第8話 レベル上げにいそしんでみた

「……うん。やっぱりおかしい。……治癒ヒール


 前日を同じように体の痛みにうなされながら、窓から差し込む光に起こされてしばらく。

 ステータスを確認してみると、やはり一部が上昇していた。


「こんなに上がるわけないんだけどなぁ」


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名前:ワタル・リターナー

状態:健康(18)

職業:初心者ノービス

レベル:2(ボーナス:1)

HP:10

MP:14

STR:12

VIT:12

INT:12

DEX:10

AGI:11


ATK:11+20

DEF:1

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 MP、STR、VITに加え、複数のステータスを加味した総合値であるATKが各1点づつ伸びている。

 集合知の情報だと上がる要素が無い。とりあえず女神像で天啓オラクルを使って原因を探るのが優先事項か。


 宿の飯はぼちぼちだった。宿泊、夕食、朝食で合わせて28ゴールドの出費。3日も過ぎれば路銀が尽きる計算になる。……やっべぇな。世知辛い。金を稼がないと。

 腹ごしらえを済ませた後、まずは教会で神のお告げを受ける。


『ステータスの上昇は、異能:努力は必ず報われるリワードによるもの』


『異能の詳細は不明。観測データから類推。あなたが行ったトレーニングの効果がステータスに影響している。魔物の討伐はこれに影響しない様子』


 ん~……一応行った筋トレが効いてるって事かな?なんかヒントあるか?

 努力……ん~……この世界で筋トレって、結構効率の悪い鍛え方なはずなんだよな。レベルや職業補正のほうが効果大きいから、トレーニングするより魔物を倒せって感じだ。

 自力が大きいと成長したときに補正が載るらしいので筋トレを始めたんだけど……効果の出方が変だ。


「観測を続ければ詳細が分かるようになりますか?」


『是。バリエーションが欲しい』


「……くっそシンプルな回答と要求だな。経験値稼ぎとは別にそっちも試さなきゃならんのか」


 集合知から得られる情報だと、こっちの知識を最大限に生かしても金の魔王には届かない。

 ステータスが高くなって目立つようになれば、邪魔が入ってくる可能性も高い。この世界のイレギュラーである異能の調査は早めにやっといた方がいいだろう。


「……まあ、まずは経験値稼ぎなんだけど。レベル10まで上げないとな」


 実は転職はレベル10にならなくてもできる。ただ、初心者ノービスに戻る手段が無いので、早く転職するとその分ボーナスを捕りそこなうのと、スキルが覚えられないデメリットがある。

 ってか、デメリットしかないので、ちゃんと10まで上げてから転職だ。横着は出来ない。しばらくは地道に経験値を稼いでいこう。


□凪の平原□


「さて、経験値稼ぎを始めますか」


 凪の平原のだいぶ奥、人の少ないエリアまで足を延ばした。準備運動がてらの駆け足で1時間ほど。いやぁ、結構キク。

 あまり良い靴ではないので走りづらいのだけど、靴ずれが痛むとか、豆ができるとか無いのがありがたい。治癒ヒールで癒すからだけどさ。


「……投石」


 昨日レベル2に上がって覚えたばかりのスキルを発動させると、手の中に拳大の石が現れた。

 投石は名前と違って石を投げるスキルじゃあない。投げる石を取り寄せるスキルだ。


 今度は10秒ほどで手の上から消えてなくなる。元の場所に戻ったのだろう。面白いな。

 別に投げるために使わなくてもいい。継続時間は10秒。MPは使わないけど、使いすぎると少し疲れる。そんな感じのスキル。


「さて、まずはあいつかな」


 昨日と同じく、藁人形ストロー・ドールが少し先にいるので先制攻撃に投石で出した石を投げつける。

 こっちに向かって歩き出したところでもう一発。

 野球式のオーバースローで何発か当ててやると、煙を上げながら倒れた。うん、ザコだな。


 投石で出る石はそれなりのサイズだから、全力で投げると肩とか肘にきそうだ。まあ、これもヒールで直せばいいけど。


 そのまま目に付く範囲の魔物を倒していく。MPがもったいないから、たまに聖衝弾ホーリー・バレットも混ぜる。投石よりは当てやすいので良いな。


 何体かを倒したところで、目の届く範囲に魔物がいなくなる。

 無限に湧き出てくるわけじゃないので倒せば減るのは仕方ない。ドロップ品の中に食用となる木の実やキノコなどが混ざっていたから、またそのうち森から湧き出してくるだろう。


「しかしまぁ、それを待つのも馬鹿らしいので……集めますか」


 財布代わりの小袋から取り出した1ゴールド鉄貨を地面に放る。

 倒すとアイテムを落とすこの世界の魔物には2つの習性がある。1つは人を襲う事。もう一つは“価値のある物”をかぎつけ、取り込み、成長すること。

 通貨なんて、だれが持っても額面通りの“価値”がある。


 しばらく待つと草陰から黒い影が飛び出してくるのが見えた。


「来た来た。大肉蠅スカベンジャー・フライが3体か。うっとおしいな」


 この辺だと最も動きの速いやつだ。数もいる。誘引方法はやはりリスク高めだな。

 ある程度引き付けたところで、鉄貨を拾う。放り出しておいて取り込まれたら面倒だ。


聖衝弾ホーリー・バレット!」


 まっすぐ突っ込んでくるハエに向かって魔術を放つ。昨日よりちょこっとだけ威力は上がっているが、倒せるほどではない。


「けど、無いよりまし」


 突っ込んで地面に落ちた1匹にとどめを刺す。残り2匹。


 ハエたちは様子を見ながら周りを飛び回っている。こうなるともう魔術は当たらない。


「おとなしく地面に転がってろ!」


 相手の攻撃に合わせて剣を振るう事数回。一匹にクリーンヒットしてアイテムに変わる。

 こうなれば後は同じことの繰り返しだ。


「……ふぅ。一息」


 残り1匹も1分足らずで仕留めることができた。昨日より断然いいな。

 ドロップ品は長石2つと胡桃。このまま放置すると高確率で魔物に戻るので回収する。経験値的にはその方がいいのだけど……。

 ぶっちゃけ、その特性の所為で魔物が減らないのも一つの問題なんだよな。ギルドは一応持ち帰りを推奨しているので拾っておく。ある程度溜まれば換金できる。


 そんな感じで場所を変えたり、魔物を寄せたりしながら休憩をはさんで2時間ほど。

レベルは4に上がっていた。

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