第34話 外周遠征調査!一日目
凪の平原でのゴブリン出現騒ぎは、襲撃された
けが人も出ているものの、実質的な人的被害は無し。襲撃したと思しきゴブリン数体も討伐された。
しかし奪われた装備や財産の一部は見つかっていないことから、問題が解決したわけではなく、アインス周辺の魔物の戦力は変わらずであろうと見立てられた。
そして翌日。
予定通り外周遠征調査が開始され、冒険者たちは街の周囲に散っていった。
………………
…………
……
「ほいっと」
グローブさんが放った弾丸がカエル型の魔物に直撃して爆ぜる。魔物は炎の槍に全身を貫かれてドロップ品へと姿を変えた。
「うん。いい感じだな。……
地面に落ちたリユース封魔弾を拾って、再度MPを籠める。
「効率はどうですか?」
「威力を考えりゃ問題ないな。そもそも
「それなら実戦で使えそうですかね」
「問題もあるぜ。その中でも一番大きいのは、本当にヤバイ状況、撤退戦なんかだと使いづらいな」
「どういうことです?」
「おそらくこいつ自身の価値が高すぎる。これ一発でサウザント級の魔物が生まれる可能性を考えると、回収が見込めない戦いでは使いづらい。そういう場合は使い捨てのほうがありがたい」
「……なるほど」
回収できなきゃこれが魔物化される可能性は否定できない。
この世界ではギルドや国の取り組みで消耗品である矢や弾丸と言ったものは価格が安く抑えられている。矢などが高価であれば、倒せる魔物以上に強力な魔物を生んでしまう。それを防ぐために流通と生産を安定させる努力がなされた成果だ。
「となると、やっぱり使い捨てが良いか。あとはやっぱ回収を考えなくていい装備に付与すべきか」
やっぱり近接武器に仕込むのが良いか?
出来るだけ遠距離のほうが安全に戦えるのだけれど…………そういや鞭があったか。武器として使ってる冒険者はレアだけど、分銅付きのチェーンウィップなんかは一部の職では使われてるな。
しかし、あれは扱いが難しいっぽいんだよな。使用者の技量に影響を受けない高火力のほうが理想的なんだけど……難しいな。
「エトさんはどう思います?」
「……私は要らなくないですかね?」
おおっと、唐突なネガティブ発言。どうした?
「近接はワタルさん、遠距離攻撃と索敵はグローブさんがいれば事足りています。最大火力もそのリユース封魔弾のほうが上でしょう……正直やることが無いです」
「いや……まあ、なんだ。雑魚を相手にしている間はそうかもしれないが、もっと数が増えれば
「……私が1体倒す間にワタルさんが3体切り伏せそうですけどね」
「さすがに俺もスキル発動より早くは動けませんよ」
「そういう話ではないです」
……難しいね。
まあ、俺がやろうとしてることは多くの魔術士職を陳腐化することなのでエトさんにとっては面白くない話かもしれない。
スキルの行使に特化した魔術士職は剣士などの前衛職と比べるとステータスが低くなりがちだ。
そこにどの職でも使えてバリエーションのあるマジックアイテムが出てくれば、確かに存在意義が危ぶまれるだろう。
……最も、上級職になればそんなこと考えなくてよくなるのだが。
「まあ、レベル上げも兼ねてエトさんにもモンスターの処理をお願いしますよ」
休憩のタイミングで封魔弾の作成も行いたい。
MPが回復しきった状態は無駄だし、ギルドからはあるだけよこせと催促されている。下手すると購買担当に監禁されかねない。
「ほれ、行こうぜ、まだまだ先は長い」
凪の平原を抜けて、山林へと入る。
落葉樹と針葉樹が入り混じった秋の山中では紅葉が始まっていて、植生は違えど日本の山林を思わせる。
神様もわりかし過ごしやすい所に落としてくれたよなぁ。
「こっちだ」
グローブさんの案内で獣道を進む。
時たま魔物が出るけれど、強くて十数ゴールドクラスの動物型であり、数も少ない。まだ下草が残っていて視界が悪く、戦いやすいとは言い難いが、それがまったく問題にならない程度の相手ばかりだ。
「……今のところ、おかしなところは無いな」
街を出発してから4時間ほど、山間の小さな沢のほとりで休憩を取りながら道中を振り返る。
「昨日の襲撃騒ぎは何だったんですかねぇ」
「頭が居なくなった魔物どものイタチの最後っ屁か……組織だった動きにしちゃ、ちょっと抜けてるんだよな。ここだけの話なんだが、近隣の村も襲撃を受けてる」
「……初耳です。大丈夫だったのですか?」
「ああ。全く被害が無いわけじゃないが、人的な被害はない。作物や農具などに多少被害が出た程度で大きな問題にはならないだろうという見立てだ。全く被害が出なかったのはサンワサって村くらいか」
……シスターが頑張っているのだろうな。
「出現した魔物の数を考えると、一か所に集まっていたら村には結構な被害が出ただろう。そうはならなかったって事を考えると、頭が居ないってことに成る。つっても、気になるのは平原の方に出たゴブリンたちだがな。ワタルが倒したのはランサーだったんだよな」
「ええ、二重突きまで使ってきましたから、おそらく300G越えでしょうね。ドロップはよく手入れのされた短剣でした」
「それを一人で倒したんですか……」
「まあ、こいつならやりかねんからソレは良いとして……そのレベルなら、もう少し統率が取れてもいいはずなんだがな」
当たり前の話だが、魔物は群れている方が圧倒的に危険度が高く厄介だ。
サウザント級の魔物であっても、単体であれば1次職のパーティーでも相手ができる。近接攻撃をメインとするゴブリンやオークと言ったタイプなら、20レベルに届かない魔術士職でも10人程度並べば完封できるだろう。
それが1次職マスタークラスのパーティや2次職にならないと相手に出来ないのは、取り巻きを集めて身を守るだけの知能を有しているからに他ならない。
そして300Gを超えれば、そう言った知能を有してくるものなのだが。
「個体として能力を高める方に価値を振った魔物は、スペックは高いけど知能は低いって聞きますよ」
「そりゃよく言われるな」
「特別知能が低い感じはしなかったですよ」
順当に強敵だった。負けることはなかっただろうけど、10回戦ったらイイの一発くらいは貰っていたかもしれない。ステータスでは格下だが、技能や経験を含めると少し格上の相手だっただろう。
冒険者の基本は、99%無傷で勝てる相手に全力で挑む、だ。セオリーから外れた危ない戦い方だった。
「まあ、今あんまり小難しいこと考えてもしゃーねーな。情報が足らん。そしてそのための調査だ。そろそろ行くか」
「はい」
「オーケーですよ。後3時間ぐらいの日程ですよね?」
「ああ、夕方まで移動して、その後野営地の周辺で片っ端からモンスターを狩る。
「了解です」
パチパチと音を立てていた焚火に水を掛けると、ジュッと音を立てて火が消えた。
それを確認してから、バケツを
「……さっきから気になっていたんですけど、それ、
「ん、ああ、
「いえ……そりゃ便利でしょうけど……なんで定着してるんですか?」
「定着方法を知ってりゃ難しくはないタイプのスキルなので。まあ、やり方は企業秘密ですけど」
「……ワタルさんって何なんですか?」
「気にするだけ無駄だ。おかげでドロップも取りこぼさずに済んでる。ほれ、行くぞ」
腑に落ちない表情のエトさんと、すっかり慣れきったグローブさんに続いて、再度森の中へ足を踏み入れる。
実りの秋を迎えた山中にはそれなりに魔物も出たけれど、俺たちは大きな問題もなく野営地にたどり着き、調査初日を終えたのだった。
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