第361話 合流・近未来視
プリニウスが目前まで迫ったその時、大きな魔力の流れを感知すると同時に巨大なエネルギーの渦が発生した。
プラズマ化した大気の発光現象と、舞い上げられた粉塵によってのみ観測できるそれは、地を這うようにホクレンの城壁へと突き刺さると、えぐり取る様に大穴を生み出した。
巻き上げられた瓦礫は街へと降り注ぎ、家々を粉砕していく。
『みんな無事!?何があった!?』
この距離なら届くかもしれないと念話を送ると、すぐに無事だとの返答がある。
『私たちは今、戦場から少し外れた所に居るから平気だけど』
『軍が放った伝説級スキルが反射された!軍は半壊だし、城壁には二つ目の大穴。ついでに俺のMPはほぼ空だ』
大分うれしくない報告だ。
『反射というと、やはり鹿の魔物が使ったスキルであるな』
おそらくスキル反射。魔術やスキルを反射して発生事象を逆転させるタイプ。
物理反射では無いので通常攻撃や投石などの純物理攻撃は通るが、スキルであればその規模に関係なく反射されるのだろう。
……強すぎるだろという気がしなくもないが、初級スキルである
『プリニウスの動きを教えてください。間もなく20人合流しますから安全第一で』
『ああ、了解だ。幸い、奴さんすぐには動かないみたいだぜ』
バノッサさん達からの実況で、スキル反射を使ったプリニウスの動きはかなりゆっくりとしたものに変わったらしい。
しかし、軍の方も多数の兵が巻き込まれていて指揮が混乱。壁部隊は自分の役割を果たそうとスキルを展開しているが、隙間が生まれつつある。
さらに魔物の一部がそちらに多く流れ始めている。
うっとおしい雑魚を魔術で吹き飛ばしながら、開けた農地を走る。
「大丈夫!?」
「MPは無いけど、私たちは平気よ」
「アル、スコットは雑魚魔物の対処に、チャックとマルコフは人命救助に出てもらってる。オウリンは北門待機だ」
どうやら全員無事らしい。
ならばこちらも出来ることを使用。
「俺は人を連れてプリニウスの足止めをする。アルタイル、亡者から何人か選抜して手を貸してくれ」
「ええ、半分を足止め部隊の増援に、残りを負傷者の救助に向かわせましょう」
「それならあたしも回復役をやるよ」
「じゃあ、状況確認は俺とコゴロウで。全体指揮はアルタイルさん、お願いします。アーニャ、この周辺は俺がビットを飛ばすから、ここより外や城壁側を」
並行作業になるが、とりあえず全員出来る事から始めよう。
「それで、MP切れはタリア殿とバノッサ殿の二人であるか」
「ええ。私は精霊同化の副作用」
「俺は単なる使い過ぎた。反射された上級スキルの範囲内に居た人間を出来るっ限り
「って事は、バノッサんさんはすぐに回復できますね。魔石を使ってください」
「そいつはありがてぇ」
石切り村での戦いで得られたドロップの中から、すぐに使えそうなものを持ち込んである。
回復役や魔石もその一つ。
「プリニウスは……なんなんですかね、あの前衛的なアート作品みたいなバケモノは」
巨大な体には目立の口だの、場合によっては頭その物がそこかしこから生え、とげのある尻尾や、牙の付いた腕を振り回している。大きさは幅50メートル、高さも2~30メートルはあるだろうか。ベースとなっているのは脊椎動物っぽいのだが、複数の足で身体を支えるその姿はムカデとかに近い。
「はじめはもっと小さかったんだがな。いつの間にか大きくなってパーツも増えた。
「おそらく何か制約はあるのだと思います。はじめは高速移動を使って森から街までを駆け抜けました。そのまま体当たりで城壁を破壊です。ですが今はその様子はありません。反射と同時に高速移動を使われたら、おそらく抑えることは出来なかったはずです」
「ああ、今も動きは人のあるくのより遅いしな。少なくとも、あのスキルは奥の手の一つだったんだろう。とはいえ、何度使えるかはわからん」
「……ソウルイーターと呼ばれた鹿の魔物は、スキル反射は常時発動だったのである。タイミングをずらして飛翔斬などを何度も放ってみたのであるが、結局最後まで反射し続けられたのである」
「今、反射した時の魔力の動きはない。おそらくプリニウスは長時間は発動できないな。ただ、連発が利かないとは限らない」
「もう一度仕掛けるのはリスクが高すぎますね」
あれだけデカい魔物は、でかいだけで厄介だ。その上
「……バノッサさん、先ほどあいつがスキルを反射する前に飛び出しましたが……予兆が分かったのですか?」
「ん……ああ、そういやそうだな」
「近くでは分からない予兆が?」
「……いや、何というか……反射されるのが見えた」
「……見えた?」
どういう事だろう。
詳しく話を聞いてみると、プリニウスが反射スキルを使用する数秒前、バノッサさんがここから戦場に飛び出したらしい。
「反射で多くの人が巻き込まれるのが分かって……手持ちのスキルじゃ、反射も、反射された伝説級スキルも防げないから……
……反射が伝説級のスキルなら、準備スキルが必要でそれを感じ取った可能性もある。
けれど反射だと分かって飛び出したのだとすると……。
「……バノッサさん、レベル、上がってませんか?」
よくわからない事象が起きたら、それはおおむねスキルの所為だ。
バノッサさんは情報が少ない時の賢者。レベルが上がって、謎のスキルが増えていたりしないだろうか。
「ん……おお、本当だ。レベル10に上がってるな。増えたスキルは……近未来視?」
「……それですね」
俺も時の賢者のスキルすべてを把握しているわけでは無いが、集合知には未来を見通す目を有するとある。まんまだな。
「パッシブスキルだな。未来が常時見えるってわけじゃないようだが……どういうスキルだ?」
「俺もわかりませんよ」
「俺に時の賢者の話を教えたのはお前だろ」
「なんでも知ってるわけじゃないです。ただ……パッシブなら、発動条件があるんじゃないですかね」
パッシブスキルって常時発動だけど、実際には発動するのに条件があるものが存在する。
物理限界を突破するスキルなんかは、ある一定以上の力を発揮した時だけ自動で発動する。それと同じように、何か条件があるのだろう。
「発動した時は何をしてました?」
「……なにも。ただプリニウスが暴れるのを見ていただけだが」
「パッシブなら、おそらくカギとなるのはバノッサさんの行動ですね。この場合、何もせず見ていた、かな」
名前から推測するに、近い未来を見る能力だろう。
確定された未来を見る……わけでは無いな。バノッサさんが未来を見て、
「実用性が全くないスキルって事は無いと思います。……そうですね、このまま何もせず1分過ごした後、俺は両手の指をいくつか折ります。それが見えるかを試してみましょう。俺はあらかじめ折る指を決めて置くので、その指と会うかを確認しましょう」
どんなスキルか不明だが、発動してからバノッサさんが動くまで数秒。
何もしない、もしくは注視する、みたいなルールが発動条件だと仮定すると、数秒先を見るのに1分待ちは産廃スキル。そこまで厳しくはないはずだ。
心の中でゆっくり数を数えながら、時間が過ぎるのを待つ。
折る指は左手の親指1本。右手の薬指まで4本。合計は5だ。
「……左手の親指1本。右手の薬指まで4本折った」
バノッサさんがそう答えたのは、50を少し過ぎたあたりだった。
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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