第386話 南よりの吉報
「……手紙は見ても?」
「ええ、構わないわ。それはギルド経由で来た報告書だから」
手紙に目を通す。発信時期は……去年の年末だな。ボラケに入る前後くらいだっけか。
報告者は……L・トンプソン。発進場所は……ゴールドバレー?
「南大陸か!」
差出人の住所を追っていくと、南大陸に発になっていた。
タリアが全大陸に捜索願を転送したのはクロノスの王都ヒンメルを発つ前だから、転送はそれなりにスムーズに行えていたのだろう。
それに比べて手紙の発行から手元に届くまではちょっと空き過ぎな気もするが……。
「その手紙、内容確認がされていたわ。どこかで検閲に引っかかったらしいの」
「南大陸からだと、発送したドライセン王国か……経由地は判らないけど、陸路伝達ならクーロンかクロノスかな」
時間がかかったのはそのためか?
内容を読み進めると、タリアが捜索願を出したうちの一人、ミリアム・カプランという女性と特徴が一致したらしい。
「現在年齢は……48歳?だいぶ上だな。30年以上前に魔物から解放……東大陸訛りのある共通語で、髪や目の色の特徴が一致」
……ミリアムもカプランもそこまで珍しい氏名じゃない。
当時の魔物の強さは不明。ゴールドバレーの開拓戦線にて王国軍が撃破。貴族の下で奴隷として働き、それが認められて解放されている。
「このミリアムって女性は?」
「……三つ下で……妹みたいな感じかな。あっちは三人姉弟のお姉さん。私は村では珍しい一人っ子だったから……」
って事は、タリアがエリュマントスになってから少なくとも1年はその後の状況を見ているか。
他に魔物にされた者が居れば、何かしら情報を持っているかもしれない。そうじゃなくても、
「南大陸って、まだ迷宮が見つかってないのよね?」
「ああ、そのはず。
南大陸にはエルフが納める国があり、世界樹と呼ばれる巨大な木の麓だか中だかには遺跡があるらしい。エルフたちは世界樹の周辺を聖域として立ち入りを厳しく制限していて、調査は全くと言っていいほど進んでいない。
「神凪の天眼通があれば未到達地域からでも周辺の集落は探せるはず。そこからは陸路をたどってゴールドバレーを目指す形になるだろうね」
南大陸だとクロノスの威光も通じないだろうし、飛行船や装軌車両は使わない方が良いだろう。
ゴールドバレーのあるドライセン王国はドワーフたちの国で、エルフの国からだとかなりの距離があるし、長旅だ。
ドワーフの国側のどこかに迷宮が通じていれば短縮は出来るだろうが、未開のエリアは魔物以外の脅威もあるから判断が難しい。
「……ウェインの救助が終わったら、南大陸に向うでいいかしら?」
クトニオス攻略後か。
今の計画だと、クロノスから旧ザース領に入り、オリジナルの転職モニュメントを回収。その後クトニオスへ南下してウェイン奪還を行う計画。
ザースはモニュメントの為に占領する必要があるけど、クトニオスは攻め落とす必要は無いからクーロンの南側から攻め上がるより、敵陣を進む方が守りは薄いと想定している。
しかし……それにしたってまだ数カ月はかかるだろう。
「……すぐに出発すべきだと思う」
持ちうる情報から、俺はすぐにそう結論を出した。
ドワーフの国における人間族の平均寿命は、人間が納める国に比べて短い。
神の奇跡があってもそれを運用するのは人類なのだ。身体の丈夫なドワーフと人間では感覚が大きく違い、かみ合わないなんてことが間々ある。
それに48歳という年齢はクロノスでも高齢者に片足を突っ込んでいる。あちらの状況が分からない以上、すぐに動くべきだろう。
「すぐにって……ウェインはどうするのよ?」
「予定通りに言っても数か月。ザースのモニュメント奪還はクロノス王国の力を借りて行う予定だけど、実際に見立て通りの期間で終えられるか不明。さらに南大陸の方もどれだけ時間がかかるか不明となると、のんびり一つ一つ進る余裕があるとも限らない。パーティーを二つに分ける」
正攻法で南大陸に行こうとすると、どんなに早くても船旅だけで数か月。クーロンから中央大陸を経由しての移動になる。それならば
「二つにって本気?」
「おそらくそれが最善策。南大陸だと……バノッサさんの協力が欲しい。バーバラさんは騎士団の仕事の関係上こっちに居ないとまずいはずだから、ザース攻略まではアーニャかコゴロウのどっちかに南大陸に行ってもらって、足らない戦力は亡者から参加者を募るしかないか」
受送陣を使えば中継点では連絡が可能なはずだ。
万が一にも魔物に奪われると洒落に成らないから注意は必要だが、全く連絡が取れないという事は無い。
今だに永久の氷獄の解呪スキルが得られないバノッサさんは、経験値稼ぎにザース攻略に参加したがるかもしれんが……まぁ、助け合いって事で。
「……移動だけの私たちはともかく、ザースのモニュメント奪還は敵の本拠地みたいなものじゃない。戦力を分けて挑むのは危険だわ」
「危険は百も承知だけど、幸い王国が動いてくれることに成っていて戦力はある。モニュメントは数少ない魔物が取り込めない遺物で、敵側に取っちゃ価値がないし、集合知の情報だと守りも薄い」
クロノスからモニュメントのある遺跡を攻めようとすると、大陸の中央を横たわる山脈を越え、さらに人の住まない高原の乾燥地帯を越えて行軍をするルートになる。
このルートはクロノス王国の建国前後に一部の獣人たちが通ったっきり使われていない道だ。山脈の向こうは自然環境が過酷すぎて人が住むのには向かない地域であり、結果として魔物はほとんど居ない。この荒野を装軌車両をかっ飛ばして進み、一気にモニュメントのある遺跡を強襲するのが基本プランだ。
「やってやれない事は無いさ」
「……ザース攻略に……私の力は要らない?」
「……そう聞かれると困るな」
条件付きではあるが、タリアはおそらくうちのパーティーで最大火力だ。居るに越したことはない。
そして食事の管理を一手に引き受けている厨房の主だ。タリアが抜けると、うちの食事は一気にわびしくなることだろう。ぶっちゃけこれはかなり辛い。
……が……それでも何とかなる。
「
タリアの家族探しは、金の力を使って世界中の冒険者ギルドに依頼していた。
ウェインの捜索はウォールまで明確な足取りがつかめず、姿を眩まされるリスクから同じ手が打てなかったから追いかけた。
クーロンの防衛戦参加はクラン呼び戻しのための余談に過ぎず、ザースのモニュメント奪還は俺の魔王討伐のための一手。
クトニオス攻略はウェインとサラサ奪還、つまりアーニャとコゴロウの目的達成のためだ。
「必要な時に必要な事をする。そのために力を貸しあう。それが俺達が進むべき道だろ」
本当なら俺が南大陸に行ければいいのだが、さすがにそれは難しい。
開拓村ならともかく、ボホール内ではクロノスの密偵が護衛と称してこちらを監視している。ザースへ向かう騎士団と合流すれば、その監視は一段と強くなるだろう。
「そっちがどうにも成らなかったら駆けつける。でもできるだけ早く確認して、こっちに合流してくれると嬉しい。それで村の仲間であれば万々歳、だろ?」
「……そうね」
暫く迷った様子だったタリアは、最終的にそう頷いた。
彼女の中にも、今すぐ確認のために旅立ちたい思いはあったのだろう。けれど場所が遠すぎて現実的なプランが思いつかなかったのだと思う。
「ほんとにミリアムかは分からないけど……行ってくるわ」
「うん。……まぁ、すぐに出来ないから、まずは準備と計画を立てる所からだけどね」
南大陸はこれまで旅してきたエリアとは気候も地形も、そして魔物も大きく違う。準備は入念に行うべきだろう。新たな魔道具も検討するかな。
この日から数えて10日後、タリア達は南大陸に向けて旅立つことになったのだった。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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