の差出日がひと月半ほど前。既にウォールについただろう。クーロンの動乱の影響が出ているだろうか。


「ええっと……狂信兵団の報告はこれか」


ボラケを出る前の次点で、クーロンになだれ込んだ魔物と国軍が衝突した所までは把握しているけど……。

……最初の衝突では、クーロン皇国軍が魔物を撃退。これは新兵器が供給された影響が大きいと……明言されてないけど封魔弾かな?

あ、でも最新の報告だと、魔物がゲリラ戦法に切り替えてから戦況が悪化していると書かれている。

既に敗色濃厚な都市がいくつかあり、クーロン内でも難民が出ているか。きな臭いな。


狂信兵団は一つの街にとどまらず、転々と魔物の集団を狩っているらしい。宝探しは今のところハズレ……ああ、地図の話だ。収納空間インベントリの定着法をこっそり教えたら本屋が送ってくれた奴。いくつか思い当たる地形を教えて狂信兵団にまとめ渡しておいたが探しているらしい。

代わりと言ってはなんだけれど、徐々に高レベルの者が出始めていると書かれている。実動員の脱落も無くみんな無事で、早く合流できることを期待しているとつづられていた。

仮初の命を発動させたし、亡者たちを彼らの所に戻してもいいだろうな。


クーロンの情勢は気になる。広い範囲での戦いは出来ることがそう無いけど、出来れば人類側に勝ってほしい。やはりコクーンに戻ったら迷宮経由でそっちに行くか。


「ええっと後は……これはリタさんから」


王都ヒンメルで健康増進軒の運営を任せっぱなしにしているが……近況報告だな。

幸いにして商会のサポートもあり、忙しい物の運営には問題はないらしい。人も増えたと。

最近、タダだからか傍若無人な客が増えたのが悩みだと記されている。そういう客は治療の前に一度壊すと良いと返しておこう。どうせ治すなら一緒だ。


配送が遅れていて古い手紙もいくつか。

バノッサさんから、時間迷宮の攻略が終わったら会いに行くから場所を教えろと来ていた。

魔術師協会に喧嘩を売ったことになっているのが、それなりに影響出ている模様。すまぬ。


主要な手紙はこんな感じ。気になるのはクーロンの動向か。ボラケでもペローマでも、冒険者ギルドで詳しい情報得られなかったからなぁ。大陸の西側はちょっと戦場が遠すぎる。


さて、後は紹介関連の手続きを済ませたら、ゲンナイさんの所で飛行船の開発状況を確認すれば終わり。

どこまで進んでいるか楽しみだ。

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現在4話公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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