第200話 海の魔物たち

「2つほど使わせていただきました。こちらはエンチャントによって作られた使い捨てのマジックアイテムだと思われます」


木の板の方に書かれた古い言語から、分かったことを説明する。


「これは盾の札、こっちは自己治癒の札ですね。これは……軽量化かな」


一部の札には発動面と裏面があり、発動面触れている対象に対して触れている対象に対して魔術が発動するようだ。俺が作った木札と同じような発想で作られている。

三角錐の方はキーワードが分からないが、もしかしたら札と同じキーワードで発動するかもしれない。


「リターナー殿は付与魔術師エンチャンター極めし者マスターでしたね!ありがとうございます!」


担当者が報告書をまとめてくれる。


「しかし不思議ですね。このドロップが発見されたのはごく最近。古い物なら、以前から出るか、既に回収され切っていてもよさそうなものなのですが」


……はい、そう言う感想が沸きますよね。

封魔弾の販売はまだクロノス王国と、タマットで少し売り払ったものくらいで広まっていない。

でもこの世に再誕したからには、影響は全世界に及ぶ。とてもいやな予感がする。


「最近、似たようなものがクロノスで売られているので、その所為かもしれませんねぇ」


「……ワタル、それって……」


アーニャ、ここは『しー』だ。


「このドロップ、多いのですか?」


「ええ、回収できただけでも100や200では利きません。他の国では古語で書かれた物も見つかっているという話もありますね」


「なら、今分かっている物だけでも使い方を書き留めておきましょう。クロノスで作られ始めた物についても、手持ちから少しお譲りします」


「おお!ありがとうございます!」


封魔弾の使い方・作り方をまとめた資料と、量産版の封魔弾をいくつか渡してギルドを出る。

そのまま宿まで戻って、部屋に消音化の魔術を掛けて一息。


「どうしたのですか?帰るなり」


デーブルに向かって図面を引いていたバーバラさんを横目にベッドに腰を下ろして。


「はぁ」


思わずため息をついた。


「……あれ、思いっきり封魔弾だよな」


「ああ、そうだね」


「最近、あれが出回り始めたって……」


「……俺が封魔弾を作って、各地で売り始めたから……だろうなぁ」


おそらくあのドロップ品は、かつて付与魔術師エンチャンターが不遇職になる前に作られた物だろう。

東群島を行きかう貿易船で運ばれていた荷の一つだと考えられる。沈んだ船の荷は魔物化して陸に戻るが、あれらは何らかの理由で使われなくなり、今の今まで『ほぼ価値の無い物』として海に沈んだままになっていたのだろう。


それが封魔弾の作成によって認知され、価値を得たことによって魔物化した。

つまり、いま東群島で起きてる魔物騒ぎは……。


「……俺の所為って事なんだよなぁ」


封魔弾を作った時、なんでこんな便利なアイテムが使われて居ないのだろうという事は頭をよぎった。

封印付与の使い方は知識として会ったわけだし、賢者辺りなら様々な封魔弾を作成できる。もっと流行っていてもおかしくないと思ったのだが。


「まさか、一度作られて廃れた物だったとは」


何らかの理由で使われなくなり、その結果として忘れ去られていたのだろう。

集合知を参照しても、それに関する情報は無い。付与魔術師エンチャンターが廃れた時に、その情報も失われてしまったのか。


「対策を考えないとなぁ。このままじゃいつまでたっても船が出ないし」


使われていた時代は文字の変化推移から、おそらく1000年~800年くらい前だろうと想像できる。

付与魔術師エンチャンターが作られた詳細な時期が分からないが、それなりの期間流通して居たらら、海中にどれだけ沈んでいるか分からない。


「本格的に海の魔物を相手にするのですね」


「うん。その場合対策を考えないとね」


海の魔物を相手にする場合、問題点は幾つかある。

まず戦場選び。海上、つまり船の上や海岸沿いで戦うか、水中で戦うか。これは魚人や人魚以外のほとんどの種族は、海上で戦うことを強いられるだろう。スキルを組み合わせても、海中で戦うのは不利以前の問題だ。3次職を極めていてもおそらく数百Gの魔物に殺される。


海岸沿いで戦うのが一番良いのだが、魔物もそれが分かっている。なのである程度価値の高い魔物は、海岸線に寄ってくることが少ない。効率的に人を殺すために、たいていは船を狙うのだ。

つまり、海の魔物と積極的に戦う場合、船のように海岸線から離れた位置かつ海面上で戦うことに成る。


次に運よく魔物を倒せた場合だが、海の魔物はどうしてもドロップ品の回収率が悪くなる。ドロップ品が水に浮くとは限らないからだ。

ドロップ回収専門の魚人などが居ればともかく、人間族が拾えるドロップは船上で倒した者に限られる。

回収できなかったドロップは、しばらくすればまた魔物として戻ってくるため、倒すだけではエンドレスだ。


更に使えるスキル。基本的に遠距離攻撃系の魔術は、水に振れたタイミングで発動してしまい射程が得られない。

その上、炎や風の魔術は水中ではほぼ効果を発揮せず、雷撃系の魔術も発動時に拡散してしまって、味方にも被害が出来る。


魔物は人が居れば必ず寄って来る。

だからあいつらのフィールドである海上にいれば確実によって来るはずなのだが……自由に飛べるか、海の上を歩ければまだ戦いようはあるんだけどな。

後は……海を割るか?タリアの精霊魔術や契約精霊に頼んでもさすがに無理だろう。


「なんにしても、実験が必要だな」


困ったときは出来ることすべて試してみるに限る。


「バーバラさん、暫定案の浮遊船フローティングシップ、作ってみましょうか」


今より移動速度を上げようと思うと、陸路や海路を行くのはもう現実的ではない。街道は人を撥ねかねないし、大陸の外周を回る海路はさすがに距離が長過ぎる。

そこで高速で空路を行く方法を検討していたのだけれど、安全性を考えるとなかなか形になるものが無かった。

浮遊船フローティングシップは、船酔い対策に作った浮遊する座敷フローティング・フロアを改良するという発想で考えた、最も安全性が高く、最も航続時間が短い機動廷である。

今の航続時間だと海を越えられないので試作を見送っていた。


「……!わかりました!やはり実物は作ってなんぼですね!すぐにかかります!」


バーバラさんは図面を書くより手を動かす方が好きらしいな。

手を動かしていれば、だんだん気づくことも生まれてくるだろう。


「あたしはどうしよう?」


「アーニャは、例のアレ、成人までに体得で良いんじゃないかな。海の魔物の方は、俺たち3人で何とかするよ。俺ももっと強く成らんといけないし」


今回、まともに人間相手に戦って思ったのは、まだまだ実力が足りないという事。特に死霊術師の俺は、正面切って戦った場合の速度が遅すぎる。

通常の攻撃なら一呼吸に3回4回の斬撃を放てるが、スキルは1発。多重詠唱マルチキャストを使った場合、二呼吸で複数発。火力は高いが、一呼吸に2回3回スキルを乗せた攻撃と高速移動をしてくる2次職後半の前衛には届かない。


必殺の一撃は対処できるが、手数で攻められると対処できなくなって死ぬ。

その速度に成って来ると、封魔弾は発声がボトルネックになって使えない。とりあえず解放済みの封魔弾を収納空間インベントリに持つようにしたが、それ以上の強化を考えねば。

今回は人形奇策で何とか凌いだが、そう運がいい状態が何度も続くとも思えない。多分、以前戦ったディアボロスかカマソッツ級の近接タイプが、物理限界を超越していない俺の限界だ。


「いつも通り、出来ることからコツコツと」


その前に、タリアとバーバラさんの衣装チェンジが先だけどね。

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