閑話 精霊魔術を覚えてみよう
時は前日の昼過ぎ、タリアがとばりの杖を使ってレベルを上げた直後にさかのぼる。
「せっかくだから精霊魔術を覚えておこう」
ちょっと遅めのランチを軽食で済ませ、森から街に帰る最中でそう切り出した。
「覚えてって、言われても……スキルが良く分からないんだけど」
精霊魔術は結構使い方がややこしい。自分で使うわけじゃ無いから、順を追って説明してあげないと。
この辺のマニュアルが未整備なのも、人間の精霊魔術士が少ない理由だろう。
「えっと、新たに覚えたスキルの中に、精霊対話っていうスキルがあるよね」
「あるわ」
「精霊魔術は、その精霊対話を使って、精霊魔術ってスキルの後ろにある数値の数だけ作成できる」
「作成?」
「うん。まずややこしいので魔術師が使っている魔術を真言魔術、精霊魔術士が使う魔術を精霊魔術と呼ぶことにするね」
ほんとは神制魔術と呼びたいのだけれど、属性の方と日本語の発音が被るので俺がややこしい。
「真言魔術は、魔術発動の真言、つまり
「……う~ん?」
「例えば……この木の枝。この枝をここから向こうまで運ぶ魔術があるとする。真言魔術は誰が使っても、この枝を投げる。でも移動させる方法はそれだけじゃないよね」
「持って行けばいいって事よね」
「うん。持って行くのも。持ち上げて運ぶ?それとも引きずって運ぶ?それとも空中に浮遊させる?それぞれに結果は似たようなものでも、かかる労力は微妙に変わって来るよね。どういう風に運ぶか、どういう風にお願いしたら運ぶか、それを決めるのが精霊魔術を作るって事だね。お願いってのが呪文、つまり詠唱。精霊対話で周囲にいる精霊に話しかけて、こういう事してほしいんだけど、どれくらいのINTやMPで出来るかを聞きながら、最終的な効果を決めるわけ」
「……難しいわね」
「要望だけ伝えて、後は精霊にお願いするといいよ。最初に作る魔術は、俺が集合知で良さげなものを調べたからそれにしよう」
精霊魔術士の多いエルフたちは、自分たちで独自に魔術の継承をしているらしい。
せっかくなのでその知識を使わせてもらおう。
「ここは森の中なので、最初に作るのは
「森?」
「精霊は自然物と概念に宿るから。木の精霊、草の精霊、花の精霊のように個別の精霊が居るのと同時に、草木の精霊なんて2つの概念をモノもいる。森の精霊は、木々が生い茂る林や森のそばにいる。木の精霊より大きな力が振るえる」
逆に”凪の平原に一本だけ生えた木の周り”のような場所には居ない。
また、木々が茂っていても自然に森が発生しないような場所には居ないとかなんとか。
「
「なるほど。イメージしやすいわ」
「でしょう。んで、精霊魔術を使うにはもう少しイメージが必要なんだ。例えばこの地面。蔦なんて無いよね。ここで魔物を拘束しようとすると、蔦はどこからくる?」
「……その辺から持ってくるとか?」
「それも間違いじゃないね。でも、森ってそんな積極的に動くかな?」
「動かないわね」
「うん。だから森の精霊に、蔦をどこかから持ってきてもらって絡みつかせる、はとても効率が悪い。精霊は自分の管理する力の範疇ならローコストで減少を起こせるけど、そうじゃない事象には高いコストがかかる。
「……イメージは分かるけど、種も無いのに蔦が生えるの?」
「森だからね。森と言う概念の中では、植物は偏在する。成長し、花を咲かせ、実を付けて子孫を残し、やがて枯れて朽ちる。その朽ちた植物を糧にまた新たな命が芽吹く。この概念の中なら、森の精霊は大きな力を振るえる。たから木の精霊や草の精霊じゃなくて、森の精霊に頼むんだよ」
「……なんとなく、理解できた気がする」
「残念だけどまだ続きがある」
精霊魔術士は、発生する現象についての理解が深ければ深いほど良い。
最低でも
そう言う知識を一通り得ているのとそうでないのでは、効果が全く変わって来る。
この辺は集合知を持ってる俺向きの特性だな。
「……ムカゴやヤムは美味しいのよ」
流石は山里出身。味に関しては抜かりが無かった。
当人は余り野良仕事などしなかったと言っていたが、そんなことは無さそう。多分日本やられる趣味の家庭菜園よりは野良仕事をしているのだろう。
比較対象が農民だから、本人感覚ではやっていない、ってだけだなこれ。
「それじゃあ、呼び出してみるわね。えっと……生命育む森の精霊さん。私の声に応えてくれるのなら、少しお話しませんか?」
タリアが精霊に呼びかける。
この辺の対話の仕方は個人差が出るところ。精霊への信仰心は無いはずだけど、小精霊の時に感じた印象の影響か、その語り口調は穏やかだ。
「うん、初めまして。ごめんなさい、私にはまだあなたの姿はよく見えないのだけれど……うん、大丈夫よ。そこに居るのは分かるから」
精霊知覚のレベルが低いタリアでは、精霊の姿を正しくとらえられないのだろう。
そもそもはっきりとした形がある存在じゃないし。俺は全く見えないから、ここで見ているとタリアが独り言を言っているようにしか見えない。
・・・・・・精霊との対話は、こっそりやる人が多いのはこのためか。
「
精霊は概念的な存在だから、どこで呼んでも情報を共有している。
しばらく見守っていると、タリアの目の前にシュルシュルと蔦が伸びて、その後枯れ落ちて土に還る。
「ありがとう。これからよろしくね。……たぶんできたわ」
「おめでとう。イメージはつかめた?」
「ええ。でも、実際の魔術の方は使ってみないと分からないわ。精霊の言葉通りならコントロールも難しそうだけど……ワタルには声は聞こえてないのよね?」
「うん。俺にはそのスキルは無いからね」
取れなくはないけど、タリアに任せよう。
精霊はちゃんと人格があるようだから、構わないと拗ねるじゃないが、よくない影響があるらしい。
「森を抜けたら、後幾つか魔術を作っておこう。ベースを作るだけなら10分くらいあればできるはずだから。作り直しもできるしね」
「……そうね。精霊魔術の枠は20個あることに成ってるから、幾つか作って試してみましょう」
街近くの開けた場所に出た後、その場で感じられる精霊を読んで魔術を作った。
精霊魔術の定番である
その後、空いた時間で魔術無効化の
光や音の指向性をうまく理解できなかったらしい。
まあ、いきなりこれら使わなきゃいけないような状態にはならないだろうし、王都についたらちょっと時間を取って練習することにしよう。
と、これがフラグだったのかなぁと後になってから思うのだった。
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