第362話 混沌の獣・プリニウス1

僅かばかりの時間を使って検証した近未来視の条件は、


・注視約5秒で、視野内の数秒後までの未来を視覚情報として予知することが可能

・視野内に自信が変化を与えている状態では発動しない


の2つ。発動に必要な時間は1分より大幅に短かったが、見える時間もそれに比例して短い。

また、注視の時間は自分が何かしら視野内に影響を与えてる状態では作用しないらしく、会話をしている最中や、例えば視野の端に石を投げるなど、注視対象には影響を与えない動きであってもNG。注視対象にバフ魔術を掛けて維持、などの場合は予知が発動するので、重要なのは変化だと考えられる。


また、特徴として


・視野外からの影響は予知に含まれない。視野外からの影響がなかった未来を予知

・視野内であれば思考に基づく行動など、視覚情報では得られないはずの未来も予知可能

・視野内に入っていれば別々の対象の動きを予知可能


の3つが判明した。


1つ目、視野外からの影響を含まないのは、余地発動後に後ろから目隠しをして貰う事で確認。

目隠しをされるタイミングは判らなかったが、目隠しがされた後に俺が折った指の数は見えていた。


2つ目、視覚に基づかなくても予知できるのは、指折りでもそうだろうと推測できる。

筋肉の動きなどから推測の可能性もあるので、より確信度を上げるため、隠して折った指を見せる、顔などの直前まで変化が見えないと思われる部位を使うなど、少しパターンを振ってみたが問題無し。

更に、魔術の発動や魔素の動きも予知することが出来た。


3つ目はシンプル。二人ならんで指折りを別々に行ったが、これもクリア。


このことから、見えている範囲内なら、魔素の動きや電気信号なども含めて把握し、高精度な未来予測を行っていると考えられる。

……視野外の情報は使えないのであくまで予測のレベルだが、思考の先読みまで出来るのは強い。


「僅か15分足らずで、そこまで検証が出来るものであるか……」


「予知とか定番の能力ですしね。……しかしちょっとだけ時間コストが重いですね。火力砲台か、小隊長もしくは中隊長など指揮官向きのスキルで、目の前の敵と殴り合うのには向きません」


時の賢者はスキル的に砲台向きではない。

だとすると指揮官向きなのだろうが、バノッサさんの戦闘スタイルはどちらかと言うと前衛アタッカー。微妙にかみ合わないな。


「俺がスタイルを変えろって事だな。理解した。……MPもだいぶ回復したし、後はアレを何とかするだけか」


今もゆっくりと動いているプリニウス。

……なんかさっき見た時より縮んでいる気がするけど。


「小さくなってませんかね?」


「そう言われてみれば……」


「縮んでるな。反射の反動で力を失ったか?」


「どうでしょう?やる気がまだあるって事は、もう一度来ても問題無いって事ですよね。的が小さい方がダメージを受けないので、その対策ではないでしょうか」


サイズが大きく、重い方が攻撃には有利。逆に同じ硬さなら小さくて軽い方が防御には有利だ。

だけど話を聞くと、タリアが戦場をこのエリアに飛ばした後もプリニウスはサイズの拡大をしていたらしい。城壁破壊のためにでかくなるのは判るが、人間相手ならオーバースペックという気がする。


「少し様子を見ながら仕掛けてみましょうか。バーバラさん、せっかくの大物なのに申し訳ないんですが、タリアについて居てもらえます」


「はい。任せてください。しかし……申し訳なくないですよ?」


バーバラさんは頷くと、眉をひそめて訂正した。


「でも10万G級準ミリオンズと戦う機会なんで、そうそうある物じゃありませんし」


「……いえ……私は戦闘狂バトルジャンキーでは無いので、別に戦いたいとかないですからね?」


「むぅ。なんと奇特な」


「経験値が要らないって、大丈夫かよ?」


「……あれを経験値としか見えてないなら、その感性を心配しますよ」


「言うだけ無駄よ。……気を付けて。レベルが上がってたって、あのレベルの化け物に勝つのは奇跡みたいな物よ」


自らがエリュマントスの核だった時の記憶が呼び起こされたのだろうか。

いい加減慣れて軽く流しているタリアが、珍しく心配そうだ。


「わかってる。無理に勝つ必要は無いんだ。行きましょう」


念話でジェイスンさん、アルタイルさんに状況を確認する。


プリニウスは伝説級スキルで破壊された城壁に向かって進行中。城壁までは5~600メートルほどの位置。移動速度は遅く、妨害無しで進む速度は人が歩く程度。

サイズは少し小さくなって、体長30メートルほど。パーツも減って、見た目も多少落ち着いた。

この15分ちょっとで20メートル分も縮んだことになるが、理由は不明。


ジェイスンさん達はプリニウスの侵攻を止めるため、正面に割り込む形で進路をふさいだ。そこは反射でクーロン兵たちが吹き飛ばされたエリアである。

対対魔結界がまだ有効なので、デバフ魔術が効果を上げている。


デバフは反射できない?……という事は、エネルギー反転、つまり効果方向を変更するスキルかも知れないな。


『ワタル・リターナー。プリニウスに横やりを入れます。前衛、頭の上を槍が飛ぶから飛び上がらないでくださいね!』


わかる範囲に念話で呼びかける。

……応答あり。まだ指揮系統は死んでいない。


「バノッサさんは後ろで中止を!コゴロウ!いざという時は防御よろしく!まずは石投槍ストーン・ジャベリンで行く!」


土人形クレイドールで高台を作り、数十人の前衛を飛び越す視界を確保。


「まかせろ」


「あいわかった!」


「不動なる大地の神その御子よ!その身を貫き穿つ槍と変えて飛べ!石投槍ストーン・ジャベリン!」


詠唱によって発動した巨大な投げ槍が、風を切りながらプリニウスにぶち当たり轟音を上げる。


『少なくとも反射はねえな』


『了解!次は魔投槍マナ・ジャベリン!』


こちらは詠唱無しで放てる。魔力塊がぶち当たった瞬間に衝撃波が発生し、空気を揺らす。

やはり反射は無し。いくらINTが高くても、初級魔術には使わないか。


『次は中級行きます』


ようやく魔剣士でも中級の詠唱省略が可能になった。MPの消費が大きい分、威力も段違いだぞ。


炎裂砲フレイム・カノン!」


目にもとまらぬ速度で飛ぶ火砲が、プリニウスの身体にはえた頭一つを吹き飛ばした。

ジャベリンでは身体を揺さぶる程度の威力だったが、こちらはダメージが見える。プリニウスは痛みによってか、雄たけびを上げた。一つの顔がこちらを向く。


『水砲!壁1枚で防げるが、前衛に被って酷いことになる!』


ウォール!」


咄嗟に壁を斜めに展開し、反らす形で水砲を受ける。地面からジュウジュウと煙が上がっている。あまり煙を吸い込みたくはないな。


「ダメージには成っているようであるが、再生速度もなかなかのモノ。MP効率的にワタル殿だけで倒し切るのは無理であるな」


「俺だけで倒し切る必要あるとおもえないけど、コゴロウ、届くスキルは?」


「某のスキルでは、この位置からは少々効率が悪いのである」


まだ50メートル以上離れているからな。仕方ない。


『上級、行きます!』


今使える上級スキルは……属性飛斬エレメンタル・カッター

属性を乗せた強力な飛翔斬のようなスキル。十字飛斬クロス・カッターより威力があり、属性による副次ダメージも狙えるはずだ。

……選ぶのは……とりあえず。


雷撃飛斬ライトニング・カッター!」


横凪に振り切った石切りから、わずかに発光した斬撃が飛ぶ。予想よりずっと早い!

瞬き一つの間にプリニウスに届くと、幾つかのパーツを切り払い、肉に食い込んで雷撃を放つ。

さすが上級! 雷撃だけでも、俺のランス系より威力がありそうだ。

防御もちゃんと貫けたようで、当った部分が大きく裂けて、謎の体液が漏れ出している。


「もういっちょ!」


『反射、くるぞ!コゴロウが防げる!』


放つ前、バノッサさんが予知した未来を告げる。


『了解である』


氷結飛斬フロスト・カッター!」


スキルの発動は一瞬。斬撃がプリニウスに突き刺さるその瞬間、薄く奴の身体が光る。


「秘剣・対魔刃!」


「っ!!」


前に躍り出たコゴロウが、反射されてきた氷結飛斬フロスト・カッターを切り裂いて打ち消す。

わかって無くてもこれを防ぎきったのか。すげぇな。


「……連発します」


二呼吸、バノッサさんの予知分だけ時間をおいてリトライ。どれだけ反射が続くか試したい。


「了解なのである」


『しばらく無駄だ!やめとけ!』


コゴロウは頷いたが、バノッサさんからストップが入る。

反射スキルが発動すると、しばらくはそのままか。10秒以上は継続するようだ。


……さて、どうやって倒しだものか。

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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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