第261話 デルバイ・ダンジョンへ
ペローマ皇国のデルバイ・ダンジョン――ほかにダンジョンが無いためペローマ・ダンジョンで通じるのだが、この街の住人は街の名前を取ってデルバイダンジョンと呼ぶことを推進しているらしい。町おこしの一環だろう――は、デルバイから歩いて2時間ほどの所にある。
元々デルバイの街自体が技術迷宮の探索拠点として発展した経緯があり、10キロも離れていないという好立地である。
しかしそれでは遠いと思う者もいるのだろう。
技術迷宮のダンジョン化した際に観測のための砦が気づかれたのに合わせて、周囲には宿屋飲食店、道具屋などの商店が軒を連ね、小さな村のようになっている。
「村の正面に防壁があるのは面白いな」
「あの防壁はダンジョンから魔物が出てこないようにする為の物だからね」
ダンジョンの周りをぐるっと囲うように石壁が築かれており、その出入口の外側に砦と集落があり、その周りをさらに木製の防壁と堀が囲っている。
策の中の砦は石造りの堅牢なものだが、村の方は簡素だ。ほとんどの家は木造の掘立小屋や布を張っただけの天幕で、軒数はそれなりな物の、あくまでも仮の街。
聞いたところによると村長もいないらしい。集落の管理は砦に詰めている貴族が担っていて、有事の際には保証無く退去、焦土化することを条件に商売を認めているようだ。
「それなりに店も宿も多いようであるな。ここを拠点にするのであるか?」
「ここは物価も高いし、宿も質も悪いって話なのであまり選びたくはないですね。探索を切り上げて街で休むなら、デルバイまで戻って良いと思いますよ」
俺たちの目的は技術迷宮の最奥。
情報がほとんどなく、どれだけの日数がかかるかは分かって居ない。記録として残されている中間地点までのルートも変わってしまっている可能性がある。最低でもダンジョン内で数日過ごすことに成るのは確実だ。その程度の距離をわざわざ短縮するメリットが無い。
「先の事は良いから、まずは迷宮を見てみましょうよ。城壁に登れるんでしょう?」
「さんせー」
観光地化を狙っているのだろうか。高さ20メートルほど、魔術で作られたらし石垣の上には誰でも上ることが出来る。
警備の兵に軽く頭を下げて、手すりの無い急な階段を上る。安全のためか、一応登りルートと下りルートが沸けられているようだ。この高さから落ちたら命にかかわるからかな。
上まで上がると、城壁の隙間から眼下に技術迷宮が見える。
「……大きいですね」
技術迷宮の上部は、4つの尖塔を持つ2階建ての城である。
外見はクロノスで見られるような石積みの建物だが、素材自体が不明な物体であり現在の技術では破壊することが困難。内部には複数の小部屋があり、最奥には迷宮の本体である地下へと続く扉がある。
上部エリアには罠などが無く、魔物も存在しない事から建物の入り口から順に、冒険者たちの休憩場所、ペローマ軍の駐屯地、教会の診療所、帰還の宝玉などの機関スペースのように活用されている。
「アレが丸ッと制作者不明、制作年代不明の遺物だってんだから驚きだよなぁ」
神代迷宮の上部は基本的に飾りだが、それでも何と言うか、異質なものであると感じさせられる。
おそらく魔力の流れがおかしいのだろうが、うまく言葉に表すことが出来ない。
「ちなみに、時の迷宮は上部が3階建ての時計塔、豊穣の迷宮は四季の森に囲まれた泉らしい。天空の迷宮は巨大な塔だとか」
現在分かっている神代迷宮はその4つかな。
どの迷宮も中継地点でその特性に応じた恩恵が得られるらしい。それが転職システムが導入された後に導入された物なのか、それともそれ以前からある物なのかはわからん。
他にも神代迷宮だろうと言われているものの、名前が決まって居ない迷宮がいくつかある。迷宮の名称は中間地点にに刻まれた石碑から取っているのだが、そこまで攻略されていないためだ。
「ねぇ、こっちに入り口が無いのは何で?入り口は今見えてる正面よね?」
「ああ、そりゃ中から魔物が溢れ出した時に、一番弱い門までの距離が最も遠くなるようにだよ」
城壁伝いにぐるっと回って中に入り、戻ってくる形で迷宮に入る必要がある。
ここから飛び降りたりスキルでワープしても中には入れるが、怒られるからやらない。ちゃんとチェックを受けないと冒険者ギルドでダンジョンドロップを没収されることに成る。
「さて、とりあえず中に入ろうか。MPが溢れそうだから門まで飛ばすよ」
城壁の通用門で書類に押印をもらい、入り口にある冒険者ギルドの受付で手続きを行う。
今日は正午からのダンジョン探索講習を受ける予定だ。ギルドランクとメンバーの職位から、半日の講習を受ければ後は自由に出入りできるようになる。
「結構な人数が居るのであるな」
「1次職のパーティーは必要な講習の受講回数が多いですからね」
ダンジョンの利点は経験値なので、金銭的な儲けはかなり不安定だ。中身入りの魔物もいるが、そう言うのは総じて中見無しの魔物より強い。狙って稼ぐのはリスクが伴う。
街で依頼を受けたり、山林でドロップの有る魔物を狩ってお金をためて、しばらくダンジョンに滞在して短期間でレベルを上げる。そう言う戦い方が一般的。
なので講習を受ける余裕が無いくらいならダンジョンに来るな、という事だ。
今日の講習参加者は16人。俺たち以外に、1次職のパーティーが3組。3人、3人、4人。うち1組はまだ10レベルを超えたばかりの駆け出しだ。そのレベルでも3人がかりでなら100Gクラスも相手に出来るから、それほどおかしな話では無い。
「それじゃあ、実地講習を開始するぞ。今日は全員2次職のパーティーが参加しているから、効率的に進めさせてもらう」
引率はギルドの職員。二人とも2次職で、それぞれ偵察兵と光の魔術師。フォーマルな組み合わせだな。
引率の職員を先頭にぞろぞろと迷宮の中へ。石造りの建物の内部には、いたるところに
「……なんで上り階段?」
「一度2階に上がらないと、地下へ降りる階段に行けないんだよ」
隣で首をかしげるタリアの疑問に答える。
今でこそたまり場に成っているが、このエリアも一応迷宮の一部なのだ。発見された当初は、行く手を阻むゴーレムとかが居たらしい。
2階に上がり、通路を抜けて折り返して1階へ。
診療所の説明を受け、帰還部屋の説明を受け、さらに進むと、円柱が並んだ小ホールの真ん中に地下へと続く階段が口を開けていた。
某RPGのように手すりも無く、上部に囲いも無く、まっすぐ地下へ伸びている。安全性もバリアフリーも考えられてない設計だなぁ。
幅3メートルほどの階段を下っていくと、その先は学校の教室3つ分くらいを繋げた縦に長いホールに成っていた。冒険者らしき集団がそこかしこでたむろしている。
「もともとここは神代迷宮の一部になる。知っての通り、そこに魔物ダンジョンが巣くう形で発生した。一目瞭然だが、ここから先は正面、左右の3ルートに分かれている。今は左ルートが空いてる時間だな」
「他のルートは通れないのですか?」
若い冒険者の一人が質問する。
「入り口の壁は神代迷宮の外壁が取り込まれているようで、破壊できなかった。ワープ系のスキルがあれば通れるが、基本的には開くまで待つことに成る」
確かに、ワープ系の高速移動スキルなら壁何ぞ無視して進むことが出来るな。
俺なら
「通度は約30分ごとに3つのルートが順に開く。開いた先でも時間によってルートが分岐している。見てわかる様に、足元にペイントがあるだろう。これは特殊な塗料で書かれていて消えることが無い。ダンジョン内の構造が変わると言っても、無秩序に変わるわけじゃ無いからな。線が伸びている壁は、一定時間待てば通れるようになると思っていい」
一定時間で壁が稼働するダンジョンは、一度迷ったら脱出するのは困難だ。これが無いと、ちょっと探索するだけでも命がけである。
「逆に、これが無いエリアはまだ未踏破のエリアという事になる。ギルドで入手できる地図にも未記載のエリアだ。見返りもあるが、危険が多い。発見報告だけでも報酬が得られるから、探索は慎重に行うように。また、認定されたパーティーなら仮マーキング用の塗料は購入が可能だ。
名指しされてしまった。
俺達は技術迷宮に抜けるルートを進むだけなので必要は無さそうだが、一応頭に入れておこう。
「それじゃあ先に進むぞ。遅れずに着いて来るように」
さて、引率ありとは言え初めてのダンジョン探索だ。
知識はあるが、経験はない。気を引き締めて行こう。
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□雑記
光の魔術師は神聖魔術をメインに使う2次職です。
1次職に神聖魔術師と言うのが居ますが、こいつは教会が『神の力を示すために神聖魔術に特化した1次職あったほうが良い』とゴネタ結果追加された1次職に成っています。
人の都合で光→神聖と呼称も変わっていますが、ややこしいので2次職の方は元の属性名のままにされました。
現在2話公開、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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