第367話 混沌の獣・プリニウス6

「……興味深いたわごとだな。この脆弱な包囲もキサマの差し金か?」


「皆お疲れだからな。突っ込むしか能のないでか物の相手は俺達だけでも十分だろ」


「ぬかせ。……しかし我の能力の一端にでも感づくその洞察力、ウォルガルフを倒しただけの事はあるな。どこまで気づいた?」


「そうやって動きを止めるとは余裕だな。……お前、強すぎんだよ」


日暮れに開戦してもう数時間、一番槍として城門に突っ込んだプリニウスは、ずっと苛烈な攻撃にさらされ続けていることになる。


「無限回復なんて存在しない。魔物は倒せる程度の能力しか持たない。これは絶対の法則だ。魔力量から推定して10万G級準ミリオンズ。大陸屈指の強者だが、同格とされる他の魔物と比較するとタフすぎる。将軍系のお仲間も、複数人で袋叩きにされるのは御免こうむるだろう?」


「はっ、我と奴らではあり方が違うわ」


「ああ、違い過ぎる。だができる事という面ではそうでもないだろ?」


城壁を破壊できるだけの火力、高速移動スキルを有し、高いステータス。これだけで並みの1万G級には及ばない能力だ。逆に言えば、この能力はかなりの価値を消費する。

それに加えて、上級スキルを無効化できる魔術無効化ディスペル、全方位に攻撃可能な触手モドキのパーツ、伝説級スキルの反射。さんざん切り刻まれても一向に減らない魔力反応。


「真っ当な魔物の在り方なら、この大陸じゃ考えられねえよ。つじつまが合わない」


「ならばなんと考える?」


「次に考えられるのは価値のシフトだ。やってるだろう?過去の事例から判断するに、お前さんが最も力を振るえるのは満月か新月の夜。ここから離れるほど力が弱くなる。だからその期間は身を隠す」


「それを感づかれているのは予想のうちよ」


「ああ、だけどそれじゃまだ足りない。タフさと触手くらいは行けるかもしれないが、平衡して魔術無効化ディスペルと反射はやり過ぎだ」


ウォルガルフの魔術無効化ディスペルは拳だけだった。

ソウルイーターの反射は直径数メートルの球体だったが、あいつは代わりに足がくそ遅く、1万G級なのに投石でダメージが入る程脆い。


「加えてお前の身体はしょっちゅう大きく成ったり小さく成ったりしていただろ?普通はでかい方が強い。クリティカルのリスクを考えれば縮む理由がない。なのにこちらを倒し切る前に縮んだ。なんでだ?」


「………………」


「理由がない挙動なんてないよな。デカくなったのにも、小さくなったのにも理由がある。小さくなっている時の方が能力的には下がっているんだろ? わざわざ弱くなる理由は無い。そう考えると、それは制御できない能力、自動的だと考えるべきだ」


「はじめはHPの増減に合わせてかと思ったさ。でも、それだとタイミングが合わないし、何より。抜けが無い効果じゃ、傾斜をつけても大した強化には成らない」


HP連動だった場合、プリニウスを倒すには結局全力のプリニウスを相手をしなければならなくなる。それは制約ではない。こういうのは条件が合えばジャイアントキリングが狙えるからこそ、合わなかった時の能力を伸ばせるのだ。


「そこにこれまでのサイズ変動のタイミングを加えると、法則が見えて来る。お前は人類から攻撃を受けると、その人数に応じて制限されて居る能力が十数分だけ解放される。対大多数戦特化型の魔物、それがお前の正体じゃないか?」


俺の推測はそこまで間違っていないはず。

現にプリニウスのサイズは10メートルほどまで縮んでいる。話している間に、俺達が攻撃した分も抜けてきたのだろう。


「……くっ、くっ、くっ」


あ、妙に時代がかかった笑いを。これはアタリ5割くらいかな?


「なるほど。なかなかの洞察力。それに最初から戦場にいたわけでも無かろうに、その結論に至るとは仲間にも巡られたか。なんにせよ、本国が構うなと言ってくるわけだな」


……相変わらず俺は魔物の間でアンタッチャブル扱いなのか。


「確かに我が能力は大多数と戦う事を前提とし、その状況で真価を発揮する」


『あたり』


「しかしそれは本質ではない。この姿であってお、キサマら程度をひねりつぶすのに訳はないしな」


現在のプリニウスは巨大なトカゲだ。頭には王冠の様な装飾を携え、全身はびっしりとグレーの鱗に覆われている。


「泥沼から抜け出せない奴が良く言う」


「そうでもないぞ?」


プリニウスはそう言った瞬間に姿が変わり、四肢は身体に呑まれて蛇となると、するりと凍結した沼から抜ける。そして今度は鳥の様な足が生え、翼が生え、トカゲの顔先がとがってくちばしに変わる。


「……バジリスクか」


「我は混沌。形は無い。この程度で束縛したとは思わぬことだな」


縦に割れた瞳が、ぎょろりと動いて此方を睨む。

推測はあっている。どの程度能力が抑えられているかは不明。ただ、今のサイズなら理力の大剣フォース・ブレイドで首を飛ばして即死クリティカルが狙えるはず。


MPは……タンクに頼らないとダメか。


『まずは俺が行きます』


双剣を構え、強化スキルを発動。バノッサさんから知覚クロノスタシス加変速・ダイナミックも飛んでくる。


「せっかく鶏に成ったんらから、さばいて焼き鳥にしてやるよ」


「すりつぶしてくれるっ!」


飛び掛かって来るプリニウスに踏み込む。初撃は……相手の方が速いか。

縮んでもデカいだけはある。蛇の尻尾が回り込むように薙ぎ払いを掛けているのが見えた。


受けるのは危険と判断して、太刀を盾にかがみこんで交わす。

戻りがあるが勢いはない。その尻尾を踏みつけると、首元めがけて飛ぶ。


「クェっ!」


その瞬間、口元から霧のようなブレスが吐かれた。

魔力毒、石化ブレスか!バジリスクの形態をとった時点で予想済みなんだよ!

霞斬り如月を振るい、ブレスを打ち消す。物理現象でなければ霞斬りで対処できるのだ。


「せいッ!」


追撃として放たれた嘴を、石斬りで切り裂く。浅い。羽ばたきで後退された。

閉じられた口の周りに火花が散る。今度は炎のブレスか。でも甘い!


ゴウッ!


一瞬前まで俺の居た位置に火箭が走る。

しかし俺は既に縮天でプリニウスの上。詠唱もほぼ完了した。


「大いなる力と成れ!理力の大剣フォース・ブレイド!」」


二刀を揃えて叩きつけるように振り下ろす。

スキルによって強化された刃が、首元に食い込むと、それは肉を引き裂き骨を断つ。

そのままプリニウスの首を跳ね飛ばした。


やったか!?


『あぶねぇ!』


思わず立ててしまったフラグ通り、次の瞬間振るわれた翼による一撃で簡単に弾き飛ばされる。

いてぇ!あぶねぇ!


地面に転がるギリギリのところで縮天を発動。念動力で態勢を立て直しながら何とか着地。


……首を飛ばしたのに問答無用で反撃してくるってなんだよそれ。


十字飛斬クロス・カッター!」


十字の斬撃がプリニウスの翼を刻む。しかしそれを気にした様子はない。

羽根が抜け落ちると、そこから爪が生え、被膜の様なものが腕に繋がる。


「それじゃあ、今度は僕が相手だね!」


それは巨大な蝙蝠に変わっていた。羽ばたくと同時に魔力反応。斬撃か!?

数が多くてさばききれない。バックステップで回避しながら、当たる者だけを太刀で防御する。


その間にプリニウスは真上に迫ると、また姿を変えた。

鳥から蝙蝠。そして羽根を閉じて……アルマジロ!?


身体を丸めた巨体が、そのまま俺を押しつぶそうと迫る。

多彩すぎるだろ!


スキルを使って回避し、攻撃に転じようとするとまた姿を変える。今度はハリネズミか!?

踏み込んだところに針が生えて、危うく串刺しになる所だった。

……一人を相手にする場合、複数の魔物の特徴は持てない?バジリスクはずるいが、もしそうなら。


次々に姿を変えるプリニウスの攻撃をさばきながら隙を探る。

奴の変身は一呼吸程度。しかし大きく姿が変わる以上、攻撃と攻撃の間にはラグがある。


巨大なカバに姿を変え、こちらを飲み込もうと大口を上げたのがジャストタイミング。

バノッサさんからストップはかからない!


「闇へ帰れ・影滅飛斬ダークネス・カッター!」


石斬り、霞斬りから放たれた属性飛斬エレメンタル・カッターが、カバの身体を3つに引き裂き、斬撃は小さな尻尾の先まで駆け抜けた。

巨体の向こうに街並みが見えた。


『嘘だろ!まだだ!』


「っ!?」


分断された身体が巨大な蛇に姿を変えると、俺はその口に捕えられた。


「ぐふっ!」


衝撃で鎧が軋む。やばい!このままじゃ丸のみ……。


「助太刀いたす!神速抜刀・横一文字!」


視界が回転する。切り落とされた蛇の頭が、グルグルと回って地面に落ちた。

しこたま身体を地面に打ち付けられて、それでも跳ね起きると、蛇の胴体が巨大なカマキリに姿を変えるところだった。


……マジでどうなってんだ!

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現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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