第121話 貧民街を回ってみた
「丁度良いと思われる店舗はこちらになります」
ドーレさんに案内された中央広場の店舗は、広場のパン屋の隣であった。
1階にガレージタイプの広い土間があり、奥にはカマドなどがある調理場。2階は住居に成っているらしい。
「ワタルさんの希望を聞くと、飲食店としてテーブルなどを多く置くより、立ち食いや持ち帰りを前提に人を入れられるほうが良いでしょう。半分をパーティションで分けて、奥は医療スぺースにするのが良いかと。寒さが気になるようなら、そこは持ち運びできるトーブを焚くのが良いでしょう。扉は半分は閉じても良いかも知れませんね」
……うん。いいね。
広いスペースを好きにレイアウトできるし、目的を考えると入りづらい店舗タイプじゃないほうが良い。
簡単にしか説明してなかったのに、真っ先にこの形にたどり着くのは中々。
……いや、優秀だと厄介なんだけどな。
「入り口に横長のテーブルを置いてそこで配給をするか。奥を診療所にすると見えないのがちょっと辛いな」
「滞在時間を短くするなら、単に真ん中で区切っても良いかも知れませんな。外から見えたほうが、利用される方も多いでしょう。私も周知に努めますが、この地区にも結構な人数が居りますからね。まずは知って、信用してもらえないと始まらないでしょう」
この広場は井戸があるから利用者は多いけど、井戸がここだけどいうわけでもない。
「共用井戸に案内を出しても?」
「問題ありませんが、文字が読める人は少ないですぞ。公示人を立てますか?」
「人手が足りないので、初めは細々やりますよ」
ほんとに、こいつが疑惑の人じゃ無ければどれだけよかったか。
「広場にテーブルを置いても大丈夫ですかね?」
「多少は問題ありません」
それなら、広場にテーブルや椅子を並べてのスタイルでよいな。
冬場のテラス席は辛いだろうが、そんなに長期間頑張るつもりはない。何とでもなるだろう。
「そちらに転がっている板がひさしに成っていて、店の前に取り付けられます。営業中だけ取り付ける物ですね。雪が降りだすと重みには耐えられないので、その場合は使わないほうが無難です。まぁ、耐えられないほど積もるようなら客はいないでしょうがね。わはは」
扉の上にある突起構造にひっかけて、ポールで支える形になるようだ。
1メートルくらい前に出る程度なので、気休めだな。使うかは後で考えよう。
奥の台所、2部屋ある2階の部屋もそれなりに使えそうだ。
居住スペースは足りてるけど何に使おうかな?
「家賃は?」
「ひと月2000G、保証料が1000G。2階の居住スペースも合わせての金額になります」
「この立地でその価格は安いですね」
「……残念ながら、あまりお金のある地区ではないですからね。商機を求めるなら別の地区や新規に作ろうとしている八層に行くでしょう。七層のこちら側は堀を兼ねた運河があってこれ以上広げられないので発展性もないですし……運河が使えればいいんですが」
「壁を作ってから外に運河を回したんでしたっけ」
「ええ。先日も襲撃があったので、防壁に開放部を作るのは難しいそうです。内向きに作るにしても、今住んでいる人は立ち退かなければなりませんからね」
世間話を交えて、店舗はここに決める。管理はドーレさんが運営する商会だそうだ。
即金で金を払って、鍵を借り受ける。これで建物は準備できた。次は家具かなぁ。
「家財道具はどうされますかな?」
「……今から職人にお願いしていては時間がかかるので、そちらは中央街の方で出来合いの物を購入して運び込みます」
トラブルなければ明後日くらいから使えるはずだ。
「分かりました。それではほかに何か入用なら、またお声かけ下さい」
1時間ちょっとのやり取りを終え、ドーレさんは屋敷へ戻っていった。
さて、これでとりあえず目的の2店舗目は借りられたけど、このまま進めて大丈夫なのかな。
『ワタル殿、少しよろしいか?』
すぐには使えない店舗の戸締りをして、孤児院に向かおうかと思ったところで
『どちら様ですか?』
声からして明らかに知らない人からの通話だ。
『王国騎士団所属のミゲルと申します。名乗りはしませんでしたが、先日、三層に来られた時にお会いした者の一人になります。行方不明の件でご連絡が』
『何か問題でも?』
『イバイヤ・ドーレの屋敷を外から調べてみましたが、今朝の手紙で教えていただいた、子供3名らしき魔力反応は見られませんでした』
……なるほど。
『逆に孤児院が閉鎖されているのと、中に子供らしき反応があることは確認できました。もともと居たはずの人数と合わないことも確認が取れています。捜索にご協力いただけませんか?現在調査に当れている隊員に、ワタル殿ほどINTが高いものが居りません』
広域
『わかりました。しかし王都全域は無理ですよ?』
『この地区だけで問題ありません。王都から人を隠して出るのは難しく、権力の及ばない地区外には出ていないと推測しています』
王都の出入りは全チェックが行われているから、こっそり出るのは至難の業か。
……先に売られたという話の二人がどうなったのか気になるが……とりあえず、今は行方が分からなくなった3人を探そう。
「バーバラさん、ちょっと予定変更です」
「はい。聞こえておりました」
発言が無かっただけで
っ!さすがにこの中からそれらしい反応を見つけるのは辛いな。
『優先して探索すべき場所はありますか?』
『ドーレが管理する商会の建物周囲はこちらで見ています。外城壁から半時計で調べていただけるとありがたいです』
中央広場から外壁に向かって進み、外壁が見える距離に来たら道に沿って進む。
魔力反応の内、前回見つけた小さな反応を選び出して注視するが、それらしい反応が多すぎて辛い。一般職ではステータスが低くて、未成年や
『それらしい反応がありそうですか』
『いや。そもそも三人一緒に管理されているかも分からん。……もちろん、生きてるかも含めて』
『……そこまで危険だと?』
『世界情勢を考えると、わざわざ殺す必要は無いね。むしろ生きていた方が捜査の手は弱まるから、殺さないほうが普通。ただ、わざわざこの国で人身売買に手を染めようなんて輩の考えることは分からんよ』
雑な個人犯罪はすぐにつかまるが、組織犯罪は地球以上に厄介だ。
指示者と実行犯が違うのは当たり前、ほかに協力者がいることもざらで、しかも指示者がだれか分からないとか、関係者がそもそも自分が何をしていたか知らない、なんてしょっちゅうだ。
アンナが人身売買だと知ったのは偶然で、おそらく犯行グループの一部が、支持者が予想をしないほどアホだったのだろう。
アンナの勘違い、という線も一瞬疑ったのだが、捕まった3人が解放されていないのや、ドーレ宅から消えていることを考えれば、何かしらの事件性はあるのだろう。
「しかし、この地区もなかなかに広いな」
ちらほらと農地を挟むし、七層がいくつにも分けられているとは言え、三千人以上住んでいるエリアなのだからそれも当然か。
相手の指示役の頭が切れるなら、
それなら監禁は一時的な空き屋を使うかな。
「こんにちわ~、今度中央広場で食事処件診療所を開くことに成りました~」
たまにある商店や工場に挨拶をし、話を聞いて回りながら、夕方までかけて地区内をぐるりと回った。
怪しげな民家は幾つか見つかったものの、確証が持てる情報は得られなかった。
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