第411話 スキップ作戦

カトプレパスの要塞到達からいくばくか。

日暮れと共に王子たちと合流すると、散り散りになっていた軍が集結していた。既に陣の準備は済んでいて、到着済みの装軌車両は塹壕の中で土が欠けられているのも見える。


見張りの騎士に帰還を告げると、塹壕の中に貼られた天幕に通された。

周囲は土壁であり、天井は布。その上からうっすらと偽装のための土がかけられているようだ。穴掘りホールを使ったのだろう。MPの節約がしやすいスキルで、1メートルちょっとの壕を掘るなら浪費には成らない。


「ご苦労。よくぞ戻った」


天幕に入って第一声、出迎えてくれたのはゴールドスタイン卿。圧が凄いな。

ミハイル王子、影武者のジリング卿、タブーツ氏にアリッサ嬢も居る。他に騎士団の小隊長と、ジェイスンさんも居るな。勢ぞろいだ。


「ああ、えっと。お疲れ様です、ワタル・リターナー殿。形式だけですが、報告をお願いします」


真っ先に声をかけようとして阻まれたらしいミハイル王子が、気を取り直して切り出した。報告せよ、と命令すればいいモノを。……後で助言しておこう。


「ジリング卿から引き継いだ陸竜のおとりを引き継いだ後、即席ゴーレムを用いてヨモツ城塞まで誘引。けしかけることに成功しました。カトプレパスが魔物たちを襲い始めたのを確認の後、スキルにて離脱しました。その後は?」


「アリッサ」


「はい!カトプレパスはリターナーさんのゴーレムを捕食後、城塞の魔物たちに狙いを定めたようです。今は日が暮れたのでその場に落ち着きましたが、先ほどまでは蟻塚に襲い掛かる大アリクイの様相で、それはもう群がる魔物をバクバクと」


……クロノスにアリクイは生息していなかったはずだが?


「城塞は崩れそうか?」


「ゴールドスタイン様、それは難しいと思われます。ヨモツ城壁は全長1キロを超える巨大な岩の塊、と言っていい建造物です。もともと対魔獣用に建てられただけあって、一つ一つの構造部が並みのロックドラゴンでは突き崩せない厚さでした。広さだけでなく、地下にも通路が広がっています。そして外壁はカトプレパスにとってあまり魅力的ではないようで、出てきた魔物をついばむのに一生懸命です」


「アリッサさんの言う通り、魔獣用に作られた建造物ですからね。魔獣を引き寄せるような防壁ではないはずです」


カトプレパスには魔術的な防壁は効果が薄い。それでも崩れないのは、坑道を掘るかの如く作った城塞であり、内部スペースより壁の方が厚いという構造ゆえだ。


「ヨモツ城塞の確保は作戦の必須項目ではない。むろん確保できるに越したことは無いが、それは長期戦を行う場合の想定だ。既に損耗している我々は超短期決戦を挑む必要がある」


これは元ミハイル王子、ジリング卿。彼は参謀的な立ち位置らしい。

こうして二人が並んでいると、同年代なのにジリング卿の方が威厳を感じる。真偽官って話だから、ステータスは初心者ノービスと変わらないのに……。


「はい。なのでヨモツ要塞は迂回経路をスキルで駆け抜けてアマノハラを急襲しましょう。ホップ・ステップ・ジャンプあらため、スキップ作戦を発令します」


王子が拳を振り上げた。

その名前だけはどうにかならないかと思う。


………………。


…………。


……。


翌日の夜明け前、俺達はアマノハラに向けて動き出す。


稼働する装軌車両はメルカバーを入れて16両あるが、これらは目立ちすぎるため集結地点で待機。狂信兵団の車両も含めて、半数の車両は騎士団の斥候で大盗賊のスキル、隠された宝物庫ヒドゥン・トゥロウヴによって秘匿。これは盗賊の宝箱トレジャーボックスと同様、魔物の目から価値ある物を隠すスキルだ。残した車両は負傷兵の救護室として利用している。


メルカバーはこっそりコクーンに送り返した。大爆煙バーストスモークで視界を覆って、亡者たちの収納空間インベントリに格納したように見せかけたのが“こっそり”であるならば、だが。

ミハイル王子は突っ込まなかったので、それ以上口を挟むものは居なかった。


移動は徒歩だが、砦のスキップにはスキルを使う。

活躍するのは影渡しシャドウ・デリヴァーを使える魔術師たちだ。影渡しシャドウ・デリヴァーは発動条件に制約がある分、効果範囲がINTと同量の1単位メートルなので、長距離を移動させるのには向いている。

全員が高速移動スキルを使えるので砦を迂回しつつ崖を上るのも不可能ではないが、魔物に気づかれ、強襲される可能性が高い。気づかれたとしても人数までバレるのは避けたいので、砦の周囲1キロに張り巡らされた索敵網をすっ飛ばして進む必要がある。


「我がINTではこの広さの魔物どもの結界を飛び越すだけの距離は稼げぬぞ」


「王子のスキルの範囲内に入ってますから、大丈夫ですよ」


頭数を増やすため、闇の魔術師である亡者マルコフさんに協力してもらう。

高速移動スキルは使用回数に制限があるからな。俺は今の所引っかかるような戦い方をしていないが、温存しておくに越したことは無い。


「死んだ身でも王子のスキルの恩恵を受けられるのか?」


「……ダメだったら俺が変わります」


そう言うの試したこと無かったなぁ。


とりあえず、土人形クレイドールを使って敵陣の中に小さなゴーレムを発生させる。すぐに土人形を中心に小結界キャンプを発動して秘匿。さらに松明トーチを灯して足場を作る。


影渡しシャドウ・デリヴァー影渡りシャドウ・トリップも、影が無ければ転移する事が出来ない。影の大きさはほぼ問わないと言っていいが、光が無ければ影が出来ない。つまり完全に闇の中では使えないのがこの魔術の弱点だ。

しかしこうして魔術を組み合わせることで対処できる。この方法を話した際、ゴールドスタイン卿はとても感心していたが……余計な情報を流したと後悔することに成らないよう祈ろう。


影渡りシャドウ・トリップで結界内にワープし、準備をお願いする。

小結界キャンプの中から外に向けてスキルを使うのは制約がある。影渡しシャドウ・デリヴァーを使うと小結界キャンプの意味がなくなるので、ここは別のアイテムでカバーしてもらうのだ。


『準備は出来た。視界は遮られていないから、松明トーチは消してから小結界キャンプを解除してくれ。声も消えていない』


『了解』


言われた通りの順番でスキルを解除する。

使っているのは、魔力探信マナ・サーチも回避する設置型の魔道具。隠遁効果が高いが、高価で移動しながら使えないという欠点がある。小結界キャンプの待機時間に身を隠すために使われるくらいであまり一般的ではないが、騎士団はこういう物もいざという時のために準備している。ありがたい。


『さて、それじゃあ皆さん、準備はいいですかね?』


こちらの念話にうなづく。


『ふむ。死んだ身でも王の恩恵は受けられるのか。すごいな』


『よかった。これでみんな1回分は減らせますね』


マルコフさんもOK。もうニ~三人はこのスキルが使える術師が欲しいが……うちの亡者は前衛が多いからなぁ。クーロンの戦いでお亡くなりになった方々は、まだ戦力に成らない。


まぁ、ぼやいてもしかたない。

同じように土人形クレイドールを使って、3キロほど先に土人形を出現させる。

小結界キャンプを張って、松明トーチを灯すのも同じく。周囲に魔物の反応はない。


『準備OKです』


合図とともに、各々が影渡しシャドウ・デリヴァーで部隊を転送していく。

アマノハラ攻略に向かうのは約100名。残り約80人ほどは負傷およびおとりの際の疲労とMP不足、それに待機者の護衛で塹壕に残る。王子は攻略組なので、何かあれば彼らは王子スキルの加護無しで陣を守る必要がある。襲われなければいいけど……気にしている余裕はないな。


『ここからは徒歩での進軍となります。暗闇を見渡す魔術で視界は確保できていると思いますが、光があるのとは見た目が違います。注意してください』


王子のスキルで、精霊魔術と思われる効果が共有された。前にタリアが使っていた奴だな。


そこからは乾いた山道を静かに、素早く進行していく。残りは5キロほどか。

高地で寒い暗闇の中を進軍するのは気を使う。皆ステータスは高いが、それでも人が平地を歩くのと同じくらいの速度が限界だな。


吐いた息が白く見える。山の稜線が白く光り、空が徐々に明るくなってきていた。

夜明けはもうすぐだ。


『見えたぞ!アマノハラだ!』


光射す山間に大きく横たわる城壁が現れたのは、それからすぐの事だった。


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出張と書類仕事に追われてMP不足に陥ってました。11月はマシになると良いのですが……。


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