第263話 ワープで進むダンジョン探索

「あ~、それではデルバイ・ダンジョンの攻略を始めたいと思います」


研修を受けた翌日の朝、デルバイからの移動組に交じって、俺達は再度迷宮の地下までやって来ていた。

第一陣の参加者はダラセドさんをリーダーとした亡者6名。死んでから2次職になった者も含めて、全員が2次職の前半から中盤だ。


「探索方法は事前に打ち合わせた通り。先行組よろしくお願いいたします。魔力強化マナ・ブースト魔力探信マナ・サーチ!」


迷宮の入り口からブーストを乗せたサーチを発動。

サーチは土の中などは効果範囲が狭まるが、魔物ダンジョンでは繋がっている通路をたどる形で、約1キロ先までその形状を教えてくれる。

そして、サーチの範囲内に居る魔物や冒険者の位置も手に取る様にわかる。


周囲にいる冒険者たちがざわめく。さすがにサーチを感知できるものが多い。さっさと始めてしまおう。


「影と共に、何処いづこかに在れ!影渡しシャドウ・デリヴァー!」


6人の亡者を探索範囲の奥、冒険者が居らず魔物が居るエリアに送り込む。数十秒で魔物の反応が消えた。


『片付いたぜ。罠も無い。通路途中の小部屋だ』


『ありがとうございます。それじゃ、皆行くよ』


タリア、アーニャ、バーバラさん、コゴロウに、アルタイルさんを加えた5人を同じく影渡しシャドウ・デリヴァーで転送。自分も影渡りシャドウ・トリップで追う。

周囲の反応がガラッと変わって、魔物ダンジョンの中へ移動した。


「お疲れ様です。守備は?」


「問題ない。魔物も雑魚だった」


床に書かれた部屋番号から、飛んだおおよその位置を確認する。

ギルドが把握しているダンジョンの構造は目を通してあるから、想起リメンバーを使えば大体の位置がわかる。


「先発隊、もう一回送ります。アルタイルさん、しんがり部隊の召喚を!魔物が向かって来ているようです」


「取り出すだけですけどね」


再度タラゼドさん達を奥へと転送。転送先の安全を確保してもらったのち、自分たちを転送。

転送後の部屋に魔物が集まってこないのを確認したら、しんがり班を回収。5分足らずで2キロ近い距離を進むことが出来る。


「これ、私たちはどこにいるか分からないから、ワタルが居なくなったら全滅じゃない?」


「部屋番号が書かれている内は、覚えた地図に帰りのルートが記載されているから大丈夫だけど、そもそもはぐれる何てヘマする気は無いよ」


今度の部屋は自然洞窟タイプ。100%魔物ダンジョンかな。

この部屋には魔物が5匹ほどいた。一つは反応が少し強かったが、先行した6人が問題無く処理。ドロップは変哲の無いパッチワークが当てられた布だった。材質が分からん。結構大きいから、100から200Gって所かな。


「いったんサーチ切ります。アーニャ、タラゼドさん、それぞれの出入り口で索敵をお願い。近くの部屋からこっちに向かって来てる」


「あいよ!」「まかせといて!」


部屋の番号を確認すると、1階層目の半ばまで来ている事が分かる。

通常のルートを歩いたら3時間くらいの所を5分足らずか。超早いな。


「ワタル、MPは平気なの?」


「いや、結構な勢いで減ってる」


何せ亡者12人を人格再填リ・ロード状態で動かしているからな。

影渡しシャドウ・デリヴァーもタダでは無いし、MPは結構消費する。


「ここはぼちぼち広いし、例の回復方法を試してみるよ」


ここは魔物の体内だ。今踏みしめている地面も、壁や天井も、魔物の一部である。

なのでこいつらを資源として使って回復する方法が有ったりする。


魔素吸収マナ・ドレイン


壁に向かって左手をかざすと、MPが徐々に回復を始める。

おお、集合知に有った通り、暗黒属性の魔素吸収マナ・ドレインならダンジョンからMPをかすめ取れる。実質MP無制限じゃないか。


「壁が崩れて行ってるんだけど」


「ダンジョンの一部が、MP吸われ切って壊死してるんだよ」


INT4桁にあらがうほどの能力は無いらしい。崩れても影響の少ない壁や地面からMPを吸うと、十数秒で満タンまで回復した。


「……もっと闇の魔術師は流行ってもよさそうなのになぁ」


死霊術師ネクロマンサーも暗黒属性の魔術を多く覚えるが、本業の闇の魔術師には及ばない。

魔素吸収マナ・ドレイン影渡しシャドウ・デリヴァーも闇の魔術師が使えるし、パーティーに一人いればダンジョン探索がかなり楽になるはず。ダンジョンのINTはそこまで高くなさそうなので、2次職中盤でINTに寄ったステータス配分ならドレインで無限MPが出来るだろう。


……魔素吸収マナ・ドレインの短剣とか作ってみるかな。魔力密度100%の魔鉄を使えば作れるはず。


『ワタル殿、部屋の魔力流れがおかしいです!天井付近に何か集まってます』


亡者たちの維持のため、そのまま周辺の魔力を吸っているとアルタイルさんから念話チャットが来る。


『ああ、了解です』


『なに?』


『ダンジョンを破壊したから、防衛本能でここに魔物を送り込むようだね。出現ポイントは部屋の真ん中か。全員壁際に。生者はこっちに集合』


『そのくくりで呼ばれることに成るとは思わなかったのである』


わかりやすかろう。

魔力探信マナ・サーチを起動して周囲の反応を追う。

……核無しの雑魚が20匹ぐらいに、上から出て来るのは……3000Gから5000Gの間って所かな?


『上のが大きそうだけど、やりたい人いる?とばりの杖よりちょっと強い位と思う』


『あ、あたしやりたい。新しい武器の試し切り!』


『私も同じく、ナックルを試したいです』


アーニャとバーバラさんの反応が早かった。

二人とも武器と防具を新調した後、とばりの杖で試し切りをしてみたが、装備が強すぎて性能の把握が出来ていない。俺もなのだが……ここは譲るか。


『じゃあ、他の皆は露払い。亡者の皆さんは通路から魔物が来たらそっちも抑えて。来るよ』


地面から湧き出したのは20匹ちょっとのゴブリン。それに続いて、金属鎧に身を包んだオークが上から降ってきた。轟音が響き、洞窟が揺れる。崩れやしないよな?


「飛翔斬!」


最初に仕掛けたのはコゴロウ。不可視の刃が飛来し、近くにいたゴブリン3匹をまとめて薙ぎ払った。俺も!


「念動力・雷!」


雷光煌めき、タリアの放った雷撃で残りが一網打尽になった。……出番がねぇ。


『オークは残しといたわよ』


『姉さん、ありがとう!』


『アーニャ、行きますよ!』


バーバラさんとアーニャがオークに挑みかかる。こりゃ見学モードだな。

敵はおそらくオーク重装兵。身の丈は2メートル半ほどで全身を金属鎧で多い、金棒に近いメイスで武装している。


「グモォォォォッ!」


オークの振り下ろしの一撃が間合いを詰めたバーバラさんを襲うが。


「はっ!」


ギリギリまで引き付けて緊急回避ロールで回避。地面にたたきつけられた金棒の持ち手を裏拳で払う。

それだけでオークのガントレットが大きくへこみ、片腕の半ばが『くの字』に折れ曲がった。インパクトの瞬間スキルを使ったかな?


「せいっ!」


流れるように踏み込んで回し蹴り。その一撃で更に鎧がひしゃげ、よろめく。


「あたしの出番がないじゃん!」


「いえ、そんなことは」


片腕で金棒を持ち直しオークの攻撃を余裕を持って避けると、今度はアーニャが前に出る。

バーバラさんより早い。オークの攻撃を避け……そう思った瞬間、無事だった片腕が切り落とされ、メイスが宙を舞っていた。


アーニャ、高ステータスにかなりなれている。動きが洗練されていて無駄がない。もう後ろに回り込んだ。

武器を落とし、防具が効果の薄い状況ではもう手も足も出ないな。

緊急回避ロールで近づいたバーバラさんの正拳突きと、アーニャの頸椎への斬撃が入るのはほぼ同時。生物の構造上の急所にダメージを受けた魔物はそれであっさり霞となって消えた。

……追加はなさそうだ。


スキルタイプの魔物だったかな?

ステータスタイプやHPタイプなら、もう少しは耐える気がする。実力を発揮する前に倒されてしまったのは無念だろう。こちらとしては理想的な戦い方だった。

ドロップは魔物武器の弓。コゴロウが一応使えるが、亡者の狙撃手に持たせても良いかも知れない。

まぁ、外で鑑定してもらってからだな。


『お疲れ様。お代わりが来ない内に一部屋移動しよう。みんなあっちに』


今の一団はダンジョン側も様子見だろう。

今いる一階層は魔物の攻勢もそれほどきつくない。サクサク進んでいこう。

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現在2話公開、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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