第415話 付喪神の鎧
「グォォォォォォッ!!!」
コゴロウが飛びのいたその場所に、オーガの棍棒が突き立ち周囲を衝撃波が襲う。
その威力は、数メートルは離れていた俺やアーニャの動きを一瞬止めるほど。まともに当たったら一撃で死にかねないと容易に想像できた。
「
そこにバーバラさんが飛び込むと同時に、3連打の疾風脚から
……あの巨体で綺麗に吹き飛んだ?
一瞬、違和感が頭をよぎるが、考える間もなく次が続く。
その身を一本の槍と変えて突撃してくるのは、黒鉄に輝く甲冑に身を包んだオーク。その狙いは宙に居るバーバラさんだ。そこに飛び込んで刃を振るう。
「散文渇!」
並行に揃えて振り下ろされた太刀が、三俣の槍とぶつかって火花を散らす。
っ!睦月でも切れない!?
「かってぇ!」
このオークも10000G級後半だ!
「俺の槍を止めるか!怒涛連槍!」
「おっと、口も達者なようでっ!」
言ってる合間に数度切り結ぶ。
突き出される槍は見て避けられる速さではない。太刀で跳ね上げても関係なく次の突きが来る。名前通り連撃系のスキル。
二刀でなければ、またバーバラさんやコゴロウなど技の使い手との訓練が無ければ、ステータスだけではどうにもならなかったであろう。それでも身体の動きを見て予想することで、何とかすべて受けきることに成功する。
「しのぎ切ったぁ!
「大旋風壁!」
二刀で高速発動した
アーニャは……コボルト剣士が突っ込んで来てる。オーガは既に身を起こした。
後衛が味方もろともこちらを吹き飛ばそうと魔術を放つ。バーバラさんがそれを打ち消した、その時。
「
とたん、足元が泥に沈み込んだ。周囲一面が泥沼溶かして動きを阻害する。
最後のゴブリンは術師か!
『足が!』
『靴が汚れる!』
『某の袴が!』
『言ってる場合か!高速移動スキル注意!』
踏ん張りの訊かない泥の中では、高速移動スキルの多くが暴発する。
高速移動や縮地は、発動か着地のどっちかですっころぶ事になるから事実上使えない。
それは敵も同じだが、状況を的確に判断して速度を殺してきやがった。
『バーバラさん、ゴブリン術師の無力化に専念してください!』
『わかりました!』
『大鬼は任せるのである!』
『犬っころさっさと終わらせるっ!』
奇しくも一対一が4組。俺の相手は目の前のオークの槍使い。
こいつを何とかしないとどうにもならんが……相当に強い。
「どうした!なぜもっとスキルを使わぬかっ!」
「あいにくと先が長いんでね!」
互いに足場が悪い中、ステータス任せに身体を酷使して、何とか対等に切り結べる。
カトプレパス誘引でほぼMPを使い切り、休憩中に回復できたのは約7割。
既にMPポーションは飲み過ぎて、これ以上は腹を下す覚悟をしなければならない。ちょっとは温存したい。
となると、どいつかを戦場からはじき出して二対一に持って行きたい処だが……ダメだ、パッとは対処法が思いつかん。
ボガードの俄然で隠し玉を使うのはナンセンス。対応される上、下手をすると魔物側にネタが伝わって後々足元を掬われかねない。
ええっと……今使えるスキルは……っ!悠長に考えてる余裕もないか!
少しMPを消費するが、ポケットの中の小さな人形に対して、
「小賢しい!」
ついでに念動力で相手の動きを阻害してみるが、ほぼ効果なし。MPの消費量に見合わない。
初級スキル・魔術は無詠唱で発動できるが威力や効果が低い。
中級スキル・魔術はどれも
魔術側は詠唱簡略化のスキルが有るが、スキル側は
上級スキルは現在戦闘用のモノが無く、上級魔術はくそ長い詠唱が必須。
おおざっぱに高速移動魔術、バフ魔術、回復魔術、デバフ魔術、攻撃魔術の順で詠唱の長さが増えるが、攻撃魔術は言わずもがな、デバフ魔術でも初級の詠唱魔術より長い。使えるわけねぇだろ。
「ってことで
まき散らしたランス系魔術が爆雷を散らす。
「温いわ!」
防ぎきられた!?いや、後衛の防御スキルか?どっちにしても嬉しくないっ!
同じオーク種でも、エリュマントスと比較すると半分以下の価値、こっちはINTが倍になってるのにこの手ごたえの無さよっ!
『この大鬼、以上に硬いのである!』
『足ば悪いしっ!コボルトのくせに妙に手練れでっ!』
『詠唱偽装とは姑息な事をっ!』
3人も手が開かないようだ。泥沼と
相手にこっちの職は分からないはずだし、見えてる情報だけで倒せるか?
『如月、足元の泥沼を解除したい。できるか?』
『やってみます!』
発動済み魔術やスキルで変じた現象まで打ち消せるのは、上級魔術の雲散霧消から。この呪文は3次職向けの上級魔術だから、今泥沼を戻せるのは魔術を斬れる如月しかない。
「逆手地走り!」
中指の腹だけを支点に、左手に持った如月を逆手に。文字通り地面を削りながら、すくい上げるような斬撃を放つ。
「遅いっ!」
その一撃は簡単に防がれるが、狙いはそこじゃない。
『打ち消せます!けど!』
『範囲が狭い!』
最大出力でも元の大地に戻るのは刃が当たった周囲十数センチ。しかもすぐに沼の水に沈む。これじゃ焼け石に水だ。
『ちゃんと練習しておけばよかったね。次、睦月、あいつの槍は斬れる?』
即座に泥沼打ち消しは無理だと判断し、次の手を探る。
『さっきから
『全力で魔力を籠めたら?』
『全力やったら真っ二つや!けど、一回やったら一、二時間はあかんで!』
ウォルガルフをぶった切った一撃は睦月の奥の手だ。
ここで切るには……まだ早い。MPと奥の手、温存するなら奥の手に決まってる。
泥がせり上がり、土と石で出来た剛腕が対象を束縛しようと伸びる。
狙いはオーク……では無く、俺自身。もちろん当たらない様に調整済みだ。
「どこを狙っている!」
「さぁてね!」
沼地から飛び出た
槍使いに向かって踏み出せば……ほら!
「足掛かりになんだよ!」
縮地!
飛んだ先はコゴロウが切り結ぶオーガの真横。着地用の足場も準備済みだぜ。
まともに相手をしてやる必要は無い。
『跳べ!』
『しかとっ!』
「
「ガッ!?」
魔剣士が覚える中級攻撃魔術・
バレット系の発展であり、アロー系より射程が長く、
「
あのオーガはめんどくさい。集合知から得られる情報がそう告げている。だから吹き飛ばして戦線離脱をして貰う。
炸裂効果のある封魔弾で吹き飛んだ先には、こちらから離れていく
恐らくはその特性故に……吹き飛ばされたオーガが倒れ込むと同時に、戦場の端へと運ばれていく。
「こっちを見ぬかぁぁぁっ!」
「っ!」
やっぱりそう楽はさせてくれないかっ!
置き去りにしてきたオークの槍が眼前に迫るが……。
「横やり失礼仕るっ!」
その一撃をコゴロウが阻む。
「姑息なっ!」
「魔物と正々堂々戦ってやる義理はねぇ!」
二人係の連続攻撃。初級スキルを乗せた斬撃が、槍の防御を塗ってオークの身体がを切り刻んでいく。
「ぐぁぁ!?」
いける!物理限界突破済みのコゴロウとの連携なら、手練れな槍兵でも押し切れる。
それは一瞬の油断だった。
「おのれ!この槍将マクベス、キサマらごときにやられはせぬぞ!怒涛連槍!」
オークの連撃スキルを太刀で受け流そうとして……その受けてが空を切る。
幻惑!?
気づいた時には喉元に切っ先が迫る。スキルの発動も間に合わない。どう足掻いても避けられるタイミングでは無かった。
『盾です!』
うちの頼れる仲間はもう三柱いるんでね!
俺の俄然に出現したカイトシールドが、オーク槍将の一撃を受ける。
付喪神とは、物に宿った偽精霊。それは主と共に成長する武具。
太刀である睦月や如月は
鎧である弥生も、その役割に準じた
しかし最も早く、上手く、好守であるのはその身自身。
かつて共に使われた大盾を、自らの
これこそがエルダードワーフ・ムネヨシが示した真骨頂。
明確に自我を得た
カイトシールドはその表面に深い傷を刻みながらも、オーク槍将の槍を完全に受け流した。
「バカな!」
「驚嘆はっ!」
「敗北であるっ!」
完全に宙に浮いたオークに、二人の攻撃を避けるだけの猶予はない。
「剛剣一閃・
「音速!
共に放った斬撃が、マクベスの身体を引き裂いて分断する。
そのまま音を立てずに地面に転がると、塵となって消えていくのだった。
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□大旋風壁
槍系職の上級スキルの一つ。薙ぎ払いの強化系であり、前周囲に発生した不可視の障壁が敵の攻撃を阻む攻防一体の技。障壁の発生時間が攻撃の時間より長い。
□
初級の土属性束縛系魔術。地面から手が伸びて、対象を掴んだ後に硬化する。
ワタルは最初、詠唱魔術としてバノッサから教わったが、あまり使う機会が無かった。
□逆手地走り
逆手に持った太刀で地面すれすれから切り上げる剣技。
集合知でどこかの流派からパクった。順手から逆手に、逆手から順手に一瞬で持ち替えるのが技の骨子。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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