第120話 顔役に探りを入れてみた
「こちらが男爵閣下からの返事になります」
朝一でバーバラさんから渡された手紙。
朝飯がまだなので、とりあえず食べながら読むことにして食卓を囲む。
「……ふむ。やはり孤児院が閉鎖されている話は上がってないと。真偽官が動けるように手を回してくれるか」
大分早く動いてくれたな。
「王都での行方不明は大問題です。ついこないだ、ブギーマンの襲撃があったばかりだというのに」
「ああ、そう言えばそうだったね」
件の襲撃からまだひと月くらいしか経っていない。
「そう言えば、俺たちが王都に来る最中にもブギーマンに襲われたな。話したっけ?」
「……初耳なのですが。男爵閣下にお話ししました?」
「……言ってねぇな」
ギルド経由で上がってないかな?
別に冒険者担当の貴族では無いから、知らなくてもおかしくないか。
「その襲撃はどうなったんですか?」
「え、もちろんぶち殺したよ。そんな価値振ってなかったし」
「……それも褒賞案件では?」
「めんどくさい」
ブギーマンはドロップがそれなりに美味しかったから、それで十分だ。
「ちなみに、孤児たちはもう見つけてある。どうも貧民街で人身売買に手を染めてる輩がいるらしいけど、確実な尻尾がつかめていない状況」
「……昨日1日いなかった間に何があったんですか」
「子供たち見つけたのは一昨日の深夜かなぁ。信用できる大人がいなくて、とりあえず隠れてもらっているけど。手紙を渡した時のアインス男爵の様子は聞いてもいい?」
「数日目を離しただけで、厄介事が湧いてきたと嘆いておりました」
「……これからもっと湧くけど大丈夫かな?」
「ご心配するなら2枚目を早急にとのことです」
「ああ、封魔矢の追加ね」
能力の検証が終わり、王国軍でも有用だと判断された。
賢者や大商人が覚える
冒険者ギルドにも卸してるから、そっちとも相談かなぁ。
「とりあえず、今日の予定は午後からドーレさんに会って、店舗の下見かな。その前にタリアに昨日話した、コーウェンさんの娘さんのレベリングのために顔合わせ」
9時までにうちに来てもらうようにお願いしたから、それまでに二人分の武器を準備しておく必要がある。
「はいはい。ちょっと森まで遠征して、適当に魔物倒せばいいのよね」
「タリア殿、いくらなんでも雑過ぎやしませんか?」
「ワタルと一緒に行動してれば、大概雑にもなるわ」
「雑魚くらい雑に倒せるようにならんと、俺たちの目的は果たせんしな」
タリアだって単独で1000Gオーバーを撃破できるんだから、冒険者としての能力は十分だ。
「バーバラさんには今日の状況を男爵に伝えてもらいたいんだけど」
「……顔役との商談には居るように言われているので、手紙を渡すくらいならできますが」
「じゃあそれで」
アインス男爵に渡す手紙を書いて、バーバラさんは送り出す。
それから錬金術でリタさん達が使う武器と防具を作成。いつものように魔鉄をベースに、差し棒のように伸び縮させられる棍?モドキを作る。
火力は永続付与した
防具はどうしようかなぁ。とりあえず封印付与で、来ている服に盾でも付与しておくか。それで持つだろう。
予定より少し早く、リタさんがバルバスさんを伴ってやってきた。
「……最近、ワタルの知り合いの美人率が上がって来てる気がするわ」
その発言は自分を含めてかな?
リタさんはクロノスではちょっと珍しい、オリエンタルな雰囲気の女性だ。コーウェンさんじゃなく、亡くなった奥さんの特徴が強めに出ているんだとか。
「俺の仲間のタリア。これでも一応、レベル50の精霊術士なので、王都近郊の魔物なら余裕だと思います。それから、リタさん用の武器は用意したので、使い勝手を試してみてください。魔物にしか効果はありません」
差し棒モドキを渡す。
手首のスナップを聞かせると、ヒュッ、ヒュッと風を切る。うん、重い剣などよりよっぽど使いやすそうだ。
「できる限りの防具は着てきたが、魔物狩りなんて久しぶり過ぎてなぁ」
二人とも革のジャケットなど丈夫な衣服に身を包み、大工が使う革製のヘルメットを身に着けている。
バルバスさんの職業はそのまま大工らしい。武器は薪割でも使う斧だった。
とりあえずエンチャントして、現場に着いたら封印解除してもらおう。
3人を送りだしたら、錬金術で素材をいじりながら、たまに
お昼を過ぎたあたりでバーバラさんが戻って来る。
「……孤児院は任せるそうです」
「任せるって?」
「見つからない様に面倒を見ておいてくれと。騎士団としては行方不明者の捜索という形で動くから、子供は見つかってないほうが良いそうです」
「また難儀なことを言う」
「王都内の行政担当は騎士団とは別だから、直接は手を出せないとのことです。院長が亡くなっていて代理は顔役になるから、とりあえずは状況の確認が顔役に行くだろうと」
お役所仕事め。
「今日の予定は伝えてあるんだよね?なにも言ってなかったん?」
「むしろ、予定通りに行動してほしいとのことです」
まずは顔役の屋敷への調査から入るかな。
スケジュールが割れているから、予定通りに不在のほうが都合が良いのだろう。
予定の時間にドーレさんの館を訪ねると、この間とは別の男性が応接間に案内してくれた。
「お待たせいたしてしまいましたかな?」
「いえ、お替り内容で何よりです。良い物件はありましたか?」
「もちろんですとも。ずいぶん回られていたようですから、お目にしていると思いますよ」
ふむ。俺がこの地区であいさつ回りをしていることも把握済み、というアピールかな。
直接案内をしてくれるとのことで、ドーレさんと従僕二人を伴って屋敷を出る。
「そう言えば、孤児院の方にも伺わせていただきました。グレイビアードでしたか?閉鎖されているようでしたが」
街中を歩くついてに、そう切り出してみた。
「ええ。少し前に院長が亡くなりまして。……ちょっと困ったことに成っているので、もし気づいたことが有れば教えていただけるとありがたいです」
「と、いいますと?」
「引継ぎ前に院長が亡くなられましたからな。代理の者を当てていたのですが、ひと月ほど前の魔物襲撃騒ぎの後突然辞めまして。その際の引継ぎがうまく行かず、子供たちが行方知れずになっているのです」
「……大問題では?」
「孤児院の管理は顔役の仕事ではないのですよ。襲撃の件で私もバタバタしておりましたし。この辺でも見かけたという話が出ているので、どこかには居るのでしょう。充てた前任が悪かったのか、はたまた院長との折り合いが悪かったのか。生活できる物資はあったはずなので、院を開ける理由は無いと思うのですけどね」
「なるほど。これ幸いと逃げ出したと」
「ええ。あそこは院長が高齢だったこともあって、本当に小さい子や体が弱い子はエイダールの方にお願いしておりましたから」
そこまで知っていて、この状況は黒だろう。
「外から見た限り、閉鎖されていたようですが?」
「この地区は外から来るものも多いですからね。空き家を開けておくと、浮浪者が住み着いてしまうのですよ。よそ者を警戒するわけではありませんが、犯罪者の隠れ家になっても困りますから」
ちゃんと申し出てくれれば支援をするのですけど、とこれ見よがしのため息をつく。
「もし、計画されている炊き出しに子供たちが来るようなら、それとなく居場所を聞いていただけますか。本格的に冬になる前に、孤児院を再開してあげる必要があります」
「……わかりました。気にかけておきます」
孤児院の話を振っても慌てるわけでも無し、これはなかなか厄介な相手かも知れないぞ。
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