第366話 混沌の獣・プリニウス5
プリニウスの戦闘方法は、基本的に巨体を生かした体当たりや踏みつぶしである。
人が人並みの能力しか持たない世界であれば、サイズ差だけで押し切れるのであろう。しかし残念なことに、この世界の人間の戦闘力はその枠を軽く凌駕しており、50メートルを超すプリニウスの伸し掛かりを瞬時に避ける、くらいの事はやってのける。
つまり、攻撃の威力は非常に強力であるが、当然、小回りの利かなさから大型の魔物特有の攻撃対象をおおざっぱにしか絞れないという弱点を必然的に抱えることになる。
それに対処する方法として、プリニウスは全身から触手――尻尾や蛇の胴体などだが、もうこの際そう呼ぼう――を生やし、自らの四肢では対処できない側面や後方の敵を排除する。
この触手の先端には様々な生き物の顔が生えており、おおむね噛みつきによる攻撃を行ってい来るのだが、頭を生やしているのは何もそれだけのためではないようだ。
『やっぱり、こっちを見ているな』
複数の頭が、胴体にはえた目が、頭部からの視覚に回り込んだ俺たちを追いかける。
目の役割を考えればそれは当然の動き。しかしここは地球のように物理現象だけが支配する世界ではない。
『外界認識を視覚に頼っているのは、ほぼ確定ですね』
魔物の周辺の知覚方法は、おおむね視覚を使う方法か、魔素を使う方法に2種類。
その他の方法、例えば音による索敵は指向性が低く、さらに遅いという欠点があり、においはさらにデメリットが大きくなる。地球では電波などを使う方式もあるが、障害物との区別、生物と仲間の魔物を同時に判別できるという利便性から、基本的にはこの二つであると考えられる。
プリニウスは巨体であり、周辺監視のため魔素を用いた周辺監視能力を有していてもおかしくない。はじめはそう思っていたが、
『音やにおいを補助的に使っている可能性はあるが、メインは光でほぼ確定。目くらましをしてみるか。……3、2、1、
バノッサさんの合図に従って一瞬目を閉じる。
強烈な閃光が辺りを覆い、視界が潰されたはず。こちらはサーチによる視野の確保もしているから影響がないが……。
『……あまり意味は内であるな。すべての目が常に開いているわけでは無い上、潰れた目に変わり新しいのが生えてきているのである』
『その様で』
多少の効果はある物の、もともと目の数が多すぎてすべてを潰し切れない。
人の目、鳥の目も混ざっているようで、視力も申し分ないのだろう。処理する頭はどうなっているんだと言う疑問は尽きないが、中身の事など気にしても無駄か。
『大技行くぜ!2!1!唸れ!
アーニャの上級スキルが空を引き裂き、複数の触手を吹き飛ばしながらプリニウスの身体をえぐり取る。
上がる雄たけび。おそらく
泥沼を発動させてから既に15分ほどが経過。俺達は先ほどのような検証をいくつかこなしていた。
今の布陣は、俺、アーニャ、コゴロウの3人が前面、左右に分かれてプリニウスを取り囲み、触手に対処しながら何とかこいつの隙を探っている。
バノッサさんは予知。後は先ほどのように必要なタイミングだけ遊撃として魔術を使う。
大技を放つ際には予知を行い、反射や無効化される場合は発動を止める。予知を感づかれると嫌なので、1回だけ
プリニウスの攻撃は苛烈だが、
ウォルガルフと最初に戦った時はこれがあって何とかだった。さっきの戦いでは、なくても物理限界突破スキルで対処出来た。
プリニウスは物理限界+
ただし接続時間の問題で15分毎くらいでかけなおしてもらわないといけない。MPが辛いな。
クーロン軍はこちらからの連絡で休息中だ。数分休めるだけでも、疲労は大きく軽減される。
一斉攻撃に向けて、力を蓄えている状態だ。……一斉攻撃はしない方が良いかも知れないが。
プリニウスの相手をし始めて20分ほど。
仮説が正しければ、そろそろ影響が出始めると思うのだが……。
その時、こちらに伸びてきた熊の腕を切り落とそうとして、互いの攻撃が空を切る。
一瞬、妙な間が生まれた。
「せいっ!」
一歩踏み込んでその腕を切り落とすと、胴体がわずかに遠い?
『みんな、少しづつ前へ!』
ここからでは縮んでいるのか、それともプリニウスが後退しているのか分からない。
ただ、もし縮んでいるなら、それに気づいたことに気づかれないほうが都合が良い。
「
作り置きしていた
たまにブレスが飛んでくると足場が悪くなるが、
『確認した!縮んでる!それもかなり急速にだ!』
間もなく、バノッサさんから念話が入る。
仮説は当たったか?
縮地で一気に距離を詰めると、石斬りを突き立てて足を切り落とす。
それを嫌がって集まって来る触手を再度の縮地で躱し、
確かに、だいぶ縮んでスリムになったな。
「おのれ!ちょとちょろとうっとおしい!」
だいぶ縮んだな。今は体長15メートル切る位か?それでもデカいけど、50メートル越えと比べるとえらい差だ。
『……そろそろカマを掛けます。プリニウスの攻撃が止まったら、回復に努めてください』
二人からの返答を聞いて、さらにアルタイルさん達に注意を促す。
さて、どう反応するかな?
「はっ!」
一声、頭の目の前に飛び出すと、鼻先に蹴り、回転しながら
「ずいぶん小さくなったなぁっ!プリニウス!」
「ぐ……ぬ?……これは?」
自らを取り囲んでいたクーロン軍が引き、縮んでいることに今気づいたらしい。声に戸惑いの色が見える。
……体のコントロールを出来ていない?複数の触手や頭のコントロールは、
「ずいぶんと温い包囲!なめられたものだな!」
「そう言う割にはパーツも減ったし、手数も減ったじゃないか。HP切れか?」
プリニウスの攻撃は明らかに温くなっていた。触手の数が減ったし、身体を構成するパーツも種類が減って、泥沼をかき分けるパワーも落ちているように見えた。
「は!上級スキルましか使わぬキサマらに、その様な事ある物か!
「じゃあ、なんで縮んだ?」
「答える義理は無いな!」
「……当ててやろうか?」
その言葉に、プリニウスの動きがぴたりと止まる。すべての瞳が、こちらを注視するように集まる。
「なに?」
「当ててやろうか?って聞いだんだよ。その、お前がでかく成ったり小さくなったりしている理由をさ」
「……キサマ、何が言いたい?」
「足りないんじゃないか?……敵が」
「っ!!」
トカゲ頭のくせに、その反応は人に近い。
さて、推測の半分くらいは当たったかな?
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今週も土曜日お休みとなりました。平日五日更新すると気力が厳しいですねぇ。
明日からまた平日ですが、祝日もあるので頑張っていきましょう。
現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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