第416話 速攻
『ごめんなさいぃ~。盾を出すしかありませんでしたぁ』
『弥生、ありがとう。助かった。大丈夫、あれなら敵には感づかれ思う』
あのオーク――マクベスと言ったか――の攻撃はヤバかった。弥生の一部である盾の防御力は鎧と相違ないのに、斜めに当てて反らした盾へのダメージが大きい。まともに受けたら鎧を貫かれて、戦闘不能に陥っていた可能性がある。
弥生たちの能力は出来るだけ温存しておきたいが、これ位なら問題無いだろう。
『ワタル殿、某は餓鬼の術者を』
『なら俺はアーニャを手伝います!』
コゴロウが
吹き飛ばしたオーガが戻ってくるまで1分もかからないだろう。スピード勝負がだが……。
「よくもマクベスをっ!」
「うわっちょ!」
ワープした先のコボルトは、影に現れた俺を早々に攻撃してきた。
死角に転移したはずなのに反応するのかよ。泥沼で足元が悪い中でも動きが早い。
『ワタル!こいつ強い!』
アーニャの姿は泥に汚れている。致命的なダメージは受けていないようだが、無傷で倒せる相手ではないという事か。
『大丈夫か?よく耐えた!』
集合知で下駄をはかせている俺でも辛いのだから、アーニャはさらにだろう。
『こいつ、たぶん物理限界は突破してる!』
『だろうねっ!ああくそ早い!』
侍タイプのコボルトの斬撃を、疾風斬りを使って何とか弾く。
魔術師職じゃステータスを活かし切れない。
アーニャは物理限界を突破しているが、技量的には相手の方が上か。彼女の
その上飛べる雑魚敵がたまに突っ込んで来る。一刀のもとに斬り捨てられる相手だが、それでも鬱陶しいことに変わりはない。
『ワタル、足元合わせる!』
『了解。やってみるさ』
雑魚を切り捨て、コボルトの剣戟を何とか反らしてタイミングを計る。
三、二、一っ!
「二刀流・逆十字!」
「
俺の斬撃に合わせて、コボルトの足元に落とし穴が発生する。確実に足を取られるであろうタイミング。
しかし奴はそれを足さばきだけで避ける。
っ!俺が落ちるように誘導すんじゃねぇ!
「死にさらせっ!」
単純な合わせ技だけで終わるかよ!崩れたバランスを、念動力を使って無理やり維持し、倒れ込みながらもすくい上げるように斬撃を放つ。
流石に予想外の動きだったらしい。飛びのく敵の胸板を浅く切り裂いた。
「飛斬槍!」
そこにアーニャの飛翔斬が追撃する。
二刀で放ったその斬撃を、コボルトが素早い切り替えしで迎撃するが……その二発はおとり。凌ぎきったと思った直後、一瞬遅れて放たれていた
飛翔斬と
「ぐぅっ!」
「
更に追撃。倒すには火力が足らないが、飛び散る火花と黒煙はコボルトの目と鼻をごまかすには十分だ。
『オーガ来ます!』
バーバラさんの叫びが届く。十数メートル先で、オーガが振りかぶっているのが横目に見えた。
スキルが来る。壁じゃ防ぎきれないっ。
「
放たれた衝撃波が障壁とぶつかり、辺りに烈風を巻き起こした。敵の魔物が何体か巻き込まれている。
『コボルトは!?』
『今終わった!』
そして横一線に振るわれた一撃は、コボルトの核をはじき出した。
「
振り向きざまに放った飛翔斬が急速に力を失ったコボルトを両断したのと、ワタルが衝撃波を防いだのはほぼ同時であった。
『ベブッ……ちくしょう、泥まみれになった!』
そして着地には失敗した。
『アーニャ、雑魚警戒!コゴロウ、ゴブリンは!?』
『取り巻きが全部こっちに来てる気がするのである!』
泥沼の外に飛び出したコゴロウが怒涛の勢いで敵を切り捨てて行っているが、それでもまだ術師には届いていないか。
それでもこっちへの攻撃が減ったおかげで少し余裕が出た。
「グォォォッ!」
さてオーガ3回目。横凪に振るわれる棍棒をギリギリで避ける。
『オーガは3人で対処!コゴロウは取り巻きを!』
『わかりました!』
バーバラさんが滑る様にオーガと距離を詰めると、足元に蹴りを叩き込んだ。
なんだあれ?……変成か!
よく見ると移動した部分が鏡面反射する石に変わっている。泥沼を変成で石に変え、水で滑らせているらしい。なかなか器用だな。
真似してみるとなかなか難しい。俺はむしろ滑らない足場に変質させた方がよさそうだ。
「普段戦闘で使わないから忘れてたよ!」
根を避けて腕に切りつけると、まるで巨大な鉄の塊を殴ったような感覚。硬いっ!
『こいつ変や!』
『同感だ!』
睦月の叫びに念話を返す。切ったはずなのに殴った感覚。しかも対してダメージになってない、どういう?
考えてる間に咆哮が来る。
防ぎきれずたたらを踏んだ。全方位に衝撃波を発生させる雄たけびは、直撃すると動きが止まる。
スタンは軽減できるとは言え、めんどくさいスキルを使う。
『ワタル!刺しても手ごたえがない!』
『わかってる!』
『攻撃した時、何処に攻撃しても思った以上に相手がノックバックします!姿勢を崩すというより全身で押した感じっ、クッ!?』
バーバラさんが言葉の途中で攻撃を受けて吹き飛ばされる。
予想以上に吹き飛ぶ。斬っても突いても硬い……わかった!ダメージ変換だ!
『こいつ、ダメージを全部HPダメージに変換するタイプの魔物だ!部位破壊が全く聞かない!』
斬ろうが突こうが全身に対する衝撃ダメージとして換算する。
騎士や魔剣士のスキルにも、
『どうやって倒すんだよ!強奪も略奪も効かないし!』
『こいつは殴ってれば勝手に死ぬ!』
ダメージ変換はダメージ無効化が出来なくなるというデメリットを持つ。元来の防御力があれば無効化できるような弱い威力の攻撃でも、能力が発動してHPダメージに置き換えてしまう。
恐らくHP自動回復スキルを持っているだろうけど、常識的な範囲だろう。
「そう言う相手なら!
封魔弾を一気に叩き込む。
この手の相手には一撃の威力が高い攻撃より、手数で攻めるのがセオリー!
混ざった
「そう言う事だったら!疾風!斬撃乱舞!」
「加減は無しです!疾風乱打!」
左右からの連撃でオーガの身体が揺れる。拘束から脱出しようとももがくが、念動力と追加で発動した魔術がそれを阻む。
オーガは咆哮による吹き飛ばしを狙うが、二人はそれに怯まない。
表情なんぞわからんが、動きに焦りが見え始めた。
悪いけど自由には動かせないぜ。人型の魔物は、身体の可動域も人型準拠なんだ。
決定打を放ったのはバーバラさんだった。
「これで。降り注げ!流星拳!」
バーバラさんの放った連撃の拳によって、オーガの身体が吹き飛ばされていく。
沼地でない地面に墜落した所でHPが尽きたのだろう。そのまま泡となって消えていく。
これで3体。残りは……。
意識を索敵に戻すと、ゴールドスタイン卿の側に会った大きな魔力反応が消えた。
弱い魔物たちが逃げるように離れていく。いや、早すぎだろ。一人で
しかし、向かう先にはさらに大きな魔力反応。おそらくボガード。一対一で容易に勝てるとは思えない。
『雑魚を蹴散らして援護に向かうよ!』
沼地から飛び出し、道すがらゴブリン術師を殴り倒してゴールドスタイン卿を視界にとらえたのは、ちょうどボガードと一戦交えようという直前であった……。
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□斬撃乱舞
騎士が覚える連続攻撃系中級スキル。おおよそDEX/20回の連撃が放てる(受け止め、打ち払い、掴みなどによる防御を無視して次の斬撃が放てる)
3回目以降、任意のタイミングでキャンセルできるのが特徴。
□疾風乱打
魔闘士が覚える連続攻撃系中級スキル。効果時間はDEXとAGIの平均値/100秒。発動中、ラッシュと同速で膝肘や蹴りを織り交ぜた乱打が可能になる(回し蹴りのモーションが終わらないはずのタイミングで、拳による突きを放つ、などが出来るようになる。またすべてに全力攻撃と同等の重さが乗る)
3回目以降、任意のタイミングでキャンセルできるのが特徴。
□降り注げ!流星拳!
ペガ〇ス流星拳。モーションと共に飛翔拳が連打される上級スキル。上級スキルの発動条件を緩和するまでは、放つ前に予備動作として「降り注げ!」と叫ぶ必要がある。別にバーバラさんの趣味ではない。
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アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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