第412話 アマノハラ攻城戦
『全軍、攻撃開始!』
ミハイル王子の号令と共に魔術が飛び、城壁で囲われた街に向けて騎士たちが一斉に向かっていく。
聖地アマノハラを目前にして僅か数分。我々は予定通りの向上作戦を開始していた。
アマノハラは大陸の東側、クロノス王国のエーデと同様に山の谷間の僅かな丘陵地帯に築かれた都市である。
死の大地から西へ魔獣があふれ出ていた時代に築かれた防衛都市であり、その役割をヨモツ城塞に譲った後は人類の力の象徴として東の荒地を見下ろしてきた。
魔王降臨以降、都市としての構造は見直されている。ほかの都市と同様に周囲をぐるりと囲う城壁、その周りには見通しの良い緩衝地帯。
けれど歴史あるこの都市は狭い山間に位置するには広く、その直径はおおよそ10キロを超える。
我々が目的とするオリジナルの転職モニュメントは、こちら側から見れば最深部、街の西おおよそ9キロほどの位置にあり、城壁からの一方的な砲撃を避けるため都市部を突っ切っての攻略が必要不可欠となる。
『予想通り、敵方の
アマノハラ攻略に当たって、最も障害になるのは邪教徒の
スキル影響下での魔物の発生の抑制などは村長にも存在するスキルであるが、それに加え街中での魔物の能力の抑制、外からの攻撃に対する防壁、逆に城塞などスキル影響内から外への効果や射程の強化など、強力なものが増えている。
魔物の支配地であるアマノハラで、魔物の力を抑えたり、発生を防ぐスキルは意味をなさない。
しかし防衛用のそのほかのスキルは有効である。魔物と共存できるスキルはそう多くないが、長距離ワープ--
『
衛兵強化と呼ばれる領域内常時強化スキルはそれなりに厄介だ。
領主のレベルにもよるけど、対象者には全ステータスの固定値+割合上昇バフが街の中にいる限り当事者はノーコストで乗り続ける。
王子のスキルは範囲内の全人類にかかるから邪教徒共も強化されてしまうが、
『うん。ただ邪教徒が積極的に打って出て来るかは微妙かな。戦闘員は多くないはずだし、このエリアの人口が限られている所為で、多くの死人が出ると魔物の力が弱まるから、積極的には出てこないかも。注意するにはこした事は無いけどね』
どう動くかは流石に読めない。それは適宜対応するとして……。
『私たちは攻撃に参加しなくて良いのでしょうか』
『アマノハラの攻略はジェイスンさん達と、亡者の皆に任せればいいさ』
狂信兵団20名、それに亡者46人がアマノハラへの攻撃に参加している。全員2次職以上であり、ほとんどが後半か3次職だ。
殿下から預かった2つの転職モニュメントコピーのための魔道具は、ジェイスンさんとタラゼドさんに渡してある。援軍の要請があるまでは彼らに任せよう。
現在の俺たちの位置は城壁から300メートルほど。
攻城戦に参加してもいいが、コゴロウ以外はMPが心もとなく、また殿下を守る部隊の人数が少ない。スキップ作戦の問題は、ヨモツ城塞からアマノハラへの援軍が来た場合挟撃されること。こちらが地理的に上を取っているので有利ではなあるが、人数が少ないのはいかんともしがたい。
まぁ、
『でも、結構苦戦してるぜ』
攻撃を始めて10分ほど、攻撃部隊は城壁にとりついたが、そこから先には進めていない。
厚い壁と、上から降ってくる魔物に阻まれている。範囲魔術は
暴風系はもとより、上級の範囲魔術も1発だけ試されたが打ち消された。さすがに防御はしているな。
『まだMPを抑えて戦ってるからだよ。出てきてる魔物が弱い』
数はそれなりに居るが、精々1000G程度の魔物だ。目くらましの特化型100G級の魔物も混ざっているな。どれもそこまで脅威には成らないが、スキルを使わずに倒そうとするとちょっとめんどくさい。
しかし市街地に突入してからが本番なので、ここで大きく消耗したくはない。のっけから飛ばしてるのは亡者たちくらいだ。
それからさらに10分、壁の中から出て来る魔物の種類は変わっても数が減る様子がない。
そろそろ敵の体制が整う頃合だと思うけど……。
『っ!ワタル!』
王子のスキルによって共有された索敵の東の端に、巨大な魔力反応が飛び込んできたのはその時だった。
この魔力量は……
『奥の手を使います!城壁、門の左から2つめの狭間の周辺から退避してください!死にますよ!』
サーチから人の少ないエリアに退避令を出す。
東の魔物は反応が掻き消えた。索敵内部にいきなり現れたと思ったが、やはり
『みんな、耳をふさいで!弥生、右手に防御を集中』
『はいです!』
岩陰から飛び出して右手を掲げる。余り見せたくなかったので先制攻撃に使わなかったが、ちょっと出し惜しみはしていられない。
「……
いつものように亜空間から取り出した砲弾が、音速の壁をぶち破り空気を引き裂いた。
音は遅れて来る。
120ミリ遅延術式榴弾砲。
プリニウス戦で使った対物ライフル弾モドキをさらに肥大化させたそれは、音速の3倍の速度を持って城壁に突き刺さり、貫通して吹き飛ばす。
それと同時に付与された上級魔術・
「っ!」
発生したソニックブームがここまで届く。指向性が無いくせに威力がありすぎる。
俺はふらつくくらいですんだけど、爆心地に近かった人たちは平気だろうか。
『何事じゃ!?』
『隠し玉ですっ!数は撃てませんよ!』
砲弾に上級魔術を付与するのに、クーロンの戦いで得たドロップ品をいくつか鋳つぶした。
発射するための砲身は、魔力を限界まで注入した魔鉄に耐久力向上を限界まで付与しても1発でお釈迦になる。
素材と消費MPから準備できたのは三発。一発は試し打ちで焼失した。今のが二発目で残り一発。砲弾の回収は考えなくていいから気が楽だが、かかる金は考えたくないね。
デルバイの長に検証を手伝ってもらったが、量産すべきではないし作り方も教えるべきではないと言われている。おそらく並みの街の防壁なら
伝説級スキルに片足突っ込んだ威力がある。
『っ!城壁が壊れた!進めーっ!』
崩落した城壁に騎士たちが群がっていく。周辺にいた魔物はまとめて吹き飛んだから、あっちは市街地戦に突入するだろう。
ただ、それに構っている余裕は無い。
『魔物が一匹っ!あれは……ゴブリン?』
アリッサさんが援軍の魔物を目視で捕らえたらしい。ただのゴブリンなわけはない。
「
「ぬ、リターナー殿」
ミハイル王子の取り巻きは、ゴールドスタイン卿、タブーツ氏とアリッサ嬢、それに騎士が3名。非戦闘職であるジリング卿はお留守番。
4次職であるゴールドスタイン卿が居るので守りは厚いが、それだけで勝てるとは思えない。
巨大な魔力反応に続いて、魔物の群れがこちらに向かって来ている。速度からすれば10分も立たずに挟撃される。
「先ほどの攻撃、後でじっくり話を聞かせていただきたいものですなっ!」
「企業秘密なのでご勘弁を」
言ってる間に岩場の影から魔物が染み出て来る。赤茶けた肌、子供のような体躯。貴族の子弟のようないでたちだが、その眼光には確固たる敵意が宿っていた。
距離は10メートル。既に互いの間合いの中である。
「っ!……影に棲むモノ……ボガードか!!」
「戦神ダニーじゃないか。久しぶり!20年ぶりくらいだっけ?」
巨大な戦斧を向けられたゴブリンの王が、癇に障る声と共に首を傾げる。
影に棲むモノ・
「せっかく待ち構えていたのに、軍団も要塞もスルーしちゃうんだから。つれないよねぇ」
「それでノコノコ出てきたかっ!ちょうどいい!今日こそキサマを屠ってくれるわっ!」
「はははっ、面白いこと言うね、ダニー。君じゃ僕には勝てないのわかってるでしょ?」
「ぬかせっ!」
……おうおう、盛り上がってるね。
悠長に話をしている暇は無いんだけど……不意打ちで倒せる相手じゃないしな。
「すごい轟音だったけど、スキルを使ったのかな? そっちのお爺ちゃんは
ボガードの視線がこちらを向いて止まる。
「まだ子供までいるじゃん。まったく、無謀だよねぇ」
そのセリフはアーニャを見て言ったのか、アリッサ嬢を見て言ったのか。
『……斬っていいか?』
どちらにせよ、うちの盗賊騎士嬢をイラっとさせるには十分だったらしい。
こちらが誰か分かってないだけやりやすいな。
『ボガードの特徴は前に話した通り。絶対乱戦になるから、互いにフォローし合って対処ね』
『プリニウス戦では大して役に立たなかったであるからな。久々に人型相手で腕が鳴るのである』
『……私は出来ればかかわりに会いたくない相手ですが……やるだけやりますよ』
「そのぬるい判断に後悔して滅びるがいいっ!タブーツ卿、殿下は任せた。行くぞっ!」
「いいよ、愚か共たちの顔を見に来たんだ。少し相手をしてあげよう」
「くらえっ!
ゴールドスタイン卿の放った無数の斬撃の波が開戦の合図となった。
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□120ミリ遅延術式榴弾砲
直径120ミリの魔力を籠め耐久力を上げた砲弾。榴弾砲と呼んでいるが構造的には徹甲弾に近い。芯に
発射に中級魔術
□
目視できる起点を中心に大爆発を発生させる火の上級魔術。目視範囲起点のため自分や味方を巻き込みやすく、高威力だが自爆魔術と揶揄される。
実は爆発を発生させるエネルギーを生み出す魔術であり、発生した光、熱、衝撃の副次効果が破壊をもたらす。このため発動後に
□
前方90度範囲に無数の斬撃を放射する範囲攻撃スキル。上下左右の効果範囲が広く、発動から到達までが極めて速いため回避するのが困難。
斬撃の威力は使用者の能力に依存。上級スキルの中では効果が判り易く、コストパフォーマンスが良い。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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