第5話 朝起きたら成長してた
異世界2日目の朝は、全身の筋肉痛によって始まった。痛い、マジ痛い。
普段体を動かしているわけでもないのに、無理して動き過ぎた。
集合知によるトレーニング方法と、近代科学の知識、それに回復魔法による治癒を組み合わせると、ちょっとあり得ない効率で能力強化ができそうな感じだったのでやってみたけど、調子乗りすぎた。
つーかこれ、状態どうなってるのかね。筋肉痛?
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名前:ワタル・リターナー
状態:健康(18)
職業:
レベル:1
HP:10
MP:11
STR:11
VIT:11
INT:10
DEX:10
AGI:11
ATK:10
DEF:1
素質:全職種適正(適性),全技術適正(適性)、全魔術適正(適性)
スキル:魔力操作Lv1
魔術:神聖魔術Lv1
加護:集合知(クロノス王国歴290年版)、
異能:
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……うん、おかしい。
昨日見た時にはオールフラットなステータスだったが、今日はMP、STR、VIT、AGIが1づつ上がっている。そんな馬鹿な。
1日のトレーニングで一割もステータスが伸びるわけが無い。この世界のステータスは百分率だ。
STRが11になっているって事は、例えば昨日まで50kgが限界だった重量挙げが、今日は55kg出来るようになってる事になる。
VITやAGIはそこまで単純じゃないけど似たようなもんだ。バグ?
いやいや……さすがにありえないな。
「……
どういう理屈かわからないけど、ステータスが伸びているのだから痛みに苦しむ必要は無いな。
回復魔術で筋肉痛を癒すと、多少はましになる。MPが足らないし、INTも練度も低い。おまけに範囲が広くて治し辛い内傷だとこんなものか。
居間に向かうとすでにシスター・グースは朝食の支度をはじめていた。
「これはワタル様。もう少しお休みでも良かったのですよ」
「いえ、むしろお世話になってすいません。手伝います」
「いいえ。こちらは大丈夫ですが……それなら、身だしなみを治した方が良いかと思いますよ。髪がはねています」
む……風呂が無いから昨日は湯で体をふいただけだったけど、髪もちゃんと乾かせなかったからか。
「すいません。井戸をお借りします」
浄水を作る魔術や、体を清める魔術が使えればなぁ。研究はされているのだけれど、この国には普及していない。
そういうのは魔法王国ニンサルに行かないと教えてもらえないだろう。運が良くて金があれば、街で教えてくれる人は居るかもしれないけど……まあ、今後の課題。
朝食は固く焼かれたパンとスープ。昨日の夕飯とほぼ変わらない。流通が進んでいないせいで、山間の村だと食料事情がよろしくないんだ。
「この先、どうされますか?」
「……山を下って、凪の平原に出ますよ。あそこの開拓、どのくらい進んでますか?」
俺の知識だと、まだ開拓計画が発表され、人員募集が始まったくらいだ。
「現在で全体の三分の一でしょうか。開拓した分、魔物の密度が上がって進捗は芳しくありません。強い魔物は少ないので、初心者の経験値稼ぎには良いのですけどね」
ふむ。集合知の情報とそう変わらなそうだな。
「……ワタル様は……戸惑いはないのでしょうか?」
「どういう意味です?」
「……私が受けた天啓では、勇者とはそこに至るべき者であると。力なき者こそ勇者となりえると。実際、降臨されたばかりの勇者様は力もなく、戦いの経験もない赤子のようなものだと、そう伺っておりました」
「……まぁ、そうですね。間違っちゃいないです」
「ならば何故、異なる世界でそうも前向きでいられるのでしょう?」
なぜ……か。ん~……集合知が多少人格に影響してるっぽいのもあるんだけど……まあ。
「さっさと終わらせて帰りたいからですかね」
実のところはそれに尽きる。
この世界の神が去り際に付け加えてくれた情報によると、金の魔王を倒せば俺はお勤めが終わって元の世界に帰れるらしい。
お勤めとか、死んだことに成ってるのに帰ってどうするとか、分からないことも多い。
ただ、俺みたいな違う世界圏の人間を拉致って来るのは基本的にリスクが高く、ひょいひょい行うと魔王よりもやばい滅びに繋がるっぽい。
それを回避する方法の一つが、帰り道を用意すること。ほんとは本人の同意も必要っぽいんだけど、その辺はどうやって回避したんだか。
なので金の魔王を倒せば神が送り返してくれる。あとは自力で帰る方法を見つけるか。
どっちにしても、俺はあいつの真意を問質す。、そのためだけに動いているといっていい。
「……魔王との戦いは熾烈なものになるでしょう。もしかしたら命を落とすかしれません。怖くはないのですか?」
「怖いですよ?」
当たり前だ。そもそも怖くない奴なんていない。一回死んでるらしいので、覚えてはいなくともその辺影響しているかも知れないけれど、別段死んでも構わないと思っているわけではない。
「でも、帰れないほうがずっと怖いですよ」
あいつは俺の半身だ。生まれた時から天涯孤独。親の顔を知らず、孤児院で育った俺にとって、あいつだけが本当に大切な……。そしてそれは、あいつにとってだってそのはずだ。そう信じていた。
だから『死んでほしいと願われていた』なんて言葉で納得するほど、俺は素直じゃない。
会って問い詰めるまで意地でも死ねるものか。
「……そうですか」
すべてが伝わったわけではないだろう。それでもシスター・グースはそれで納得してくれたようだった。
「所で、出発前にまた魔術を教えてもらっていいですか?
「どちらも大丈夫ですよ」
「それなら、
魔術師ギルドの方針で、攻撃魔術は簡単なものでもなかなか教えてもらえないみたいだから、そっちの方がいいだろう。
「分かりました。村の皆にも教えますので、その時にご一緒していただけますか?」
「ええ、構いません」
どうも昨日俺が剣を振り回している間にも魔術を子供たちに仕込んでいたらしい。
すでに数人が
……あっという間に広まりそうで怖いなぁ。
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