第96話 戦い終えて・・・・・・
ブギーマンを倒しても、奴が召喚したアンデットが消えるわけではない。
近くにあるそれらしき反応を叩き潰し、ドロップ品を回収し終えた時には1時間以上の時間が過ぎていた。
「まさか、あのブギーマンを倒してしまわれるとは!」
さすがに疲れたので一息休憩中。
ロバートさんがしきりに感心してるが、事実はちょっと違う。
「倒してはいませんよ。追い払っただけです」
クロノス王国で暗躍する四魔将の一角、不死者の王、
エリュマントスと同格とされる魔物が、あの程度で滅びるわけはない。
「ブギーマンの討伐は、実際それなりの回数報告があります。にもかかわらず、たびたび復活して来ている。近年だと復活じゃなくて、そもそも倒せていないという論が主流ですね」
多くは推測になるのだが、戦場に出てきているブギーマンは本体から派生した分け身、または憑代のようなものだろうと考えられている。
「あいつの強さは、毎回結構違うらしいです。死霊の召喚をベースにスキルを持っていて、数で押してくるのは毎回変わりませんが……今回は多分ステータス高めですね。でも、価値は
ドロップ品が分かりやすい金貨では無かったので正確には分からない。
トータルでのドロップも2万Gちょっとっぽいし、エリュマントス同様全力でなかったのだろう。様子見のつもりで襲ってきたというのが正しそうだ。
「お二人とタリアが倒した大物が2000G超えてそうでしたから、今回の敵の戦力は30000Gを切る位ですかね。よく倒せたなぁ、と言う気はしなくもないですが、この辺は組み合わせしだいでしょう」
ブギーマンが1万。それに最初に召喚された強力な魔物が3体でおおよそ6千。ブギーマンの鎧は想像より安くて3000くらい。残り1万は数合わせの雑魚だ。
ステータスが高くなったり2次職で装備が整うと、100Gの敵100匹とか数だけでは大した脅威じゃなくなる。
ブギーマンが強いのは、数で押す中に強力な魔物を混ぜてくる点と、再利用によってエンドレスで魔物を送り込んでくるところだ。
今回、
……アンデットだからって火で焼いたけど、ドロップ集めるなら
「タリアは精霊魔術を使った初の実戦だったけど、どう?」
「他と比べられないけど……戦い方は分かったわ。効果特化って感じで、効力は高いけど扱いが難しい」
「骸骨兵を縛り上げた蔦の束縛は凄かった。抜け出そうとした状態から更に追加で拘束していたな。魔術師の術はああは成らないはずだ」
「その代わり集中してなきゃならないから、動かしてる間は他のスキルはもちろん、攻撃も防御も難しいわよ」
「移動ぐらいは出来るようにならんとね。まあ、慣れだから使っていくしかない」
今回の戦闘でタリアが使った精霊魔術は、6種類。
魔素の精霊の力を借りた
炎の精霊の力を借りた
風の精霊の力を借りた
大地の精霊の力を借りた
森の精霊の力を借りた
あらかじめ作っておいた魔術の中で使わなかったのは、光の精霊の力を借りた
あらかじめ
昨日の今日で実戦で使いこなせたって所にまずセンスがある。幸先いいね。
「ブギーマンはまた襲って来るでしょうか?」
「あいつらの行動理念から考えて、しばらくは無いと思う」
王都周辺での蜂起でどれだけ財を失ったかわからんが、今回も安く無い出費だったはずだ。
アインス攻撃もエリュマントスが落ちた事を考えれば赤字だろう。しばらくは大人しく財をため込む方に舵を切るだろう。
それに……今回の戦いで俺を狙う理由も薄くなったと思われる。種が割れてしまえば、目の敵にされるほどではないはずだ。
「さて、そろそろMPは大丈夫ですか?」
異能がおかしな仕事をしている俺と違って、3人のMPはそう多くない。
MP少なめな二人は元より、精霊魔術はMPの消費は高めになり易く、回復まで時間を置く必要があった。
「……ええ。回復してますが……はっ!?」
「そろそろ出発しないと、日暮れまでに街にたどり着けませんよ」
ブギーマンと対峙したときだって、そんな顔しなかったろうに。
………………
…………
……
□深きいずこか□
「いやぁ、まいった。負けたわい」
「そんなすがすがしく言われてもね」
光挿さぬ穴倉の底で、2匹の魔物は顔を合わせていた。
「平時の五分の一、儂自身も十分の一以上の価値を投入して追ったが、コテンパンじゃよ」
「……大概だね。それで、どうだったのさ?」
「うむ。エリュマントスの輩が破れら理由はなんとなくわかったぞ」
「へぇ……理由は?」
「おそらく、キーは
ワタルとの戦いの中で、ブギーマンはその存在を感じ取っていた。
「
「儂も同じような物じゃが、そうじゃな。あやつが戦いの中で使ってきたのがこれじゃ」
そう言ってスリング用の小型鉄球や矢を取り出す。それはワタルから攻撃を受けた際にがめてきた戦利品だった。
「最近アインスで流行りだしたと聞いている封魔弾じゃったか?流れるように的確な術を放って来るから疑問だったのじゃが、最後に矢を打ち込まれて分かったわい。
「ふぅん……オイラはその魔術は使えないから分からないんだけど、それでエリュマントスが倒せる理由になるの?」
「うむ。あやつは最近専用の武器を手に入れて浮かれておったじゃろ。それをぶんどられたのじゃよ。自信のスキルがしこたま乗った状態での。それで反射された」
「……どういう事?」
「この魔術は収納した際のエネルギー失わぬのじゃ。ほれ、こうして……」
ブギーマンが手を伸ばすと、壁に向かって矢が飛び出した。
「儂ら魔の物は、人の撃ったものを取り込むようなことは出来ぬが、同じ魔物に放たせたものなら可能。人間も同じじゃろう。とはいえ、威力が高いものはそう無理じゃがな。腕が吹き飛ぶ」
「原理は分かったけど、それ、そのワタルって人間も同じじゃないの?」
「何とかしたんじゃろ。
「なるほど」
それを聞いてボガードは頷いた。
エリュマントスが最後に頭をかち割られた理由も、それならなんとなく想像がつく。はっきり言って自滅である。
「ステータスは確かに高そうじゃ。じゃが、動きの限界を超えては居らぬ。そこまでの脅威ではないの」
「どうする?本気で潰す?」
「いや、放置じゃろ。2次職には成るじゃろうが……その先に行くかは分からん。レベル99など国がそう放ってはおかんじゃろ?良い位置に落ち着いてくれれば脅威にはならん」
人類初のレベル50を突破した人間。人間の世でも価値は高い。
普通であればそのまま国の要職にでも採用され、ぼちぼちな人生を送るだろう。
「あやつの所為で戦況が厳しくなるとて、我らとしても新たな情報がもたらされたのは変わらぬ。それに人はそう長くは生きぬ。どんな英雄も50年も待てば死ぬ。英雄を倒すより、その力を引き継がせぬ方が効率が良い」
人と魔物に流れる時間は違う。
必要なのは確実に滅ぼす事であって、焦る必要は無いのだ。
「そうだね。3次職相当って事で、積極的にかかわらないように本国にも連絡かな。そいじゃあ、オイラは仕事に戻るけど、どうする?」
「儂はあっさりやられたマヌケどもを呼び出してお説教じゃ。そのあとは大人しく秋の森で実りの収穫にでもいそしむわい」
「それじゃあ、次はルサールカが戻ってきたら集まるって事でヨロシク」
そう言うとボガードは陰に溶けて消えた。
「さて、いちおう最初に言い訳くらいは効いてやるとするかのう」
そう呟くとブギーマンは魔物たちを召喚する。
不死者たちの夜は長く、それゆえにまた、苦痛も長く続くのだった。
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