第351話 開戦・銀牙の軍勢
地平の向こうに日が沈みきった日没直後。
元石切り村に陣を構えた俺たちは、進軍して来た魔物の軍勢と向かい合っていた。
空には照明弾が上がっていて、防衛ラインからでも森との境界付近にうごめく魔物たちがわずかに見えた。
『ほぼ初陣の方たちは無理をしないで、後ろを信じて決められた役割だけを! まだ手を出さないでください! 待ち構えているところに攻撃してもMPの無駄です!』
サーチで敵の動きを確認しながら、念話で全体に指示を飛ばす。
敵の軍勢はおおよそ5000。戦力150人程度の村によくこれだけ集めたというべきか。それとも全員2次職以上の魔窟に、高々5千で攻め入ろうというその勇気をたたえるべきか。
『敵は50から100の集団で、北部から南西部にかけて広く分かれています。敵の主力は動物タイプが殆どで、100G帯。サウザント級のテイマーが指揮をしていますが、落ち着いて戦えば敵じゃないです』
敵に
ただ大きな集団を作っていない所から、数は潤沢ではないと考えられる。なので小さな集団に分けて暴風系魔術を警戒しつつ、逐次投入をする腹積もりのようだ。
本当であれば斥候に側面から不意打ちをさせるなりして戦力を削りたいが、こちらの偵察に気づいているらしい。そう言う動きをされるので近づけない。ウォルガルフを始めとする、オーバーサウザンツも後半の奴らがけん制に動いてくる。
これを突破するとなると、3次職も後半、伝説級の斥候スキルが必要になるだろう。残念ながら今は人材が居ない。
『敵はどうやら正面決戦をご所望のようです。集団戦の練度が足りていない我々にとってはありがたい。的確に受けて弾いて行きましょう』
防衛陣の前には深さ1メートル、幅2メートルほどの堀があり、木製の置盾が前衛たちの身を隠している。
感知能力の低い魔物に対する目隠しくらいにしかならないが、ないよりはまし。身を隠す場所があるのは過剰な緊張を緩和させるし、魔物が魔力や気配を察知する能力にコストを振って居れば、そいつのステータスはその分下がる。
獣系は五感が鋭いとされるが、その分知能が低くい。テイマーが支持を飛ばさなければ、簡単な防衛トラップにも引っかかる。そして兵力から言って、同時にすべての魔物に的確な指示をだすなんてことは出来ない。
付け入るスキはある。
『ところで、本当に仕掛けてくるであるか? ホクレンに援軍を出させない事が目的なら、このままにらみ合っても目的は達するのである』
『……いやまぁ、そうなんですけど。こんだけの軍勢集めて攻めてこないとかないでしょう?』
無いよね?ないと言って欲しい。
ずるずるとにらみ合いをして、いつの間にかホクレンが落ちてましたとかお話に成らない。
『先制攻撃をかけますか?』
『アルタイルさんでも射程ギリギリですよね。ここから撃っても、確実に無効化されるのでメリットが……』
『では某が』
コゴロウの居る方に視線を送ると、大きく振りかぶって……投げたっ!
日頃の?投球指導と高いステータスから放たれた投石は、斜めに高度を上げていき、風に戻されつつも落下しながらも魔物たちの居る茂みの中に飛び込んでいった。
……投石が数百メートル飛んでる。
いや、ステータスからすれば確かにわかるのよ。
ただこう、客観的に見る機会がないというかさ、絵面にするとすげぇな。まねさせてもらおう。
ステータスに余裕のある前衛職が一斉に投石を開始する。
『……すっげぇ』
毎秒十数個の石塊が敵陣に降り注ぐ。
頭に直撃すれば100G級の魔物を行動不能にして余りある威力。着弾音がここまで響いて来る。
『奴さんらやる気になったみたいだぜ』
投石を始めて数分、タラゼドさんから念話が飛ぶ。茂みの奥から狼の群れが飛び出してきた。
『投石止め!前衛気を抜くな!弓兵隊、しっかり狙うである!』
突っ込んで来る狼たちに向けて矢が放たれ、それが的中した瞬間、雷撃を伴った旋風が巻き起こる。
範囲を広くしたそいつは、ちょっとやそっとの
『魔術師隊、まずは暴風でご挨拶ですよ!一番……放て!続けて二番準備……放て!』
アルタイルさんの号令で、旋風のさらに奥に居る敵に向かって
しかし敵もやられる一方ではない。放たれた魔術には
『強風を当てれば吹き飛ばせます!見えた所を狙って!』
兵たちの指揮は大丈夫そうだ。
「……さて、それじゃあ俺も。
今のINTでの効果範囲ギリギリ、爆煙の向こう側に小さな岩人形を生み出す。
サイズは20センチほど。視界確保とスキルを使うため人形は、その小ささから魔物に気づかれず活動できる。
旋風系を打ち込んでやりたいところだけれど、人形経由で発動できるスキルが無い。人の育成ばかりしてないで、今度魔術師の
そんな事を思いながら、後衛の術者らしきコボルトに狙いを付ける。
「……
魔剣士として覚えた火砲が発動し、魔術師とその周囲に居た数体の魔物をまとめて吹き飛ばす。
ひゃほぅ!シンプルに高火力、良いね。
バノッサさんも使っていた
魔弾系の発展魔術だが、アロー系より射程が長く、
もし地球だったら、『人道的に人に向けてはいけない魔術』に指定されることだろう。直撃すれば原形をとどめない焼夷弾みたいなもんだ。
「おっと、気づかれたか。それじゃ、
複数のサウザント級に対して挑発を放つ。
あいつらのターゲットはもちろん俺。
『敵が本格的に前進して来た!』
『抜けて来るのである!前衛気を引き締めろ!』
嵐を抜け、飛来する矢やスキルを割け、魔物たちがこちらに向けて突っ込んで来る。
背後からの魔術による援護を受けた獣たちは、堀を飛び越えて前衛へと殺到し……。
その第一波は湯に落ちた雪のように解けた。
装備が完ぺきとは言い難いものの、最低でも俺が作ったエンチャント武器を装備している。
100G級の魔物なんぞ通常攻撃でひき肉に変えられるのだ。
『側面、回り込まれると厄介である!注意されよ!』
『姑息な奴らは壁で叩いてやりなさい!前衛は圧に耐えられます!敵は熱した鉄板に押し付けられた氷も同然ですよ!』
大外から回り込もうとする魔物たちの進路に、
外に逃げられなければ突っ込んで来るしかないが、前衛は確実に魔物たちを処理している。
生き残る道はない。
5分、10分と時間が進むにつれ、敵の集団は全体が前に進行してきてい居る。
圧は強まっているが、それでもこちらの陣は崩れる事無く魔物を処理している。
このまま敵の大部分を始末できるか?
その考えが頭をよぎったと同時に、タラゼドさんから念話が飛んだ。
『敵の大将が動いたようだぜ!』
『どこです?!』
『真正面だっ!』
煙の中から銀色の狼人が飛び出してくる。ウォルガルフ!やっぱり来たかっ!
斥候が魔物の集団を偵察した際、あいつと接触している。双方やり合う気が無かったので戦闘には発展しなかったが、どうやら俺をご指名らしい。
せっかくだから相手をしてやらねば。指揮を任せた甲斐がないってものだ。
『あれは俺がやります!』
そう叫んで、物見やぐらの上から宙に身を躍らせた。
---------------------------------------------------------------------------------------------
現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます