第365話 混沌の獣・プリニウス4

「あのくそったれは、いったい何なんですかね」


バノッサさんの元に戻ると、救助に回っていたアーニャ、それにタリアとバーバラさんが近くに合流していた。


「でかく成ったり、小さく成ったり忙しいな」


「そこにあいつの強さの謎がある気がするんですけどね。理由が分からない」


サイズは既に40メートルほどまで大きくなっている。


「わかっているのは、最初は10メートル越え、そこから50メートル以上に巨大化し、身体を構成する生物の要素数も増えた」


「スキル反射を使ったあたりが最大。そこから徐々に小さくなりながら、前転をかましてしばらくした辺りで最初より少し位大きい、くらいまで縮んだか」


「軍の攻撃が再開されたところでまだ肥大化が再開?」


「見ていた限りはそうだな」


……つまり攻撃が激しいタイミングで巨大化している?


「森から飛び出したあいつは、最初狼の姿だったわ。城壁から魔術が飛んで撃退しようとしていたけど、どんどん形が変わっていって、身体も大きくなっていったわ」


「能力も上がっているようでした。森から飛び出した際より、加速的に速度が上がっていきましたから」


「……単純に考えるなら、ダメージが入ってHPが減ると巨大になる、か?」


「それで能力が上がっているのだとすると、倒せない魔物に成りそうですよねね。……そもそも、俺達が攻撃した時には巨大化はせず、むしろその後縮む方向に成りましたよ」


もしダメージが入るなら、反射を使われた属性飛斬エレメンタル・カッターのダメージで巨大化してもおかしくない。


「巨大化はあいつの意志で自由自在って事は?」


「それなら城壁破壊の際に、最初から巨大で良いと思うんだ。あれだけの能力があって、人語を解する知能もある。だからこそ、あの変化には理由があると思う」


HPが減ったことが直接的な引き金ではない。考え方は近い気はする。

一回のダメージで減った量?それとも時間当たりの減少量?


後はなんだ?さっきの戦いの中で何か変化していたもの。


召喚?


価値を分け与えての召喚なら縮むのは判るが、大きくなる理由には成らない。

あの召喚で、時間当たりの攻撃頻度は確実に減ったはずだ。反射で指揮系統の一部が吹き飛んだクーロン軍は、再編に手間取っていた。

その間にHPが回復して縮んだならわかるが……それだと半減してからまた巨大化するまでの時間に因果関係が……。


「……人数?」


ふと、そんな仮設が頭をよぎる。

集合知にそう言った特徴を持つ魔物の情報は無い。でも、能力が条件によって変化する魔物は存在する。

プリニウスは満月か新月の夜に力を増すタイプだと考えられているが、もしそれ以外にも条件があったとして……。


「例えば、プリニウスを攻撃した人数が多ければ多いほど……能力が上がる」


「……それは……あり得る……のか?」


「……可能性的には。どれくらいの価値になるのかわかりませんが、もし基準となる能力が低くて、その分複数人と戦う際に能力が伸びる、の様な特性を持っているなら」


……それは拠点攻めのための能力だ。

あんなのが突っ込んできたら、誰だって集団で防衛に当たる。クーロン軍も術者の一斉攻撃でHPを削ろうとした。でもそれがプリニウスの能力を引き出す鍵だったとしたら……。


「プリニウスの引き起こした事件は、基本的に街への侵略です。遭遇戦の情報はありません。拠点としているエリアも無く、クーロン内を転々としていると言われていました」


「……少数精鋭に襲撃されるのが一番不利だから?」


高位のネームド達も4次職を警戒しているので、なわばりを持たないのはそのためかと推測されていたが……。


「でも、それだとこの状況は不利です。アレを数人で抑え込むのは難しく、既に防壁は破壊されて居て、包囲を突破されれば街へ一直線です」


「軍は離れられねぇな。攻撃されて反撃しないで包囲を維持するのは無理だ。もし仮説が正しいなら、攻撃が止んで一定時間で徐々にサイズは小さくなるが……意図的にその状況を作るのは難しいぞ」


それはその通りだ。今も軍は頑張ってプリニウスを仕留めようと攻撃を仕掛けている。

もしこの仮説を軍に説明しても、試してみることは出来ないだろう。

攻撃の手を弱めれば相手の能力が下がるとして、こっちがそれに気づいた事が分かれば、プリニウスはわき目も降らず街へ突っ込む。多少知能があれば必ずそうする。軍は街を守るために手を引けない。


「……馬鹿の一つ覚えに成りますが、沈めましょう」


「泥沼か?」


「ええ。あいつは俺に喧嘩を売ってきましたから、鎌ってやればこっちを狙うでしょう。今も探してる。泥沼で周囲の足元を悪くすれば、軍は距離を開けるはずです。ずっと戦いづ付けているなら、MPが不足して遠距離攻撃スキルの発動頻度は落ちる……と思います」


「なるほどな。やってみるか」


「ええ、アルタイルさん達にも手伝ってもらいましょう」


………………。


…………。


……。


作戦を念話で仲間内だけに連絡し、俺は身を隠しながら再度プリニウスに近づく。

泥沼マイァを使えるのは、バノッサさんを除くと俺と亡者組。バノッサさん以外は詠唱魔術だ。今回、俺は泥沼マイァを使わないので、他の皆に頑張ってもらうことになる。


『深さは1メートルほど、範囲はプリニウスを中心に半径30メートルほどで、移動に合わせて調整をお願いします』


魔素吸収マナ・ドレインによる無限回復が難しいので、無駄に大きな泥沼はコスト的に難しい。

それに深くすると、巻き込まれた場合クーロン兵が脱出できない。


「こっちに喧嘩を売って来てるみたいなので、街から離れる方向に引き寄せます。俺が仕掛けたら引いてください」


「しかしそれでは……」


「大丈夫、俺は縮地がありますし、街から離れたほうが安全でしょう」


街から最も離れた位置にいた士官を説得し、個別に協力を取り付ける。

MPは5割ほど。縮地の連発制限はリセットされた。体力はちょっと疲れ気味だが、まだ何とかなる。


「それじゃあ、コゴロウ、アーニャ、よろしく」


「うむ」


「ああ、任せて!」


さて、やることは変わらない。高威力のスキルでダメージを与え、注意を引く。

バノッサさんは初撃までは予知に専念。それで反射を使われるリスクを減らす。


「祖は万物の根源、力は理、集まりて大いなる力と成れ!理力の大剣フォース・ブレイド


スキルによって破壊力を上乗せ。

各々がステータスや威力を高めるスキルを発動している。


『……行きますよ。……3、2、1、GO!』


「轟け!雷撃飛斬ライトニング・カッター!」


「唸れ!空破斬ソニック・ブラスト!」


「剛剣一閃!横一文字!」


それぞれのスキルが直撃し、敵を切り刻みながら轟音と雷光をまき散らす。


「いよう、でか物!待たせたな!」


この戦場で声が通るとも思えないが、それでも腹から声を張り上げる。

プリニウスの背中に顔が生えると、こちらを見てニタリと笑った。それと同時に、身体のパーツが逆転していく。


こいつ……前後を入れ替えられるのかよ。マジで気持ち悪い。


「見つけたぞぉ!コソコソ逃げ回り追って!」


『釣れました!よろしく!』


泥沼マイァ!』


魔術が発動して、プリニウスの足元が泥沼へと変わっていく。

これで亡者の術者組はMPがやばいはず。ちらほら流れてきているザコ狩りに回ってもらう。


『うわ、なんだこれ!?』


『下がれ!足を取られるぞ!』


『なんでこんなクソ魔術!』


クソ魔術とは失礼な。コストは重いが強力な術だぞ。

飛べない限り影響を逃れる術がない。敵味方関係なくだけどな。


「はっ!これしき、足止めになるものか!」


「ああ。だから凍ってろ」


バノッサさんの破氷砲フロスト・カノンが当たって、複数の足が凍り付く。

さあ、持久戦だ。仮説が当たっている事を祈ろうか。


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明日の土曜日、もしくは明後日の日曜日のどちらかは休載日となります。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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