第260話 ダンジョン講習
ダンジョン。この世界においてそう呼ばれるのは、建造物、地形に擬態した巨大な魔物である。
多くは地下型、建造物型と言われるタイプで、洞窟や地下道に擬態した人通れる通路構造を有し、体内と言えるその空洞内には多数の魔物と罠が備えられている。
本体は通路の最深部に安置されたダンジョンコアと呼ばれる宝玉であり、これを壊さない限り、ダンジョンは周囲の魔力を吸収しながらゆっくりと成長していく。
ダンジョンには、それ以外の魔物とは少し違ったルールが存在する。
一つはダンジョン内の魔物。この魔物は多くがダンジョンコアの分身であり、核を持たないためドロップ品がない。倒すことにメリットの無い魔物たちではあるが、この魔物の強さで、ダンジョンの難易度を測ることが出来る。
ダンジョンはそのサイズと強大な能力と価値のバランスを取るため、活動時間が短い状態では極めて弱く、徐々に強くなるという特性を持つ。
能力が1G程度の弱い魔物が多い場合、生まれたばかりのダンジョンである。即座に1次職のパーティーでもダンジョンコア破壊に挑める可能性があり、一攫千金を狙える魔物として憧れの対象である。
能力が数十Gを超える魔物が多い場合、活動からしばらくたった初級と呼ばれるダンジョンである。
それなりの深度、魔物の体内であるため
また、基本的にダンジョンは魔物の数が地上よりも多いという特性があり、レベル上げには適した場所と言う特性から実入りは少なくても挑むパーティーも多い。
能力が100Gを越えて来る魔物が多い場合は中級ダンジョン。
最深部までは十数日かかるなとどいう事もざらにあり、攻略には2次職以上で構成された熟練のパーティーと、それをサポートする複数のサポート部隊が必要である。1次職後半のパーティーがサポート件レベル上げで活動している事が多く、最も積極的に活用されているのもこのクラスのダンジョンである。
そして魔物の能力が500Gを越えたあたりからが上級ダンジョン。
記録に残る最深部までの工程は一か月越え、強力な魔物も多く、ここまでくると3次職や4次職のパーティーを主軸にして、国が討伐支援をして何とか破壊できると言った所である。
正攻法での攻略は難しく、現在では魔物から魔力を簒奪することで弱体化し、中級ダンジョン程度まで力を弱めてから攻略するという方法がとられている。
そしてもう一つの違いは、ダンジョンは自らのコアである価値ある物に加えて、“魔石”と呼ばれる魔素結晶体を生産する。
魔石とは魔獣と呼ばれる魔力に侵された獣の体内から見つかる、生体濃縮された魔力の塊のようなものである。組成的には様々な元素の混合物であるが、鉱石として見つかる魔結晶などの魔力素材より魔力密度が高く、錬金アイテムを使う動力源として珍重されている物質である。
通常、生産能力を持たない魔物は何かを生み出すことは無いが、ダンジョンは魔石を生み出すことで自らを強化したり、体内に巣くう魔物を強化したりするわけだ。
そしてこの魔石は貴重な産出物であり、冒険者たちがダンジョンに挑む経験値以外の理由にもなっている。
「知ってるかもしれんが、デルバイダンジョンは現在中級に認定されている」
陽光が暖かくなりつつある3月を迎えてすぐ。
俺たちはペローマ皇国の地方都市デルバイへ入り、冒険者ギルドでダンジョンについての講習を受けていた。
「現在の魔物強度は1.5倍と推定されている。これはドロップの無い魔物が、ダンジョンの外に出る同種に対して概ね1.5倍の能力を持つという状態だ。ただし、ステータスが1.5倍なわけでは無い。概ねレベルアップのために必要な経験値が1.5倍多い状態で、能力がどう違うかは相手による。ゴブリン・キッドが魔物武器を出してくるとか、スライムが酸弾を打ち出してくるとか、変化は多様だ。熟練者ほど想定外の不意打ちを受ける可能性があるから注意が必要になる」
ギルドの講義室には、俺たち以外にも数人の冒険者が講義を受けている。
ダンジョンに潜る冒険者は、ギルドでの講義とペーパーテストの受講が義務付けられていて、これを通らないと探索させてもらえない。
俺たちの目的は神代迷宮なのだが、今は魔物眼ジョンがその一部を取り込んでしまっていて、直接迷宮の奥へ入ることが出来ない。
「それから、デルバイダンジョンのダンジョン壁は破壊不能だ。これは現在ダンジョンの一部として取り込まれた神代迷宮の内壁が存在しているためある。他のダンジョンの話を聞いたことが有る者なら、壁を壊して力業の攻略と言うのを耳にするだろうが、それは出来ない。実際にはすべての壁が破壊不能なわけでは無いが、力業は効きづらいというのは覚えておく必要がある」
魔物ダンジョンの内壁は力業で破壊することが可能だ。
地下型だと壁をぶち破って、魔物の体外へ脱出し
神代迷宮の内壁は魔術的な加工が施されているのか、3次職伝説級のスキルでも傷一つつかず、破壊不能ではないかと言われている。
「技術迷宮の地図は残っていますか?それでダンジョン壁が破壊可能か分かる気がするのですが」
「残ってはいるが、浸食によって原形が無くなりつつある。中に入ってしまうと、迷宮の地図と魔物ダンジョンの整合性を取るのは困難だぞ。魔物ダンジョンは時間によって形を変えるからな」
魔物ダンジョンは内壁が移動して、途中でルートが変わったりする。いわゆる不思議のダンジョン形式だ。あくまで空間の区切りが変わるだけなので、壁を叩き壊せるならまっすぐ進むことは可能ではある。
そこに神代迷宮の内壁が取り込まれて、破壊不能エリアが入り混じった状態になっているわけか。
「次にダンジョン内のトラップだが、標準的なトラップは一通り確認されているて、発見の難易度も平均を出ていない。詳細は死霊を見るように。現在特に注意を促しているのは分断トラップだ。動く床が確認されている。トラップでパーティーを分断した後、動く床で別々の所に運ばれる。床も魔物の一部であるので倒すことは可能だが、判断が遅れると合流の難易度が跳ね上がる。特にパッシブスキルの恩恵が無い1次職や駆け出し2次職は、撥ねる床などのトラップの影響を受けやすい。固まりすぎるのも離れ過ぎるのも危険だというのは肝に銘じて置け」
分断トラップは『せり上がる壁』みたいなのが有名だけど、強風と動く床の組み合わせだけでも、高速移動スキルや物理限界を突破するパッシブスキルを覚えるまでは脅威。撥ねる床も似たようなもので、足場が動かれるとどうにもならない場合がある。
「次にダンジョン内でトラブルに見舞われた場合だが……」
講師のギルド職員は滞りなくカリキュラムを進めていく。座学が苦手組も一応ちゃんと聞いているようだ。
俺たちが気を付けなければ成らなそうなのも分断トラップかな。
現状、ダンジョントラップを見分けられる能力があるメンバーが居ない。
集合知や
3時間の座学講習を追え、筆記試験へ。
これは5人共一発で通過できたので、次は実地研修だ。
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現在2話公開、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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