第264話 未踏破領域の探索開始
『
部屋を進んで襲撃に備えるが、本当に追撃は無いようだ。
『これで魔物の価値を吐き出させることが出来るんじゃねぇか?』
『ええ、防衛に十分な兵力があれば行けると思いますよ』
タラゼドさんの問いにうなづく。上級ダンジョン力業攻略の方法の一つだし、ダンジョンが弱るまで続けるのも一つの選択肢ではある。
ただそういう事をすると、おそらく1万G級の魔物が大量に送り込まれたり、関係のない所が襲撃されたりして、最終的にコアが俺たちの居るエリアを尻尾切りして逃げ出したりするので、一つのパーティーでやるのは好ましくない。
そう言う攻略法は、軍を動かしてダンジョン周りに逃亡防止の結界を張るとかして実施するもんだ。
『亡者の生け贄作戦がうまく行っているので、さっさと1階層を抜けてしまいましょう』
『亡者なのに生け贄ってどうなんですかね』
そこは気にしなくてもよかろう。
ワープ系スキルでダンジョン奥地に人を送り込んで攻略をするのは、方法としては存在する。
ただ、トラップの有無が分からなかったり、ワープできなくなった場合に帰り路が分からなくなったりとリスクが高く、死亡率がシャレに成らないので基本的には禁止されている。
俺は生きている人を送り込んでいないからセーフだ。
……下階に降りるための階段へ続く道は……この辺かな。ちょっと確証が持てないが……紙に書いた地図の精度じゃ限界があるな。測量士や地図職人が頑張ってくれているが、描く方の技術が追い付いていない。
『暗いかもしれないので注意を。魔物の反応は無しです』
先遣隊を転送。……部屋が動いた。トラップがあったか。
しばらくすると安全確保の連絡がきた。
『釣り天井に成ってたが、預かっていた封魔弾で吹き飛ばした』
『この部屋にトラップの情報は無いですね。一応メモして、ギルドに報告しておきましょう』
床の記号で部屋番号を記録して、また転送を繰り返す。
2回ほど飛んだ先で、下階への階段と1階層のボス部屋を見つけた。
どうやら1次職のパーティーがボスに挑戦中のようだ。7人居るから、かなり本格的に下階探索を狙っているパーティーだろう。
『集団からは少し離れた所に転送します。先行組、必要ならフォローを』
いきなり索敵範囲内にこの人数が現れると混乱するだろう。
6人を転送してしばらく待つと、来て問題ないというのでワープする。
『今の所危なげなところは無い。時間で押し切れるだろう』
1階層のボスはグレイトアックスを持ったミノタウロスだ。魔力反応から言って2000G弱の能力かな。ステータス高め、高速移動スキルや物理限界突破は無し。
対する1次職のパーティーは、前衛が盾戦士、侍、槍兵の3人。それに斥候、弓兵、魔術師、
敵の攻撃を盾戦士が受け止めながら、確実にダメージを与えていく。10分弱の攻防で無事にミノタウロスを撃破した。大きなダメージを受けた様子もない。
「お疲れ様です。リーダーはどちらですか?」
聞くと対外的なリーダーは最前線でタンクをしていた侍だそう。……実際のリーダーは指揮をしていた斥候の彼かな。全体を見るのは指揮官の資質がある者の役割だが、斥候は相当ランクが高くないと侮られるから、対人で表立って活動するものは別に立てる、なんてのはよくある事。
「
「
サイゾウ・イチノミヤ氏は俺より一つか二つ上位の人間族だ。
人間族以外だと、魔術師がハーフリング、
「ええ、深く潜る予定なので。我々は2階層に居りますが、先に行きますか?」
「いや、MPをだいぶ消費したから、しばらくはココで休む。先に行って貰って構わない」
「わかりました。お気をつけて」
「そちらも、検討を祈る」
二階層の先行をゆずってもらったので先に進もう。
『結構深いわね。階層を分ける階段にトラップが有ったりしない?』
階段は通常の建物の倍くらいの長さが有りそうだ。転んだら死ねる。
『階段にトラップはよくあるけど、ここは平気かな。必ず通るルートに致命的な罠があると、到達不可能になって、魔物の価値が下がる』
回収できない宝は無いも同じ。ないも同じなら魔物の力も無くなるわけだ。
「2階層も同じ探索方法かい?」
「いえ、2階層からは未探査エリアがあるはずなので、まずはそこに行って実験ですね」
現在、ギルドが把握しているこのダンジョンの最深部は5階層。
3階層から技術迷宮へつながるルートがあり、俺達はそちらへ抜けるつもりで居るが、2階層から3階層へのルートは、かなりの回り道を強いられることに成る。
軟弱な俺としては、魔物の腹の中に居続けるのは落ち着かない。
普段は気にならない高速移動スキルのクールタイムも気になるし、さらに正攻法以外の方法を使っていく。
「まずは3回ほど飛びます」
サーチを利用して3回ほどワープ。想定していなかった通路が空いていたため、途中で目的の部屋と別の所に飛んでしまったが、幸い大きなルート変更は無く目的の部屋へ。
洞窟タイプの大部屋で、目の前には大きな地下水だまりが出来ている。天井を支える柱の向こう、対岸にも岸があり、洞窟が続いているのが分かる。
「ここは本ルートからは外れていますが、給水ポイントとして立ち寄る冒険者が多いエリアです。ですが、対岸の洞窟内は探索が進んでいません」
先に3階層への通路が見つかってしまったため、そちらとは逆方向に伸びる洞窟を探索しようとはならなかったらしい。魔物は居ても、別に宝箱は無いからな。
1階層と違って人が少ないため、このエリアに人影はない。サーチの範囲に入って来る反応も1回のワープで二つか三つのグループだった。2階層で活動している冒険者は、おそらく二桁前半と言った所か。3階層はもっと減るだろう。4階層で活動しているのは、5階層探索パーティーのサポート組かな。
「俺のサーチだと、技術迷宮に戻る方に伸びている事が分かります。好都合なので、あちらに進もうと思います」
「渡るのはワープかい?」
「ええ、地下水は冷たいですし、泳ぎたくは無いでしょう」
ここの開拓が進まなかった理由は、他者をワープさせるか、浮遊や飛行で運ぶかできる魔術師が必須だったからだ。
地下ダンジョンはその性質上、鳥人や魚人は探索を行いたがらない。地下水だまりはかなりの深さがある事が分かっていて、パーディーで向うに渡ろうとしたらかなり面倒。
その上水中に魔物の反応があり、船でのんびりと言うわけにも行かない。目視じゃ分からないが、渡った先にも魔物が待ち構えている。
「先遣隊、よろしくお願いします」
「あいよ。お前ら行くぞ!」
集まってきた魔物たちはドロップなしの雑魚ばかり。
大きい反応がいくつか見られるけど、動かないか。
「さて、ここから先は歩いて探索なので、しばらくは生きてる組で進めましょう」
未探索領域をワープで進むのはちょっと怖い。道が閉じてしまったら元の場所に戻れなくなる。
亡者の皆さんに先行してもらっても良いけど、人数を出した状態でゆっくり動くのはちょっとコストが重い。
「んじゃ、俺達はしばらく休みだな。また一瞬後に、か?」
「ええ、次は街中でバカンスを期待してください」
「俺は宝探しでも良いけどな!」
亡者の皆さんをアルタイルさんが回収し、彼も
これで常時消費するMPがだいぶ減った。
「ようやく本番ね」
「うん。バーバラさん、アーニャと交代しながら時折サーチを。しんがりはコゴロウお願い」
「先頭はあたしか?」
「パーティーの先頭はアーニャよろしく。でも先行はこいつ」
完全修理して、さらに人形機構をアップデートして扱いやすくなったMARK3。ヒノ工房の技術も組み込まれていて、消費MPが初代の半分くらいに成っている。ダンジョン探査用に
「それじゃあ、気を引き締めて行こう」
光の差さない洞窟の奥へ、人形を送り込んだのだった。
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明日は週1の休載日となります。次回投稿は10/10(月)の夜を予定しております。
1日空くと思いますが、よろしくお願いいたします。
現在2話公開、スピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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