第368話 混沌の獣・プリニウス7

俺の立てた仮説はおおむね当たっていて、少人数で戦った場合のプリニウスは比較的シンプルな魔物だった。

とれる形態は、一対一の場合は一種類、二対一の場合は二種類の生物が混ざったキメラになるらしい。

ここから推測するに、攻撃した人数と同数程度の生物特徴を引き出せる、というのがこいつの特性なのだろう。


姿は野生動物を模した物から、バジリスクを始めとする地球には存在しない幻獣まで様々。ただ直接戦ってみて思うのは、1種1種はそれほど脅威ではないという事。

殆どの形態はスキルを使わないステータスタイプ。スキルを使うタイプはもろく、火力の在る中級スキルや初級スキルの連撃でも、致命傷と思われるダメージを与えることが出来ている。

2次職、それも一つ目の高速移動スキルを覚えたくらいで対処できるだろう脅威しか感じられない。


……しかし倒せない。

首を落としても、身体を3つに分割しても、即座に別の魔物として復活してくるのだ。

これは明らかに異常。むしろ軍が戦っていた時の強さよりも、さらに強い違和感を感じる。


『むぅ。致命傷を与えられそうな業は反撃を受ける。かといって踏み込まずに勝てるほど弱くも無い。これは厄介であるな』


『二人で戦うと頭二つになるっぽいですね!能力も上がってるし、スキルも使う!』


些細な能力でも、手数増えれば厄介だし、予想の付かないスキルは対処が難しい。

相手の耐久が低いのも、手ごたえ無く再生されて居たらメリットに成らない。

時間を掛ければ対処できなくはないが、それが正解かが見当もつかない。


『あたしのスキルで中身抜いてみるか?』


『ありかも。コゴロウ、入れ替わりで』


『わかったのである』


コゴロウを回避に専念させ、俺もスキルを使わず各jつにダメージを与える戦い方に切り替える。


……きついな。

ボクシングは1ラウンド3分。こっちは休憩なしで15分以上戦い続けないとならない。

回復魔術で体力をブーストしているが、それでも集中力が途切れそうだ。


『気を抜くなよ!ジャベリンが来るぞ!』


バノッサさんの注意で盾を展開して魔術を防ぐ。放ったのは猿の様な小さな手か。スキルや魔術を使ってくる特徴は小さくて脆いな。

しかしこういうのがあるから気を抜けない。バノッサさんの予知が無ければ、途中で崩れていた可能性があるな。


それからまた15分以上かけてプリニウスの能力が落ちるのを待ち、頭が減った所でアーニャとコゴロウが切り替わる。


「いい加減死ね!」


スキルを発動してプリニウスの頭を叩き割る。

普通ならこれで死ぬ。しかしこいつは気にした様子もなく追撃をしてくる。


強奪ハック重強打ヘヴィ・バッシュ!」


こちらに向いたプリニウスの横っ腹にアーニャのスキルが決まり、衝撃で吹き飛ばされたプリニウスは地面を転がる。


『取れた!……けど多分安い!』


スキルは効果があるが、かすめ取れるドロップは安いモノからになり易い。

1回で大きくデバフをかけるのには至らないか。


「……スティール系スキルか。無駄な事を」


プリニウスはそう言うと、身体にコブを作る。

召喚!?なんでまた?


「これがどこから来るか、考えなかったのか?」


コブから飛び出してくる複数の狼たち。

中身入りと言われていた……そうか、収納空間インベントリ


『多分だけど、収納空間インベントリに召喚用アイテムを持ってる!そいつを掠め取っても大した効果は無い!』


『それじゃ、あたしのスキルは効果なしか』


狼たちの能力は100Gちょっと。このタイプなら二桁居てもスキルも不要で倒せるが、それでもうっとしい。


『ワタルさん、軍の方が4次職の準備を整えました。繋ぎます』


此方が攻めあぐねていると、アルタイルさんから念話が入る。


『この場の指揮代理のロウリョウだ。そいつを引き受けてくれたおかげで、被害の出た軍の再編が出来た。剣豪の伝説級スキルで一気に蹴りを付けたい。協力を頼む』


まだ攻撃系の伝説級スキルを使える人材がいたか。


『リターナーです。タイミングの指示を。縮地で逃げます』


『後30秒後だ!』


『了解。バノッサさん、頼みましたよ!』


この攻撃が成功するかは、バノッサさんが予知で確認できる。

問題があればストップ、または回避の指示を入れてもらえるはずだ。


『3、2、1……』


束縛網バインド・ネット!」


タイミングを合わせて捕縛魔術を発動。


『GO』


「次元……斬!!」


縮地でプリニウスから距離を取ったその瞬間、空間ごと奴の身体が真っ二つに分かれた。

剣豪が使う伝説級スキル。防御力無視の斬撃は空間を切り裂き、その裂け目にプリニウスが飲み込まれていく。

その裂け目は周囲に舞った砂塵や、泥と化した地面も吸いこんで渦を巻き、雷光をほとばしらせながら収束していく。


「……伝説級スキルはシャレに成らんな」


エリュマントスの大地裂斬アース・ディヴァイダー、グランドさんの空間断ディバイディング裂斬・ユニバースも大概だったが、このスキルも洒落に成らない威力。

人が巻き込まれたら影も残らんぞ。


歪んだ空間による暴風は十数秒続き、唐突に立ち込める土煙を残して消えた。

……倒したか?


『……嘘だろ?』


そのつぶやきはバノッサさんの物だった。


空間が裂けたその中心あたりに炎が灯る。


「……無駄。無駄、無駄、無駄なのだよ!!」


そう雄たけびを上げながら、炎が燃え広がると、巨大な鳥の形を取る。

……不死鳥、フェニックスかよ。マジでどうなってんだこいつ。


『……ちょっと勝ち方が分からないんですが、誰か何か知りませんか?ロウリョウさん、こいつの弱点とか』


『……残念ながら聞き及んでいない』


……なんで勝てない?

倒せない魔物はいない。それが大前提なのに、倒すことが出来ない。集合知に誤りがある?

こいつに勝てない様じゃ、魔王を倒すの何て夢のまた夢だぞ。


焦りが心をじわじわと浸食する。

誰も、何も答えない。


……倒し切るのが無理なら、封じることはできるか?

バノッサさんの時の魔術の中に、それが出来るものがあればあるいは?後は軍の人員に……。


悠々とこちらを睨むプリニウスに焦りを気取られないよう、剣を握りなおす。

勝てないだけで負けてはいないのだ。逃げるという選択肢は今のところない。


こうなりゃ倒れるまで付き合うか。

そう気合を入れなおしたところで……。


『ワタル、分かったわ』


お休み中だった俺の天使が、終末の吉報をもたらしてくれたのだった。

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2023/02/22.記

すいません、2/22の更新はお休みとなります。


現在5話まで公開中のスピンオフ、アーニャの冒険もよろしくお願いいたします!

アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

https://kakuyomu.jp/works/16817139559087802212

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