第95話 古の死霊術師・ブギーマン3
「くそったれがぁ!」
飛び掛かって来るソンビを一太刀で切り捨て、返す一刀でスケルトンを砕き、足元を駆け回る犬は蹴飛ばして、ついでに漂う剣をヘッドバットで迎撃する。
たまに先手を打って
「こちとらスキル無しでも秒間5回斬れるぞ!」
「ええい!威勢のいい小童め!」
ブギーマンの剣術の腕は高くない。人間で言えば駆け出しか、多少戦闘になれた程度。
おそらく本体では無くて、着込んでいる
こっちも技術的には似たようなものだが、日ごろの鍛錬のおかげで少しはましと言ったところか。
「仲良く抱擁してな!」
足元に沸いた人型アンデットを掴んでぶん投げる。
「気持ち悪い物をよこすでない!」
ブギーマンに召喚されたはずのそれは、ブギーマンに両断されてドロップへと変わる。そしてすぐに再利用されるのだろう。
「自ら生み出した魔物を気持ち悪いとか、鏡見たらどうだ?」
「あいにく瞳は空洞じゃて!
飛んでくる魔力の矢をステップで躱し、よけきれない物を盾で防ぐ。
数度ブギーマンと切り結ぶ。装備のおかげで状況的には拮抗している。
ステータスはブギーマン本体が上。だけど攻撃は盾や壁で防ぐことが可能で、近接戦闘の技量は俺の方がちょっと上。
相手は死霊召喚を織り交ぜてくるけれど、生半可な魔物では俺の鎧の防御を抜くことができない。
「雑魚をどれだけ生み出しても無駄かのぅ」
ガギンっ!互いの剣が交錯して甲高い音が響く。
「ならどうするよ!?
やくざキックからの
連続で決まるが、それでも倒せるようなダメージには成っていないのだろう。エリュマントスはVITが高いタイプだったが、多分こいつはそれに加えてHPが高い。
「そうじゃの。まずは特化使い捨てじゃ。
ブギーマンの呼び声に呼応して、周囲にバレーボール大の膨らんだネズミが浮かぶ。
いやな予感しかしねぇ。
「破せよ!」
ブォンッ!!
それらが一斉に破裂すると、衝撃と共に腐った内臓をまき散らす。くそっ!魔物だろうが!おとなしくドロップになっておけばいいものをっ!
鼠の亡骸風船は死んだネズミの中にガスと病原菌が詰まったアンデットだ。
対象の近くで爆発して、ダメージと状態異常を振りまいてくる。魔物はHPが0になればドロップに変わるが、こいつは爆発した後もHPが残り、スリップダメージで消えるまで気色悪いものが残る。
アンデット系が得意とする毒や疫病系の状態異常はトリガーナッツで対処できるが、気持ち悪いのはどうにもならん。あと地味に痛い!
「少しは効いたか?」
「治癒の範疇だね!」
「再生はこちらの十八番だというのに」
「知るかっ!」
数度切り結ぶも、ブギーマンはこちらの攻撃をしっかり防御してくる。封魔弾は避けきれないが、それを考慮してそれ以上のダメージを受けないよう立ち回っている印象だ。
HPの自動回復でも持っているかな?エリュマントスは手加減していたが、こちらはそう言う感じでもない。どうせ奥の手くらいは隠しているだろうけどさ。
ブギーマンはクロノス四魔将の中では、俺が最も戦いやすいと推測していた相手だ。今の能力なら、倒せなくても対処は仕切れるはずっ!
「次は力押しじゃな。見よ
リビングメイルから4本の腕と2つの顔が生え、6本腕の魔物に変わる。
手持ちの武器は両手剣一つ、槍一つ、杖一つ、メイス一つに、さらに盾?盛りすぎだろ!
「取り巻きたちに向かわせたまがい物ではないぞ。まあ、あちらもたかが1次職数人で倒せるような魔物では……なんじゃ、やられとる!?」
どうやらタリア達がやってくれたらしい。あっちの心配はしなくていいかな。
しかしどう攻めた物か。二つくらいまでなら捌けそうだが、それ以上はちょっと厳しい。やはり遠距離攻撃スタイルに切り替えるか。また
「死んでる割には感情の波が激しいな」
「やかましいっ!ええい、露払いすら出来ぬとは我が部下ながら情けない。あとでお説教じゃ。コストも軽くないというに……しかし邪魔が入っては興ざめじゃ」
そう言うと杖が振るわれる。背後に魔物たちが湧く反応。しかしそんなに強くはないな。
「仲間共に逃げろと伝えるが良い。追いはせぬよ。目的はお主じゃからの」
「残念だけど、この程度で逃げ出すようじゃ俺の仲間は務まらないんでね」
……逃げないよね?地味にタリアが不安なんだが。必要とあらば戦略的撤退よ、くらいは普通に言いそうだ。
いや、逃げてくれたほうが良いか?俺一人ならブギーマン振り切れる気がしなくもない。
……やめよう。互いに攻めてるから拮抗しているのであって、ブギーマンが一方的に攻め始めたらジリ貧にしかならない。こいつはそう言うのは得意なタイプだ。
「ならば負け戦をその身に刻むがよい!」
「悪いが俺は常勝無敗なんでな!」
コンティニューなんて無い世界で負けてられるか。
幸い、今の間にステータスを確認できた。倒せたのは雑魚ばかりだが、こっちも1次職。ちゃんとレベルが上がっている。
「ぬかせ!
数十本に数を増やした影の矢が周囲に発生し、ブギーマンの突進と共に飛来する。
魔術は
そうしている合間に相手の攻撃範囲。初手は槍。さらにメイス。両手剣は大きく振り上げられた。
「なんのぉ!」
一歩前へ。踏み込んで突きが鎧の上を滑る。
メイスの一撃は
力を乗せた両手剣の振り下ろし。防ぎきれないとの推測だろうが、甘い!
「
スキルを乗せた剣撃によって、ブギーマンの両手剣が砕け散る。
戦士30レベル後半からは
「なんと!?」
「
ブギーマンの盾が、槍が、粒子となって消える。
複数のアンデットモンスターを着こんでいる状態だろうが、その
何より技量がしょぼい!ロバートさんの方がよっぽど切れがあるぞ!
「これで全部だ
再度振り下ろされたメイスも砕ける。今のは判断ミスだろう。中と鎧で齟齬が出たな?
「ええい、殴り倒す!」
「
「ぬぅ!?」
攻撃が互いを捕らえるが、その瞬間、雷縛のバスターソードが高価を発揮し、雷撃と共にブギーマンを光の帯が拘束した。
「痛ぇ!おらっ!
動きの悪くなったブギーマンに、斬撃と封魔弾を叩き込む。今なら鎧のどこに当ってもダメージだ!
「おのれ、
「ちっ!」
目の前に具現化する陰に慌てて飛びのく。MPを吸収する壁に振れるのはさすがにまずい。
だが今の攻撃で鎧は崩壊を始めている。それに
「
「無駄な……なんじゃと!?」
投げたのは
「弓!?どこから!?」
「
封魔矢と呼ばれるようになった
避ける余裕はない。予想外に戸惑うのは、人も魔物も変わらないのだ。
「ぎぇ!?」
胸元に突き刺さった矢から特大の雷撃が発生し、ブギーマンの身体を焼く。
これまで
「はやすっ!?」
驚嘆を訊く前に3射目。ステータスの高さと
「抜かったわ!次に相まみえるときはこうは……」
「できれば会いたくねぇ!」
5射目。巻き起こる氷雪が辺りを凍てつかせたところで、ブギーマンの身体が崩れ始めた。
それは火葬される遺体のように、瞳の奥に灯る青白い炎が体全体に広がると、焼け落ちて崩れて灰となって消える。
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