第78話 専用装備を作ってもらった
午後の約束の時間になったので、ギルドから紹介された鍛冶職人の店に向かう。来るのは採寸してもらった時以来。
鍛冶屋の売店部分には、日用品の刃物などが並べられ、少しだけ冒険者向きの武器や防具もディスプレイされている。ファンタジー世界の武器防具屋と言うより、金物屋にそういうものが置いてあるイメージだ。
「いらっしゃい。予定通りできてるぜ」
店番の青年――と言っても、多分俺より年下――に声を掛けると、親方を呼んでくれた。
「着方は分かるか?」
「わかりますが、説明お願いします。実際に着るときは彼女に手伝ってもらいますので」
今回俺が買ったコンポジットアーマーも、タリアの革鎧も、一人で着付けるのはかなりハードルが高い。
防具の安全性が上がれば上がるだけ着付けが難しくなる。防御力は素材で決まるが、鎧の隙間を疲れたら意味が無いので、今回はしっかりした物を選んだ。
「奥に来な。ついでに着た状態で最終調整もするぞ」
店のスペースを借りて、お弟子さんらしき男性から着方を教わる。
鎧は分割式の胸鎧、腰鎧、首鎧、肩鎧、肘から手の甲まであるガントレット、太ももと膝から踝までに分割されたグリーブで構成されていて、二の腕と尻はチェインでガードする。
「着るには順番があるから時間かかるぞ。悠長に装備を整えられない場合の順番も覚えて置け」
説明を聞きながら、一つづつ装備を付けていく。やはり結構めんどくさいな。
タリアに手伝ってもらって着こむまでに30分ほど。なれても半分にするのが良い所だろう。ステータスも早着替えには効果が薄い。
「どんなもんだ?」
「……似合ってますよ。一気に冒険者っぽくなりましたね」
「そう?」
今までどう見えていたのかも気になるけど、聞くだけ野暮か。
各鎧の内側にはなめし革が張ってあって、付け心地は悪くない。重さもステータス的に問題にならない。
「ん、いい感じじゃねえか。ちょい見せてみろ」
最後につなぎのチェインの長さや、ベルトの微調整をしてもらう。うん、これまでの装備よりちょっと重いけど着心地は悪くない。それに、身体を動かしても金属音はほとんどしない。
「標準で軽量化と消音が付加されている。VITの反映は150くらいまでだ。ただお前さんの魔力に調整してあるから、鎧としての価値はほぼ無い。注文通りだと思うが、問題ないか?」
「はい、大丈夫です」
錬金素材をベースに加工された2次職用の装備は、装備者のステータスを反映して性能を高めてくれる。
作ってもらった鎧は標準的な性能の物だから、今の俺のVITをすべて活かすことは出来ないけれど、それでもこれまでとは比べ物にならない防御力がある。
また、標準的な効果として軽量化と消音が付加されている。これらは常時コスト0で発動する強化である。錬金術すごいよね、付与魔術とはえらい違い。
「ガントレットは言われた通り指先だけは出してみたが、そっちも支障ないか」
「そっちも問題ありません」
今のところ
布一枚分くらいどうにかする手立てはありそうなんだけど、これも今まで出来たという情報は無い。
「つぎはサークレットだな。こっちも注文通りに作ってある」
自分の頭の形に合わせて作ってもらったサークレット。シンプルな金属の輪だが、素材の防御力だけで八金入りのバンダナより高い。そして専用の加工もされている。
「防御膜の生成はうまく行きましたか?」
このサークレットは頭部を覆うように薄い防御膜を展開して、金属以外の部分も保護してくれるマジックアイテムだ。
「問題無いが、薄いぞ?」
「あとで付与で強化します」
俺のVITを抜けてくる威力の衝撃に反応するようになっているが、その代わり強度が弱い。ただ、あらかじめこの機能があれば、それに連動して盾を発動させることができる。
ヘルメットは重要なのだが、視界が狭まるのはやはり怖い。ハーフメットでも違和感があるし、真冬には防寒用の帽子をかぶる可能性もあるから軽い装備にした。
「うちも付与魔術を研究してみるかな……。それから、こいつがもう一つ頼まれてた剣だ。抜いてみな」
渡されたのは長さ1メートル半。刃渡りも1メートルを優に超える剣。片手でも両手でも使えるように調整されたバスタードソードと言われる分類の剣だ。
「STR200でもびくともしない耐久度だ。その代わり、それ以上は載せられなかった」
「ありがとうございます」
剣も全力で振ると耐久性が怪しくなってきていた。自分のSTRに耐えられるようにVITを参照して強度が上がる様に調整してもらっている。これに耐久力強化を付与すれば、武器の不安もとりあえず無くなる。
「しかし、こんな極振りの装備を作ったのは久しぶりだぜ。お前さんが装備してなきゃどれも材料程度の価値しかないぜ」
「中古売却は考えてないですからね」
「やっぱ超越者様の考えることは違うねぇ」
「その大そうな呼び方は勘弁してください」
親方を紹介してくれたのはギルドだが、いろんな都合で俺がレベル99の最初の一人だという話はしてある。
王都への出発時期の調整のため、納品はそれなりに急いでもらったのだ。
「いいじゃねぇか。うちの店にも拍が付く。ほれ、最後の盾な。こっちも鎧と変わらない仕様だ」
大振りなカイトシールド。表面にはこの店の印章が入っている。ちなみに剣の鍔にも入っている。
急ぎの仕事をしてもらう代わりに『人類初のレベル99到達者に装備を提供している』と言う売り出しを許可することに成っている。
教会でもらったタバード――エリュマントス戦でボロボロになったが、新品が来た――を着て、この店の印章の剣と盾で戦う。……広告塔だな。
「立派な装備ね。……私の村が魔物に襲われた時、皆が来ていたものよりも」
「それくらいじゃなきゃ手も足も出ないだろ?」
「……そうね」
「お代だが、48000ゴールドだ」
「……目玉が飛び出たわ」
「領主様への封魔矢の納品額2日分くらいだぞ」
「やめて、金銭感覚がおかしくなるから」
今の宿は二人一部屋で一泊42Gだからな。1日100Gあればそれなりに暮らせるのだから、この装備だけで1年以上働かずに暮らせる金額を払うことに成る。
ちなみに価値にすると1割とは言わないけど、そんなもんだ。全部俺仕様になっているからな。
「この後取りに行く予定の、タリアに合わせて調整してもらってる装備だって、鎧だけで服より高いからね」
「知ってるわよ。……ダメダメ、これ位気にしてちゃ皆を助けられないし……でもこれだけあれば家借りて畑を……」
色々と葛藤もあるのだろう。ぶつぶつ言っている彼女はしばらく放っておこう。
「ところで、この装備って直接触れてなくても常時俺を認識して効果を発揮してくれるじゃないですか。原理わかりますか?」
「ん?いや、そう言うもんだとしか言えないな。どうかしたか?」
封魔弾のトリガーに、直接肌で触れなければいけないとの説明をすると、ガンドレットに納得がいったようだ。
「なるほどな。……魔力関係だと思うが俺にゃあ分からん。王都まで行くんだろ?そっちで聞いてみればいい」
「……そうですね」
集合知の300年版にも情報が無いんだ。
3年で何か無いかと思ったが、まぁ無理よな。王都に行った時に調べてみよう。
装備を格納する木箱に鎧を詰めてもらい、店を出る。
タリアの防具も受け取って、今日の買い物はひと段落である。
明日は装備へのエンチャトだ。
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