第70話 日常へと戻るまで

アインス防衛線が明けてから三日が経ち、街は落ち着きを取り戻し始めていた。


この間ギルド長のお呼び出しやら、領主のお呼び出しやらとイベントが続いたが、幸い大きな問題も無く乗り切ることができた。


ギルド長からの呼び出しは、エリュマントスの討伐報酬支払いについてだった。

ドロップ品のとしての価値、それにエリュマントスの大剣から正式に討伐が認められ、報酬が支払われる。その金額なんと1万G。ぶっちゃけ安い。まぁ、相互補助のギルドが掛けている懸賞金などそんなものである。


合わせてギルドランクが3に上がることに成った。遠征に出る直前、封魔弾の納入時に2に上がっていたので、割と順調な昇格だ。

これはエリュマントス撃破の報酬と言うより、西門防衛隊への貢献が大きい。中隊長殿が推薦してくれた。

ギルドランクは高いと便利だが束縛も多いので調整が難しい。魔物を倒す、ドロップを買い取ってもらう当りだとギルドのランクは関係ない。調査遠征だったり、採取や制作だったり、護衛だったりと言った依頼が受けやすくなったり回されたりする。


ランク3だと商隊の護衛に参加したり、臨時パーティー時のサブリーダーなんかを出来るようになるな。また、ギルドで高レベルの魔物の出現情報が効きやすくなったり、周辺の村や泉などの休憩場所なんかの情報も無条件に得られるようになる。それなりに信用されているという事だ。


それからターリア――年下なので呼び捨てでよいと言われた――の身元調査。これはギルドと領主の館で2度行われ、ペンダントトップを使った確認もなされたがうまい事切り抜けることが出来た。

やったことはとてもシンプルに、マジックアイテムの偽装である。


ペンダントトップのクリスタルには付与魔術で永続付与がなされていた。それと錬金術で作られた鷲の飾りが反応して光る仕様になっている。

なので付与解除でクリスタルにかかっていた魔術を解除し、代わりに別の魔術を付与する。解除した魔術はおそらく松明トーチだと思うが詳細が分からない。付与したのは除湿クリアミスト。俺の魔力感知だと大体同じくらいに感じられた。……ってことは松明トーチじゃなくないか?と言う気がしなくもない。ザースのペンダントトップの詳細を知る者はクロノス王国歴290年版の集合知ではいなかったのだ。


身元確認の役人は光らなかったペンダントを見ても、少し不思議そうにしていたが特に質問は出なかった。

紋章は信頼のおける従者に入れる場合もあるし、必ず反応するというものでもないらしい。

付与魔術の専門家と言うわけでもない役人には、ペンダントトップの偽装は気づかれなかった。

これで彼女がザース王国絡みで縛られることは当面ない。


一応、表立っては名前もタリアと呼ぶことに改めた。

若干イントネーションが変わる位だが、それなりに意味はある。集合知で調べる限り、ザース関連で彼女の名前はヒットしないが、あまりプライベートなことは調べられない加護だ。どこかの手記に名前が残っていても驚かない。


領主との謁見は……まぁ可もなく不可も無く。


「グローブさん、いつもの服装チンピラルックじゃないなんて珍しいですね」


「それについは一度お前とちゃんと話し合わないといけない気がするな」


みたいなやり取りがあったのが一番面白かった話かな。


エリュマントス撃破に関するお褒めのありがたい言葉を賜り、また限界突破に関する祝辞ももらった。

率直に言うとアインス防衛戦で金がないためありがたいお言葉だけ、と言う話だ。

まぁ、代わりにギルドより良い値段で封魔矢を買い取るから卸してくれと言われた。むしろこっちが本題じゃないか?

断る理由も無いので炎槍ファイア・ランス雷槍サンダー・ランスの封魔矢をそれぞれ50本づつ提供した。1本300Gである。


復唱法についても問われたが、これは魔術師ギルドとその本部があるニンサル魔導共和国に投げた。

バノッサさんがニンサルに行ったから、こっちに戻って来るより早いと、ちょっと面倒なことに成るかも。頑張ってくれ。

復唱法は使い方によっては有効な技術だ。有効活用してほしい。

また、病気の治療については教会と協力したほうが良いと伝えておいた。INTが低い治療キュア・シックだと重い病気の治癒は難しい。症状を抑えた結果状態が悪くなる場合もあるので、そこは専門家に任せるのが良い。


後はエリュマントスの大剣の再利用を考えたり、手に入れた報酬で装備を見繕ったり。

ステータスに合わせて半オーダーメイドの装備をそろえなければ成らなくなりつつあるので、ちょっくら買ってとはいかない。防具は1週間はかかる。


まだ転職も出来ていないので、付与魔術師エンチャンターレベル99のままだ。

スキルやステータスが定着しているので適当に転職しても構わないのだが、経験値稼ぎに出るのも準備が足りてないから後回しだ。


領主経由での依頼で、2週間もすれば王都に向かわなければいけないから、のんびりお休みと言うわけにもいかない。


「そんなわけで、次の一手を考えようと思う」


2人部屋に移動した宿で、ベッドの上いっぱいに収納空間インベントリの中身を並べてからそう提案したのだった。

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