第364話 混沌の獣・プリニウス3
プリニウスが雄たけびを上げると、巨大な体の所々が盛り上がり大きなコブとなる。
そこに亀裂が入ると、中から黒い影が飛び出した。
『分体!?空から来るぞ!』
その姿は3本足を持ったカラス。一度上空まで舞い上がり姿を消すと、急降下して周囲の兵たちに襲い掛かる。
「うわっ、こいつ……放せ!」
デカいプリニウスから生まれただけあってそのカラスも巨大だった。
急降下で狙いを定めた人間につかみかかると、再度数メートルの羽をはためかせてあっという間に上空へと舞い上がる。
そしてプリニウスから離れたエリアに到達すると同時に獲物を話す。
『うわぁぁぁぁっ!!』
飛ぶ術を持たない者がそのまま叩きつけられれば、結果は火を見るより明らかだ。
『
バノッサさんをはじめ、複数の術者が魔術を発動して、落下してくる複数の兵を受け止めた。けれど連れ去られた範囲が広すぎてすべてをカバーすることが出来ない。
運悪く誰の魔術範囲にも入れなかった者たちが地面にたたきつけられた。
くそ、シンプルなだけにうっとおしい事を!
『鳥を落とせ!耐久力は高くない!』
矢が、斬撃が空へと飛び、幾つかのカラスがそれに当たって消える。
しかしそんな事をやってる間に、プリニウスは次の準備を進めていた。さらに複数のコブが出来ると、今度はそこから虎や狼、それに熊と言った肉食の獣たちが這い出して来る。
『こいつら、中身有りだ!』
反撃した兵士たちが叫ぶ。
召喚か!また一貫性のないスキルを使う。こいつのスキル振りどうなってるんだ。
外皮だって切ればHPダメージが入るだろうに、触手を落としてもきりがないし、魔物も生み出してくる。
……勝てないはずはないのだ。価値に縛られる魔物の力は、おのずと制限される。
だというのに、こいつは全く底が見えない。
姿はどんどん変わって行っている。俺が切りかかった時はサイの頭だったが、今はトカゲのような爬虫類に顔に近くなっている。
背中には刺が生えて、後ろ脚は歪に大きく膨れ……なんの足だ?
その構造に違和感を覚える。畳んだ足はまるでバッタやカエルのように……。
『正面避けろ!潰されるぞ!』
バノッサさんからの警告。
プリニウスの後ろ足が伸び、その身体が高く跳ね上がる。
それは実のところただの前転である。
しかし巨大かつ大質量を持ったプリニウスの身体は、容易ぃ数十メートルを押しつぶす。
「っ!縮地!」
スキルを使って大きく横に避ける。轟音と共に土煙が上がった。
『3番隊無事か!?』
『こちらなんとか!!』
念話が飛び交っている。
ここでの戦闘に参加しているのは、みんな2次職後半以上、最低でも2つ目の高速移動スキルを覚えた面々らしい。ただの前転で潰されるほど弱くはない。
……しかし包囲は抜けられてしまった。高速移動スキルを使われるとまずい。
背後から仕掛けるか、それとも正面に回り込んでいく手を阻むか。
しかし結果的に、俺がそれを心配する必要は無かった。
プリニウスは巨大な尻尾で周囲を薙ぎ払うように身体を回し、わざわざこちらに向き直ったからだ。
「我が部下が世話になったようだな、リターナー!」
プリニウスが吼える。
こいつっ!言葉をしゃべれたのか!
よく見ると竜のような巨大な塔部の額に、人間の顔が張り付いていてそこから喋っているようだった。
……動物並みの知能であれば付け入る隙も多いが、この巨体で人並みの知能があると厄介極まりない。せめて人間相当の人格でない事を祈るな。
「てめぇの部下なら、二匹は灰に成って、一匹は地面の中に埋まってるぜ!ずいぶんと残念な結果だなぁ」
「ならば我が、キサマの命を持って落とし前を付けさせる必要があるな」
「図体ばかりのうすのろに出来るものかよ」
……とはいえまずいな。
MPが少ないし、バカでかいこいつは剣で正面からやり合うような相手じゃない。
身体の大きさの所為で通常攻撃が致命傷に成らない以上、高威力のスキルを使ってダメージを与えるべき敵だが反射がある。
軍は半壊状態。包囲を復活させようと動いているが、すでに半数近くがリタイアしてしまっていて人材不足は否めない。
決め手に欠ける状態で戦うのはかなり不利だ。
……ウォルガルフに使ったライフル弾はまだ残っているが、全部打ち込んでもこの巨体では倒せるか不明と。物理反射があった場合、あれはこっちの致命傷になる。使うタイミングは注意が居必用で、使うなら1回で仕留めたい。
生物系の特徴を持つ魔物ならHPを削り切るより疑似的にでも
というか、自己回復持ちでHPの高い魔物なんかはそうしないといつまでたっても倒せない。HPを削り切る前にこちらの体力やMPが尽きる。
『バノッサさん、軍と連携して立て直しを。こいつこっちに興味があるようなので引き付けます』
『また変なのに気に入られたようだな。了解』
必要なのはこいつの能力を削れるだけの大ダメージ。霞斬りなら反射は対処できるか?結界のように切り裂いて打ち消せれば、無効化できるかもしれない。
……やってみなきゃわからんが、ダメだったら命がけなのはちょっと分が悪いな。
軍の3次職が全滅したわけでは無いはず。隙を作って伝説級スキルを使ってもらうのが確実だ。そこまでどうやって持って行くかは戦いながら考えよう。
「さぁ、精々逃げ回って楽しませてくれよ」
「それが三下の台詞だってことを教えてやる!」
トカゲから竜に変わった頭は、こちらに向けて大きく口を開く。
ブレスが来る!?
カチカチという音と共に、口先から光るものが飛び散るのを見て縮地を発動。視線からプリニウスが外れないよう横に飛ぶ。
俺が居た周囲を火炎放射が焼き払っているのが見えた。
あれは……可燃性ガスによるブレスか!体内で精製したガスを、打ち付けた歯で発火させて放出しているらしい。魔素起因じゃないから霞斬りでは防げないし、ちょっと厄介だぞ。
そう思っていると右腕が尻尾に変わり、刺を伴ってこちらに向けて叩きつけれる。
一つ一つがでぇえな!
「
ギリ高速移動は不要と判断し、ステップで攻撃を避けながら腕か尻尾か分からないパーツを切りつける。
っと、どうやら頭だったようだ。すっぽんの様な頭が生えてきたところを石斬りがぶち抜いた。
射程を伸ばした刃なら、プリニウスの巨体でも芯まで届く!
……そう思っていたら太刀が力を失う。そうそう甘くはないか。
「でか物の隙は上って相場が決まっている」
縮天を使って背中に飛び上がると、プリニウスに刃を突き立てた。
このまま尻尾の先まで駆け抜けてやる。
「愚かなり!」
三歩進んだところで身体がへこみ、咄嗟に背を蹴って空へと逃れる。っ!口!?
プリニウスの背中には、巨大な人の口が現れていた。それが俺を飲み込もうとせり上がって来る。
気持ちわりぃ!
「縮天!
若干離れた空中から横凪の一撃を放つ。
反射されたら構えた霞斬りで打ち消すつもりだったが、幸いにしてプリニウスの身体を大きく切り裂いた。
連発はしない。リスクが高いし、ダメージがさっきより大きそうだからそれで良しと……?
なんでダメージが大きそうなんだ?
ふと、頭に疑問がわく。
切り裂かれた範囲は、さっきより大きく見える。
この手のスキルは、距離による威力の変化はないはずだ。という事は、防御が薄くなった?
飛来する酸性の粘液を壁で防ぎ、伸びて来る触手を切り落とし、
こちらに向けてブレスを放とうとする口には、その真下から
ぶちかましをくらった頭が天を仰ぎ、炎が伸びる。
MPを節約しながら、かつそれがバレないように調整しながらプリニウスの攻撃をさばく。
流石にすべての攻撃を防ぎきる事は出来ない。薙ぎ払いの様な打撃は、むしろ受けて回避として使う。
痛いしHPをそれなりに削られるが、回復で何とかなる範疇。
……しかし持久戦で勝てる気しねぇぞ!
一体どうしたもんか……。
『……ワタル、軍が隊列の立て直し終わりそうだが……気づいているか?』
『何がです?!』
『プリニウスの奴、明らかに縮んでるぞ!』
言われて気づく。確かにプリニウスの身体は縮んでいる。
最大サイズの時には体調50メートルを優に超えていたが、今は……20メートルを切る?
「……でかく成ったり小さく成ったり、いったいお前は何なんだっ!」
「我は混沌なり!」
「んなわけあるかっ!」
荒唐無稽な能力に見えても、必ず何か法則か、理論的な物があるはずだ。
特にサイズの変動は理由が分からない。なら、そこに必ず理由がある!
攻撃を避けながら理由を探す。縮んだ理由はなんだ?
時間?……最初は10メートルちょっとだったと聞いた。それから体調5倍、体積はそれ以上に増えた。
今は増えたり縮んだりしている。そこには脈絡が無いように見える。
『総員、攻撃を再開せよ!』
僅か10分足らずで再編されたクーロン軍の精鋭たちが、再度一斉に攻撃を始める。
「うっとおしい雑魚共が!」
ターゲットがそれた!プリニウスが身をよじり、周囲に向けてブレスを放ちながら暴れる。
そしてそれと同時に、それまで縮みだしていたその体躯が、今度は大きく膨らみだす。
っ!いったん撤退!
プリニウスのサイズ変化に何かしら能力の秘密があると判断した俺は、
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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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