第413話 ゴブリンの王・ボガード
筆頭すべき特徴はその到達速度であり、発動を認識してから回避するのはまず不可能。威力は使用者の能力に依存し、4次職である戦神の放ったそれは易々とボガードの身体を引き裂いた。
「やった!?」
「こっから!」
アーニャの驚きに注意を促す。
引き裂かれた身体がぐにゃりと歪み、その周辺から複数の頭が、腕が、足が這い出して来る。
「無駄だよ?分かってるだろう?」
「増える前に殺しつくすっ!」
「速度で勝てた試し、無いよね」
ゴールドスタイン卿は高速移動スキルで間合いを詰めると同時に戦斧を振るう。
その一撃は確実にボガードを両断したが、背後から生えたもう一体が掲げたグラディウスで彼の首を狙う。
それを身体を捻って鎧で受けると、間髪入れずに殴り飛ばして次のスキルの準備。さすがに歴戦の戦士だけあって一連の動きが早い。
しかし追撃に移る前に、ボガードは5体に増えていた。
影から無数に湧き出してくる分体は、その数千とも万とも言われ、典型的な数で押してくる戦略を取る。
さりとて各個体が弱いという事もなく……。
一騎頭千。
這い出る軍勢。
影に棲むモノ。
数々の異名を持つ魔将の一角は、その数を加速的に増やしていく。
「悪いけど増えるのを悠長に待つつもりは無い」
「あたしはもう成人だ!」
「餓鬼が大きく出た物であるな」
「王国の悲願です!ここで!」
全員が高速移動スキルで間合いを詰めると同時に、切り捨て、殴り飛ばす。
「おっと、キミらも参戦かい?いいよ。よく知らないけど相手をしてあげる」
そうしてこちらに飛び掛かってきたボガードは3体。
マジで増えるの早い!
各々に高い知能を持った分対ゴブリンたちは、闇の魔術を中心に遠距離も近距離も無難にこなす。
突き出された槍をはじき落とし、飛んできた魔術を如月で切り捨て、回し蹴りで一匹の頭を砕く。その背後から振るわれた大剣を避け、棍棒遣いを盾ごと睦月で切り捨てた。
剣士、僧兵、魔術師、盾戦士……斥候モドキや弓兵も湧いてやがる。
「強いね。こんなのは?」
「っ!」
次の瞬間目の前に飛び込んできたのは大ダルを抱えたゴブリン。
ゴブリン爆弾兵!?
気づいた瞬間には視界が炎に包まれた。
「あっつ!」
自爆兵とかレアキャラ使いやがって。
爆炎を振り払って、近くにいた2匹を切り捨てる。
「あれでみんな無傷?普通の魔術師の
ボガードの声が耳に届く。噂通り、こいつはおしゃべりだ。
「先に王子をなんとかしようかな?」
そう言うと殿下の周囲に分体たちが生え始める。
「ぬぅ!このタブーツ、複製ごときに!飛翔斬!」
応戦を始めるが既に20匹以上に増えている。分が悪い。
『アリッサ!闇払いを使うのだ!』
ゴールドスタイン卿が念話で叫ぶ。
「え、あ、はい!かしこくもかけまき
アリッサさんの祝詞を受けて、周辺一帯から影が消えた。
闇を払い影を消す、中級に分類される神凪の術。闇夜を得意とする魔物の能力を低下させる効果もある。
これを使われると、
敵味方双方なので俺としては嬉しくないが……ボガードのコピーが影から生えて来なくなるメリットは大きい。致し方ない。
巫女や神凪の使う術は神の力を直接借りていて、
「おっと、神凪もこっちに連れてきてたかぁ。本気だね。ちょっとうっとおしいけど、やる気出て来たよ」
取り巻いていたコピーたちが切り捨てられるも、ボガードの余裕は変わらない。
これで群棲を持たないコピーを
まぁ、余裕だけどねっ!
切り捨てたボガードコピーの能力は恐らく100Gクラスだろう。生身無抵抗で攻撃をされればダメージを受けるが、へまをしなければスキル無しで倒せる。特に睦月の斬撃は強力で、
「ザコばっかり出してても歯ごたえ無いよね。じゃあ、これはどうかな?」
距離を取った本体と思しき個体の周囲に能われたのは、明らかにこれまでより強い魔力を有する7体の個体。
「ダニーは僕が相手をするとして、ほかの子たちもちょっとは楽しませてくれるといいんだけど……」
「それは期待に応えられず申し訳ござらん」
頭上に現れたコゴロウの振るう刃が、即座にボガードを両断し。
「戦いを楽しむなって教わらなかったのか!?」
高速移動で通り過ぎたアーニャの剣は、2体の首を飛ばし。
「そうやって人を見下してっ!」
バーバラさんの回し蹴りが頭部を完全に粉砕し。
「のこりいただきっ!」
睦月で放った突きは2体のボガードの頭部を串刺しにし、如月の斬撃は胴体を真横に切り飛ばした。
「……およ?」
そうして本体の包囲網が出来上がる。
「……君たち、思ってたより強いね?急速培養した冒険者ってわけじゃないのか。覚えのない姿だけど、どこのどなたかな?」
「魔物に名乗る名は持ち合わせてねぇよ。どうせどっかにコピーを置いて来てるんだうけど、あるだけ核を吐き出してもらおうか」
「……残念。……なんかどこかで見た気もするんだけど……まぁいいか本気で相手してあげるよ」
『気を付けよ。こいつは数だけで四魔将を名乗ってるわけでは無いぞ』
『言われなくても。仕掛けます!』
うちのメンバーの中では俺が一番防御力が高い。
踏み込むと同時に回避しづらい
ワンテンポずらしてコゴロウが横一文字を放っている。回避不可能なタイミングだ。
「よっと。えい!」
しかし連撃は簡単に捌かれた。俺の攻撃は逸らされ、コゴロウの剣撃は打ち消される。
念動力と
「ぐぁっ?!」
衝撃を受けて吹き飛ばされる。
「「ワタル!」さん!」
今のは魔弾?!
ダメージはほとんど無いが、突進してきた俺を反対向きに吹き飛ばくらいの力は込められていた。
疾風斬りと霞二段を同時発動させたアーニャの斬撃を全て避けて回し蹴りで迎撃、続くバーバラさんの流星脚を逸らして拳で撃墜、コゴロウの飛び込み斬りを障壁で阻むと魔術でふき飛ばした。
「くらえっ!」
そして本命、ゴールドスタイン卿の一撃は両手で受け止められた。
「っ!」
「ダメダメ、いくら4次職でも中級スキルくらいじゃ防御できるよ」
目の前で魔力が爆発する。それをゴールドスタイン卿がスキルで防ぐのと同時に、柱状にせり上がった地面が彼を吹き飛ばした。
こいつ……上手い。
一つ一つの威力は軽い。反撃を受けた皆も既に態勢を整えなおしている。スピードも着いて行けないほど早いというわけではない。だけど一対多の戦い方が圧倒的に上手い。
これまで戦った中で最も対人戦が上手かったのは銀河のウォルガルフだが、こいつはそれを一回り二回り上回ってきそうだ。
「キサマ!いつの間にそれほどの力を!」
「これだけ集めたのは100年ぶりかなぁ。見た目は変わらないけど……君と依然やり合った時の倍は強いよ?ダニー」
「なっ!」
こいつ……集合知に有る情報とは別物だぞ。
「それで、キミたちの正体もわかったよ。ワタル・リターナー」
「っ!」
さっき二人が叫んだのを聞いていたのか!
「いやぁ、久しぶりだねぇ。前に会ったのはアインスだよね。ああ、僕の配下と戦っただけだからキミは知らないかな?」
「……俺はお前なんて知らねぇよ」
「そうかい?僕は良く話を聞いてるよ。ブギーマンからもね。エリュマントスを倒した
……は?
あの技はエリュマントスにしか使ってねぇのに何でネタが割れてる?いや、多少説明したけど、基本的に市中に出回ってる俺の武勇伝は、エリュマントスから奪った剣で倒したことに成ってるのに。
「エリュマントスが倒されて、プリニウスも滅びた。万が一に備えて、力を集めておいて正解だったよ。王国がモニュメントを狙っているとは聞いていたけど、もしかして発端はキミかな?クトニオスを目指してるかもとは聞いていたけど」
……まずい。こいつ、今まであった魔物と比べ物にならないくらい頭が切れる。ここで仕留めておかないと今後の障害になる。
「おっと、殺気がみなぎってるね。相手をしてあげてもいいけど……僕の仲間にも血の気が多いのが多いからね。まずは彼らと遊んでもらおうかな」
「高みの見物か!」
「それが僕の趣味みたいなものだからね」
ボガードの後に続く魔物たちが、すでに目前に迫っていた。
「逃がしはせぬ!」
コゴロウが飛び込むと同時に音速斬り。と同時に血華斬!?
音速を越える斬撃を防いだボガードを切りつけて、さらに背後からの斬撃を放つ。そんなスキルコンボ可能なのかよ!
しかし連撃が当たるかと思ったその瞬間、ボガードの姿が掻き消えた。
縮地!?出たのは……王子の目の前!?
「殿下!」
「それじゃあ、ミハイル殿下、生きておられたらまたお会いしましょう。ああ、こちら側につきたい時は、いつでも白旗を上げてくださいね。そちらのお嬢さんと一緒に、歓迎するよ」
「キサマッ!」
ゴールドスタイン卿とタブーツ氏、二人の斧と槍が交錯するが、その瞬間にはボガードの姿は掻き消えていた。
『魔物が、来ます!』
そしてそれを追う間もなく、無数の魔物たちがこちらに向かって迫りくるのだった。
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1章から出張ってるゴブリンの王がいよいよ参戦です。
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進みは遅いですがスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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