第350話 アース狂信兵団の合流

新たな亡者を復活させてから数日。満月の夜を今晩に控えた昼前、東に逃れていたアース狂信兵団の一部が石切り村に合流してくれた。


「ジェイスンさんお久しぶりです。ご無事で何よりです」


「リターナー殿も壮健なようで安心したぞ。兵団のうち、集団戦が得意なものを中心に57名、それからホクサンの難民から、戦闘や後方支援に当たれるもの25名を連れてきた。状況を教えてくれ」


「助かります」


簡単に状況を説明する。

まず兵団が合流する前の石切り村駐在隊の戦力は約100名。渇望者たちクレヴィンガーズと新旧亡者で約半分の50人ちょっと。そこにクーロン以外の難民で、こちらの支援を条件に協力してくれている人たちが30人。新たに加わった亡者の親族や仲間たちが20人ほど。

戦闘員ではないが、技師、鍛冶師、料理人などのサポート要員も数名いる。


「ただ、残念ながら村長や町長が居ません。備品などは盗賊の宝箱トレジャーボックスを使って何とか保存している状態ですね」


最初はエンチャント加工した小結界キャンプを使っていたが、範囲が狭い上、加工できるのが俺しかおらず使い勝手が悪いのでアーニャに任せてしまった。


「手紙にあった通りか。村の結界については、村長を連れて来たから彼にお願いできる。すぐにとりかかってもらっていいか?」


「おお、ありがとうございます。お願いします。脱出先は無しですか?」


「ああ、残念ながらな。なので彼らも命がけだ」


「……よくお礼を言わないといけませんね」


「そうだな。それから、ホクサン脱出の際に持ち出した転職像も預かって来ている。これで村での転職が可能なになるはずだ」


「重ね重ねありがとうございます!めっちゃ助かりますよ!」


レベル上げ中のメンバーは下手をすると日に一回転職する。

今はホクレンで転職するしか手は無いから、午後は往復60キロのランニングに出る予定だった。


「ちょっと予定を立て直した方が良いですね。結界設置後、人員の配置を相談しましょう。どれくらいで終わるか分かりますか?」


「ちょっとまて。……敷地の修復が終わっているから、30分もあれば終わるそうだ」


「了解です」


村長宅の横にある集会所に代表者を集めて、代表者に状況を説明する。


「今回は疑似防衛線に成るので、パーティー戦と様相が違うことになるでしょう。既に村に滞在していたメンバーにはそのための訓練を端開始していますが、狂信兵団のパーティーメンバーにも周知をお願いします。では、現在の指揮体制の説明から」


前衛職をまとめるのはコゴロウ、後衛職をまとめているのはアルタイルさん。

コゴロウはフォレスでは指揮官だったし、アルタイルさんも亡者のとりまとめということで、職以上に成れている。

彼らのサポートに士官など指揮系職の副官を付けていて、集団戦闘の訓練をお願いしている。


不足している装備品の補充は、バーバラさんをまとめ。

素材が足りていないため、材木の伐採と乾燥、石材からの金属成分抽出なども行っていてある意味一番忙しい集団である。


周辺魔物の索敵はタラゼドさんまとめの、アーニャが副官。

本当はアーニャをまとめにして副官をタラゼドさんにしようと思ったが、副官にするとタラゼドさんは勝手に動くのでアーニャをツッコミに回すしか無かった。


亡者はともかく、人間は腹が減るって事で食料などの管理と調理はタリアまとめ。

飛行船と収納空間インベントリで運んだ食料は量は潤沢だが、種類は少ない。それでも知恵を捻って美味い料理を作ってくれていて、元難民の戦士たちにはすこぶる評判が良い。


俺はレベルの足らない層へのサポート。最低でも2次職に成っていないと、戦力として不安がある。

特に元難民の生者や、新亡者の家族は死にかねない。死人を出すとどこかでガタが来そうなチームなので、この辺のメンバーの強化は必須だった。


バノッサさんは完全遊撃として、勝手気ままに東に遠征して魔物を薙ぎ払っている。

ドロップの回収率が良くないのでどれだけ敵の戦力を削げているかは不明だが、この拠点に飛竜が飛んでこないのは彼のおかげだと思っていいはずだ。


「状況は把握した。指揮系でグダグダ言いそうなやつは連れてきていない。基本的には戦闘班に入ろう。斥候はどうする?」


「夕方から夜にかけて攻勢が始まる可能性があります。今日はそのまま戦闘班に居てもらう形にします」


魔物たちはこの村の15キロ北東の森の中に集結していると考えられる。今朝、斥候が確認して持ち帰った情報だ。

ここは無視してホクレンに向かうと思ったが、どうやら結構な戦力をこちらに向けて来ているらしい。

恐らくウォルガルフや敵斥候が持ち帰った情報から、後ろを突かれるくらいなら正面からぶつかろうという発想だろう。


「一般職の人はサポートに回ってもらうとして、村長さんはどんな人物ですか?配置に悩むのですが」


「まだ若い、開拓村の中心だった人物だ。槍兵のまねぐらいは出来るが、ここの基準では力量不足だな。積極的に自分で動くタイプだ。聞いた話だと、資材班に居てもらうのが良いだろう」


「では、そうしましょう。ジェウスンさんは村長を始めとした、ホクサン難民の指揮を併せてお願いします。俺より信頼が厚いでしょう」


狂信兵団のリーダーたちも異論はない。

こちらは俺と直接会ったことがある人が殆どだし、ウォールで仲間に向かえた時に直接話した人ばかりだから話が早い。


「では、前衛から順に現状をお見せするのである。時間が無いので、参加してもらうのが早いのである」


ジェウスンさんにはと別れ、60人近い追加の戦闘員を連れて村の外へ。俺がサポートしていた新人たちもそこにいる。


「「「「うぉー---っ!」」」」


村の周りは比較的開けていて、若干斜面に成っているところはある物の見通しは良い。

そこで前衛たちが、十対一で、一人に向かって雄たけびを上げながら襲い掛かっていた。

持っているのは木の棒だが、普通にぶっ叩かれている。


「……あれは?」


その様子を見て、幾人かが戸惑いの声を上げる。


「魔物が一斉に攻めて来ると、恐怖で身が固くなる場合があるのである。戦いの経験が少ない者が混じっているので、とりあえず大声を出す、一斉に襲い掛かるでメンタルを鍛えているのである。幸い人が増えたので、3組くらいに増やしてやるのである」


ステータスに内面が追い付かないのは、パワーレベリングをした人では良くある話。

俺もアインスでぶっ飛ばされて多少マシになったから、その効果を狙っての訓練だ。幸い、フォレスでもこの手の訓練はしていたようで話が早かった。


「ちなみにローテーションで、突撃、一斉投石を交互にやっているのである」


前衛は盾を持っているが、そこに向かって一斉に石が泣けられている。

投球フォームは野球のピッチャーのように洗練されてきている。一般職なら普通に死にそうな速度だ。


「……鎧は?」


「個人に合わせて作る余裕が無かったので、武器と盾とヘルメット優先、裏で胸当てを作ってもらってます」


「……あるだけマシか」


人数分のドックタグや、ポーションなども作っている。作成班の手が回っていないのだ。


「とりあえず前衛後衛問わず全員やるのである。サクッと2回くらいやったら、後衛はそっちの訓練も体験してもらうのである。ああ、殴られ役は防御はOKだが、反撃はNGなので注意するのである」


その言葉を聞いて、全員がいやそうな顔をした。

合流したクランメンバーがぶっ叩かれている間に、俺はレベルが足りないメンバーの強化を再開する。

まぁ、やるのは捕まえてある魔物を強化して、封魔弾で吹き飛ばさせるだけだ。


「後衛は離れているので、基本的に仲間の防御の訓練です」


暫くの後、今度はアルタイルさんが後衛の訓練について話し始めていた。


「前衛二人、敵二人が向かい合って並び、その後ろ10メートルに後衛一人で待機。どちらかの敵が前衛をどつきます。前衛の攻撃を盾で防いでください。適役の攻撃が盾で弾かれれば成功です」


こちらも前衛役はぶっ叩かれるだけという糞訓練だ。

守らなきゃならない対象が二人、後衛役からは背中しか見えず、動き回る敵味方を追いつつ、攻撃に盾を当てなければ成らない。動く範囲を絞っているとは言え、なかなかに難易度が高い。


MPを消費するため、ずっとは出来ない。30ほど減ったら前衛の訓練に混ざり、回復したら後衛の訓練を行う。これを繰り返してMPを維持しながら、戦いに慣れてもらっている。


……しかし、ほんとに数日の訓練だがずいぶん形になったな。

初日に比べればみんな格段に動きが良い。度胸付けのためにこの訓練を組み込んだが、防衛線にも使えるので功を奏した形になった。

体力的な不安もあるので、日没2時間前には訓練を終える。今日足掻けるのはあと少し。


『ワタル、魔物たちが動き出した』


斥候に出ていたアーニャから連絡が入ったのは、地平に太陽がかかり始めた夕刻。

予想していた通り、魔物たちの攻撃が始まったのだった。

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明日1/29(日)は週一のお休みを予定しております。次回は1/30(月)の夜更新となります。よろしくお願いいたします。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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