第6話 雑魚モンスターと戦ってみた

聖衝弾ホーリー・バレットの習得は数分で終わった。


 シスター・グースは村の大人や子供に、とりあえず簡単な回復魔術と攻撃魔術を教え込むつもりらしい。

 適性があれば数回で、無い場合でも毎日何回か反復すれば2週間程度で覚えられる。この界隈だと治癒ヒールがつかえるのは当たり前になるだろうなぁ。


「お世話になりました。……また、機会があれば寄らせていただきます」


「……はい。どうかお気を付けて、無理をなさらずに」


 路銀としての100ゴールド――大人に魔術を教える際に受け取っていた寄付の一部を包んでくれた――とお昼のお弁当――柔らかいパンにハムとチーズを挟んだもの。だいぶ豪華――を受け取って、昼前には村を出発する。


 目的地である凪の平原は、村から2時間ほどの距離。昼過ぎにはたどり着けるだろう。

 見通しの良い荒れ地で、開拓すれば農耕も可能な土地なのだが、20年ほど前まで強力な魔獣がいて手が付けられなかった。

 そいつが現在の剣聖に打ち滅ぼされた後、残った中級モンスターも徐々に狩られて行き、俺の知識にあるクロノス王国歴290年には初心者向けエリアになっていた。


 今では開拓も進んでいるらしい。村のアレでも290年ごろよりだいぶ食糧事情も良くなってるみたいだ。

 街道はしっかり整備されており、荷馬車やたまに旅人も行きかっていた。アンカー村の反省が活かされているな。


 良い陽気なのでのんびりと時間をかけて山道を下る。

 さすが異世界。見たことのない植物が多い。今は秋のはじめらしいから、野山の植物が実をつける時期だ。そして魔物が増える時期でもある。気を付けないとな。


 そんなこんなで2時間強。

 平原の入り口で昼食休憩を取ったのち、俺は凪の平原に降り立った。


□凪の平原□


「さて、やってきました初の魔物狩りです」


 気分を盛り上げるために自分でナレーションを入れてみる。とにかくここから頑張らないとな。

 この世界じゃ、18歳で初心者ノービスのレベル1はダメ人間以外の何物でもない。


 15で成人を迎えた時にどんな人間でも全員初心者ノービスとして祝福を受け、ほぼ全員がALL10のフラットステータスを得る。

 このほぼ全員には虚弱体質や病気で死にそうな人も含まれるという、さすが神の所業、といった効果がある。15歳まで生きられれば先天性にしろ後天性にしろ、1回だけは健康体になるのだ。


 さすがに部位欠損は治らないのでほぼ全員なのだが、俺はどう見ても健康体だし。

この年でレベル1ってことは、成人直後に運悪く奇病にかかったついてないやつとか、座敷牢にでも幽閉されてた権力者の隠し子とか、訳ありな奴しかいない。


 例によって存在する冒険者ギルドのお姉さんに『どうやって生きてきたんですか?』と聞かれないように気を付けないと。


「どこかに狩りやすい魔物は居ないかなぁ」


 高台から見回すと、ちらほらと人影が見える。一人のものもいれば、2~3人の所も。ここから見える範囲で5グループか。人数がいるところは“寄せて”狩ってるんだろうな。近づかないどこ。


「おっと、大鼠ヒュージマウス発見。あいつでいいか」


 平原に入って5分ほどで、十数メートル先にカピバラサイズのネズミ型モンスターをとらえた。

 凪の平原に生息する魔物の中では単独だと最弱クラスのモンスターだ。群れるとヤバい。あと疫病がやばいという特徴があるので単なる雑魚ではないのだが、一体々々は弱い上に、疫病はとっくに対策発見済み。街で10ゴールドも払えば癒してもらえる。


「……大いなる光の神の聖名において、光の衝撃にて魔を撃ち抜かん。聖衝弾ホーリー・バレット!」


 詠唱とともに指先から飛び出した光弾が、大鼠ヒュージマウスを捕らえる。


「ぢゅぅぅぅーー!!」


 やはり全然威力が無い。一瞬、弾き飛ばされて転がったネズミは、起き上がるとすぐにこちらに向かって猛ダッシュを仕掛けてくる。結構早い。


「とはいえ、それでやられるほど現代人でも弱くないんだよっ!」


 誰だって体育の授業でソフトボールとかしたことあるだろう?アレよりずっとでかくて遅い。

 遠くから向かってくるドッジボールの玉を弾き飛ばすぐらいはできる。


「ぢゅっ!!」


 タイミングを合わせて剣を横凪に振るうと、見事ヒットしてネズミが飛んでいく。よし、クリーンヒット。

 地面を転がったネズミは、そのまま力尽きて倒れると薄い煙を上げて消えてなくなった。


「ドロップは……ハズレか」


 ネズミが倒れたところに落ちていたのは“一房の麦”。


 この世界の魔物は“金の魔王”の魔術によって生み出されている。

 一番の特徴は“人の思う価値”を魔物に変えている点。価値のある物を魔物に変えると強く、価値が低いものは弱い。

 大鼠ヒュージマウスは弱いから、元に成っている物もこんなもんだ。

 ……収穫直前の麦畑が一面大鼠ヒュージマウスに変えられた事件は、そりゃあもう地獄絵図だったようだけど。


 とりあえず、ドロップはもらった麻袋に放り込む。10束集めてパンが焼けるくらいの量だけど、放置するとまた魔物化するしな。


「おっと、今度は大肉蠅スカベンジャー・フライのお出ましか」


 バレーボール大の死肉喰らいの大蠅。たいした攻撃力を持たないが、動きが早くてうっとおしい。あと、こいつも疫病持ちなのでそれが厄介。革の防具でも着こんでいれば完封できるのだけど。

 金の魔王配下のモンスターは人を見かけると構わず襲い掛かってくるから面倒だ。


「このっ!くそ!うっとおしいっ!」


 へっぴり腰で振り回す剣じゃなかなか当たらない。


「コンチクショウ!」


 5分くらい右往左往して、ようやくヒットした一撃で蠅が地面に落ちる。耐久力が無いのでそのまま煙となって消えた。

 ドロップは……10円玉サイズの“長石の欠片”か。うん、ゴミだな。これも集めれば買い取ってくれるのだけど、10個単位でないとお金にならない。


「まあ、ここの雑魚モンスターが金になるもの落とすようだと経済が崩壊するな」


 倒すとそのまま貨幣に変わる魔物もいるけど、ゴブリンとか人型の厄介な奴だし、今の俺だと危険が大きい。

 しばらくは地道に雑魚を相手にするしかないか。


聖衝弾ホーリー・バレット!」


 草原の中では珍しい人と同サイズの魔物、藁人形ストロー・ドールを魔術で牽制すると、そのまま袈裟懸けに切り付けて屠る。

 でかいけど紙装甲で動きが遅く攻撃力も低い。動く巻き藁って感じだな。サイズが大きいから当てやすいので、ぶっちゃけネズミより弱い気がする。

 ドロップは“一束の麦”。……こいつだけ刈りたいわ。


 休憩をはさみながら、体感で2時間近く狩りをして、一番ドロップがマシそうなのがこれだもの。

 なんだかんだで10匹以上の魔物は仕留めていた。さて、ステータスは……。


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レベル:2(ボーナス:1)

MP:13

INT:11

スキル:魔力操作Lv1,投石

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 ……レベルが上がってるのは良いとして、MPとINTが上がってるのは何でじゃ。


 レベルの横にあるボーナスは自分で割り振るステータスボーナス値。初心者ノービスLv10までは各レベル1づつ取得できる。割り当てるとそのまま1点ステータス値が上がる。これだけで能力が1割伸びるので効率がいい。


 スキルに増えてる投石は初心者ノービスの基本スキル。1レベル毎に一つづつスキルを覚えていく。


 しかし、MPやINTが上がっているのは腑に落ちない。確かに魔術を多く使うと伸びるステータスではあるんだが、こんなに簡単には伸びないはずだ。そもそも、INTは訓練では伸びづらいステータスの一つだし。


「どーも集合知だけだと分からんことがあるな」


 ……大分疲れたし、そろそろ切り上げて街に向かうか。

 女神像で天啓を使ってもう少し詳しく調べてみよう。

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