第201話 衣替え

「さて、やって参りましたお披露目会。イメージは伝えていましたけれど、どんな感じに仕上がってますか気になりますねぇ、アーニャさん」


「……なんでワタルがテンション高いんだよ」


当の二人が今一乗り気じゃないのだ、仕方なかろう。


冒険者ギルドで海の魔物増加の片棒を担いでいたことが判明した翌日、ギルド経由で頼んだ仕立て屋に、二人の新装備を取りに来ていた。

どちらもステータス参照を盛り込んだ、2次職向けの高級品である。


「準備できたよ。ほら、さっさと出ておいで」


最後の調整をしてくれた仕立て屋のおばちゃんが、手を叩いて最速する。


「……なぜかとても気恥ずかしいのですが……」


そう言ってまず出てきたのはバーバラさん。


「……おお」


「……すっげ」


思わず感嘆の声が出る。

光沢のある藍色をベースに、黄色で縁取りされたクーロンドレス――地球で言うところのチャイナドレス――タイプの服、その下に長袖のシャツと黒タイツ。胸部と肘、膝には金属製のガードがあり、どの部分にも花の意匠があしらわれている。

ウェストは帯で締め上げられており、スタイルの良さが強調されている。

首周りのガードは、インナーと合わせて縫い込んだ金属糸かな。チョーカーのように、そこだけ色が変わって見えている。


「……派手過ぎやしませんか?」


「いやいや、良いんじゃない。良く似合ってるよ」


バーバラさんは格闘家ベースの戦い方という事で、某格ゲーのキャラを参考にデザインを伝えてみた。見栄えは出来る限り良く、かつ動きやすさを重視。

素材は魔蚕の糸がベース。金属部分は魔鉄合金だが、これは魔蚕側をサポートする補助装備に留められている。


「冒険者の服装には思えないんだけどね」


「実力があるなら、見た目も気にしなきゃね」


後から出てきたタリアの服も良く出来ている。

基本は巫女服をベースにミニキュロットタイプ。上は前垂れの有る白衣で所々に朱や金の刺繍が入り、桜色の帯を締め、足元は厚手の白タイツ。

手元は収納空間インベントリを使う際に見えないよう、ちょっとダボっとさせてある。首元の防御は赤いストールだ。

此方もしっかり体系が分かる。


……二人ともスタイルが良いから、彩豊かな服の方が映えるな。


「オーダー通り細部に拘ったよ!貴族様の依頼かってくらいさ!」


「ええ、ナイスです!」


二人とも素が良いので、服装を盛るとさらに3割り増しくらいになる。

これなら戦場でも目立つだろう。俺も鎧に金ぴかの加工とか入れるかな

……。


「あたしは防具がこれでいいのかが気になるんだけど……」


「アーニャは現実的だな。魔蚕の布は強靭で、使い方によっては俺の鎧より防御力出るぞ」


魔蚕の生み出すシルクは蚕蜘蛛の糸ほどの性能は無いが、養蚕されているだけあって安価であり量が用意されている。特に東群島は特産地だ。

これは非常に強みがあり、二人の生地はほぼ100パーセント魔蚕シルクで作られていて、ステータスの参照度は俺の鎧より高く出来る。そのまま使っても二人は容量が余るから、倍率を上げて防御力を高めているぐらいだ。


「しかも、この生地は強い衝撃が加わった時だけ硬くなって防御力が上がる、衝撃硬化特性がある。防刃性能も素で鉄線と同程度の性能があり、それがさらにステータスで強化される」


バーバラさんは近接職だし、タリアも精霊魔術士でステータス補正を定着させた分、2次職では少しバランスをとったステータスにしている。

これでステータス強化のエンチャントを使えば、防御面での不安はぐっと減る算段だ。


……まぁ、その代わりにお値段が良すぎて、稼がないと手持ちが厳しい。

大陸との往来が無くなって、ギルド経由で供給されていたアース商会の売り上げが降ろせなくなっている。今の生活を続けると後1週間もすれば干からびるだろう。


「こんな目立つ服にする必要ある?」


「実力に応じて目立つのは必要だよ。特に、これからはね」


「これから?」


邪教徒アヴァランチを相手にするなら、ある程度は目立ってでも協力者を募っていく必要がある」


あいつらは人類だから、魔物以上に街での暗躍をしてくる。

クーロン国王特使と言う肩書はある程度効果がある物の、それ以上に揺るがない知名度が必要だ。


目立つこと。目立って邪教徒アヴァランチと対立している事を示す事。さらに人助けをして、必ず味方となる2割の人間を生み出す事。

そうして俺たちの動きの妨害をさせない事が、奴らに対抗する一つの術になる。


「狙われやすそうで心配だぜ」


「狙ってくる奴全部ぶち殺すくらいじゃなきゃ、目的は果たせないだろ?」


「……そうね。最悪魔物を根絶やしにしなきゃいけないんだの」


「それに邪教徒アヴァランチはおそらく、この間よりずっと強くなる。今まで通り、これからも、やるべきことは全力で、だな」


あいつらは人類だ。俺はそれに極めし者マスターとしての力を示してしまった。

俺が封魔弾でレベル上げを推進しているように、あいつらも魔物の力を借りて踏み出す者アドバンスの領域へ到達するものが出てくるだろう。


異能チートを除けば、戦力的にはずっと此方が不利。そして魔物にも邪教徒にもこちらが認識されている状態。

ここから先は、こっそり暗躍するのではどうにも成らない事態も発生する。

既にクロノスでは種をまいている。これからは目立つことも攻略の内と覚悟を決めよう。


「さらに後でエンチャントを足して、あとはバーバラさんのガントレットも取りに行かないとね」


二人の防具には、ついで耐久力向上や盾、自己治癒といったいつのもエンチャントを付与する。

更にバーバラさん用にステータス参照可能なガントレットも用意した。こちらにもエンチャントを付与して、それで装備は一通り完了だ。


「明日は首都での最後の買い物、明後日にはミスイに向かって、復興祈願に海の魔物狩りだ」


試さなきゃいけない事はいくつもある。時間はいくらあっても足りやしない。


「その前に……私の感想は貰ってないんだけど?」


「あ、はい……とても似合っていてステキだと思います」


「……まぁ、いいでしょう」


いや、本心だけどね。

俺たちは仲間で共犯者だけど、恋人ではないからね。うん。線引きは大事。

最近こっちの比重が増してきている気がしないでもないけど、俺の目的はあくまで地球に変えることだからね。気を緩めずに行きましょう。


自分に言い聞かせてる時点で負けてるんだよなぁ、と思わなくはない午後だった。

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