第7話 冒険者にはまだ成れない
「ワタル・リターナー、
凪の平原に隣接するアインスの街は、このあたりでは最も大きな3000人規模の都市だ。
外周は石壁でおおわれており、レンガ建て、洋風瓦造りの家々が立ちならぶ。開拓が進んだ今は品質の良い作物で潤っているようで、俺の記憶にある小さな町だったころの様子とは大分様変わりしている。
門の前で衛兵にステータスを見せる。
ステータスは見せたくない部分を非表示にできるので、見せるのは名前、状態、職業くらいだ。
「ふむ。確認した。……その歳で
年齢は非表示にした。日本人の顔はこの世界でも幼くみられるようなのでありがたい。
「母が……しばらく重い病気にかかっておりまして」
ちょっと伏し目がちに話すのがポイントだ。
「そうか。……まあ、元気だせとは言わんが、転職してここで暮らすなら顔を上げろ。せっかくの新生活だ。その方がおふくろさんも喜ぶ」
「はい。ありがとうございます」
……なんかいい人だな。勘違いさせるような言い回しをして申し訳なく感じる。
「街の案内はどこに行けば聞けますか?」
「それならこの先まっすぐ、大広間の冒険者ギルドに行くといい。総合案内所を兼ねてる。おすすめの宿なんかも教えてもらえるはずだ」
「ありがとうございます」
アインスの街は新しいだけあってかなり整備された作りになっていた。
東西南北に延びるメインストリート、そこが交差する中央広場はラウンドアバウトになっていて、その中心は半径50メートルほどの広場だった。月に2度は蚤の市が開かれるらしい。
市が立たない日は公園扱いらしく、はしゃいで走り回る子供、大道芸をするもの、殴り合いをするもの、様々だ。……最後のはなんだ?喧嘩か?
「……気にしないようにしよう」
冒険者ギルドは中央広場の一角にあった。
聞いていた通り、コンパスと松明の抽象的な大看板が掲げられており一目でわかった。酒場併設、石造りのかなりでかい建物。両開きの大扉が解放されている。
「依頼受け付け、受諾、受諾、受諾、登録手続き、報告……あった、アインス総合案内」
集合知のおかげで文字が読めるのがありがたい。
案内カウンターにいたのは、同じ年ごろの栗毛の女性だった。結構かわいい。受付嬢はギルドの顔なので、どこでも力を入れているらしいが、この町も例外ではないようだ。
「ようこそ、アインスへ。初めてですね?何をご案内いたしましょう」
「とりあえずは教会、1泊20Gほどで泊まれるおすすめの宿、それから工作機が借りられる一般職ギルドの場所を」
「かしこまりました。地図の見方はわかりますか?教会と一般職ギルドはこちら。宿は……ここと、ここ。それからこっちの三軒の中から選ばれると良いですよ」
テーブルに広げられた地図で場所を教えてくれた。そんなに離れてないな。
それから宿は宿名が記述された木札をくれた。識字率に問題があるので、大きく宿の看板のマークが入れられている。使わなかった場合は返してもらえると嬉しいそうだ。
「冒険者登録はされますか?」
腰に提げた剣を見て冒険者志望と思ったのだろう。
「ああ、いえ、実はまだ
「あら、そうでしたか。でも、ちょっと遅いくらい珍しくありませんよ。一部の職だけですが、無料の適性診断もやってますからもしよろしければぜひ」
「ありがとうございます。適性診断は受けたことがあるので大丈夫です」
診断無料になったんだな。俺の知識だと安いけど有料だった。
ステータス項目の適性の項目は診断を受けないとわからない。診断は基本的にそれぞれの職種毎に神様に伺いを立てる形式だから、ちょっと前まで街の神殿を回っていたと思ったけど。
「まだ受けていない診断がありましたらご相談くださいね。個別に行くと適性ありの場合の勧誘がしつこいですよ~」
……なるほど。
「……そうだ、個人で魔術教室をやっている方がいたら合わせて紹介してもらいたいんですけど、可能ですか?」
「スクールですか?ギルドでも講習は受けられますけど」
「出来れば個別で。ギルドの講習は話に聞いていますが、内容には無かったものなので」
ギルドの講習は一体多で教本の読み上げ形式だ。
この方法だと習得までにえらく時間がかかる。やってられない。魔術は復唱方式で有効な魔術を増やしたいところだ。
「ん~……そういった珍しい魔術でしたら……ああ、バノッサさんが良いですね。ちょっとぐーたらな人ですけど、気に入られれば面倒見の良い方です。ちょっと待ってください」
彼女はメモ紙にすらすらと何かをしたためると、封をしてこちらに差し出した。
「これを渡してもらえれば、話くらいは聞いてくれると思います。場所は、ちょっとわかりにくいですけど、南区画のここです。一応、看板は出ていますから頑張って探せば見つかると思いますよ」
「ありがとうございます。行ってみます」
とりあえず聞きたいことは聞けた。あとは雑務を片付けよう。
まずは教会に行ってグースさんの紹介状を提出する。街の入り口でも見せたけど、ちゃんと本部に顔を出しておかないと当局にマークされる。
遠回しにお布施を要求されたので、さっきの狩りで得た麦束をまとめて渡しておいた。
微妙な顔されたけど、一回換金を挟むよりはマシなんだから我慢してほしい。
そこから一般職ギルドへ。これは場所の確認が主な目的。ついでにレンタル工具の価格をチェック。
ドロップ品の長石の欠片とかは、粉砕したり加工してからのほうが価値が高まる。
使用料が分からなかったので聞いたところ、多くの機器は無料で貸し出しているとのこと。加工機器の品質によって出来上がるアイテムの品質が変わるから、低級加工機の需要は高くないようだ。
まぁ、これで興味を持って内製系の職に就いてもらいたいという狙いもあるのだろう。
一通り回って宿につく頃には陽がとっぷり落ち切っていた。
なんだかんだで疲れたし、飯食ってさっさと寝てしまおう。
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