第363話 混沌の獣・プリニウス2

バノッサさんの予知から、反射スキルの効果時間はおよそ15秒ほどと推測された。

これが意図的に打ち切られた時間なのか、それとも1回の効果時間なのは不明。連発できるかも不明だが、切れた後1回は属性飛斬エレメンタル・カッターを打ち込む余裕があるのは判った。


「離れているから良いのであるが、至近距離から反射されたら対処のしようが無いのである」


「ええ。ですが逆に離れていれば対処できることがわかりました。反射は発動者に向かって行われるので、背後から撃つ分には、前衛が吹き飛ばされる事は無さそうですね」


今は前衛の頭を飛び越してスキルを発動している。

反射で前衛がやられる様なら大問題だったが、予知のおかげで懸念無く検証が出来た。


「さて、それじゃあ次は大質量攻撃ですよ」


MPの消費がきついので、MP回復ポーションを口にする。


ポーションには飲むと一定量のMPが回復するモノ。それにプラスして時間当たりのMP回復量が増える物の2週類があって、使うのは後者。バノッサさんが飲んでるのもそれだ。

原理としては、魔素の収束特性を強化するらしい。吸収されなくても、体内に含んでいればMPとしては活用できる。


魔素吸収マナ・ドレインが使えれば、魔結晶からMPが吸い出せるんだけど、今はない物ねだり。


多重詠唱マルチキャスト!」


使うのは最初に撃った石投槍ストーン・ジャベリン

ただし発動数が違う。両手から同時に1発づつ、それを30連射で60発。消費MPは720だ。


石投槍ストーン・ジャベリン


密度は高く、速度は速く、体積は小さく。

この距離だと着弾までは0.5秒ほど。石槍の雨をくらうと良い。


「ぐぉぉぉぉっ!」


降り注ぐ石礫に打ちのめされて、プリニウスの身体が大きく揺れる。

槍は巨体の肉を割いて突き刺さり、その身を奥へと押しのけていく。


『なんて数だ!……効いているぞ!』


軍の指揮官だろうか。念話が飛んできているという事は、こちらを回線に加えてくれたらしい。


プリニウスが属性飛斬エレメンタル・カッターで切り裂かれ、まだ回復していない傷口が特に大きくえぐれている。

甲羅らしき硬い部分を破壊することは出来ないが、巨体を押しのけるのには使えそうだな。


「反射は無しですね」


「ああ。発動したか予知でもわからなかった。少なくともあれくらいじゃ防御しないって事だろうな。岩弾砲ロック・カノン!」


バノッサさんの放った砲撃が追い打ちとばかりプリニウスをびぶち当たる。

流石中級スキル。やはり初速が違う。


「多少は利いてるが、やはり効率が悪いな。俺も手持ちの上級スキルに物理特化は無い。おそらく結構な速度で再生しているんだろう。いろんなパーツが生えてくるのも、その一環かも知れん。どちらにせよ、ここから撃ってるだけじゃだめだな」


「俺とコゴロウは近接に切り替えましょう。バノッサさん、予知を中心でお願いします。行こう」


バノッサさんに補助魔術をお願いして、近接戦を挑むため土櫓から飛び降りた。


「うむ。では先陣を切らせていただくのである」


コゴロウが縮地を使って飛び出していく。転移によどみがない。


『あー、軍の皆さん。純粋物理攻撃、疾風斬りや、手数系の二段斬りのようなスキル、石弾ストーン・バレットや投石は反射されなそうです。逆に威力強化系の強打バッシュ斬撃スラッシュは恐らく反射されます。飛翔斬系や、魔弾マナ・バレット系も反射の対象です。スキルを絞って当たってください』


軍を含んだ念話に情報を流す。これで取り囲んでいる部隊も多少は動いてくれるはず。


『アルタイルさん、こちらも接近戦に移ります。状況を』


『砲撃で魔物が転んでくれたので、少しは楽になりましたね。でも、ジェイスン殿でも魔物の進行は抑えられません。どうやったら倒せるんですかね』


『HPを削り切るしか無いですね!』


プリニウスが自由に動けないよう、周囲で防壁を張っていた兵たちをすり抜けて前面へ。

デカい。また少しデカくなったか?


プリニウスに近づくと、体表面が変化して、狼の頭に大蛇の身体が付いた触手が大量発生する。

なるほど、シンプルにキモイ。


『数が多いだけである!』


コゴロウは伸びてくる頭を手早く切り落としていく。落ちた頭はその時点でゆっくり塵に成っていくようだ。


『でもこの数じゃ胴体までたどり着けるのはわずかですよ』


俺も二刀を引き抜いて挑むが、伸びて来る頭は結構固い。石斬りなら問題無いが、霞斬りだとちょっと引っかかる。この防御力だと、量産品の2次職専用武器じゃすぐに対処できなくなる。

これをサクサク処理できるって事は、コゴロウの大鬼斬りもスペックが上がっているのか。


『足だ!足を狙え!動きを止めれば、巨大な的になる!』


指揮官が激を飛ばすが、軍の精鋭の力を持っても攻めあぐねる相手。

そうそう簡単に急所はさらさない。


「やっぱりいい剣ですね」


「おっと、アルさん久方……ぶりですねっ!」


獣頭の触手がうっとおしいので走り回りながら戦ってると、こうしてすれ違うこともしばしば。


「槍だとこの手の手合いは不利です、ねっ!もう少し刃の厚い槍に変えたいところですっ!」


アル・シャインさんが使っているのは刃渡り30センチくらいの短槍。

斬撃も放てるけれど、ちょっと刃が薄く威力が足らない。それでも触手くらいは難なく防いでいる。


「バーバラさんに相談ですかね!」


「ええ。始めるとのめり込むので、体調を崩さないと良いのですがっ!……この距離は厳しいか」


「下がってください。俺は問題無いです」


「……失礼します」


極めし者マスターに成っていて、3次職のアル・シャインさんは同じレベル帯の3次職よりステータス分頭一つ飛び抜けている。それでも相性が割ると厳しいか。

これだと、うちのメンバーでもまともに戦えるのは一部だけか。


『ワタル!プリニウスがまたデカくなってる。なんかおかしいぞ!』


『そうかなと思っていたけど、ここに来てですか』


全く忙しい奴だ。

伸びてきたサソリの尻尾を切り落としながら、周囲を確認する。


……上級スキルで被害が出た軍の再編は何とか形になったようだ。

包囲網は復活し、攻撃者も一気に増えた。


……それに合わせるように体躯が巨大化した?

なら、縮んだ理由はなんだ?


戦闘面を考えると、大きく成ったり小さくなったりを意味も無くするはずはないんだが……。


『対対魔結界があとわずかで切れる!総員、警戒!防御も打ち消されるぞ!』


ちっ、ここにきて不利になるか。動きを止めるには……。


破氷砲フロスト・カノン!」


足元に向けて魔術を放つ。

炎裂砲フレイム・カノンの水属性版。凍り付いて動きが止まれば儲けもの。

3発連射したところで、結界がはじけた。


「ごぉぉぉ!」


プリニウスが雄たけびを上げ、かけられていたデバフが打ち消されていく。


いつの間にか、正面に躍り出ていたらしい。

巨大なサイの頭と目が合った。それは睨みつけるように俺を見ている。


……ここからが本番だ。

そう言われた気がした。

---------------------------------------------------------------------------------------------

現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る