第119話 進捗はゆっくりと
「ややこしい事に成ってるのね」
孤児院に不法侵入した翌朝、タリアに状況を説明するとため息をつかれた。
「昨日話を聞いた時も面倒なことに成ってそうと思ったけど、どうするの?」
「バーバラさんがもってくる返答次第」
昨日の夕方、エイダール孤児院から帰った後、一筆孤児院の状況をしたためてバーバラさんに至急で手紙を託した。
早ければ今日の午前中には、孤児院の件についてなにか返答があるだろう。
「アインス男爵は関係者じゃなさそうなんだよね。今の貧民街の動きを見ると、アインス男爵が関係者なら止めると思うんだ。事情を知らないよそ者に動かれたくは無いだろうから」
病気で寝込んでいたコーウェンさん、エイダール孤児院のグットマンさんも関わりないはず。
コーウェンは何かできるような状態じゃないし、グットマンさんが関わってるなら、そもそも自分の所でやればいい。彼女は実務担当者で、国との事務手続きは彼女の叔母が取りまとめているらしいから、真偽官を警戒する必要が薄い。
「孤児院侵入は怒られないの?」
「怒られそうだから、後で錬金術師に戻って直しに行かないと」
原状復帰して、男爵にもう一筆書いておけば大丈夫だろう。
「ワタルが気にしていた真偽官は?」
「あいつら尋問技術ゴミだから、注意しておけば大丈夫」
きっつい制約の代わりに、スキルで嘘が見抜ける真偽官。
その強力なスキルがある結果、尋問や拷問の技術はこの世界から消えてしまった。
極めれば声に出さなくても真偽が判別可能だからな。当人が嘘を付けない制約もあって、真偽官の判断は絶対だ。
……平和的なのは良いことだけど、技術発展を阻害してしまうのは悩みどころなんだよなぁ。
真偽官を欺く側はずっと研鑽を続けているので、簡単に対応できなくなっているのに気づいていない節がある。
「手っ取り早く解決する手段は無い物か……」
捕まっている3人を奪還するのは容易いんだよな。屋敷外から穴でも掘っていけばいい。
ただ人違いだった場合、後処理がとても面倒くさいと言うか、怒られるじゃすまんかもしれん。
今いる子供たちを他の地区に逃がすのは……渡りをつければ可能。
ただ、地区外の孤児院に余裕があるか分からんし、金にモノを言わせても後で問題が発生する可能性は払拭できない。
「結局、信用できる大人が居ないとどうにもならないんだよね。バーバラさん頼み」
対応方針決めて回答貰ってから帰ってきてと念押ししてあるから、下手をすると数日は労働力として当てにできない。
「とりあえず今日は錬金術師に戻って、ギルドに顔を出すかなぁ。タリアはどうする?」
「まだ準備済みの食材があるから、料理人に戻る必要は無いけど……家じゃ呼べる精霊が少ないから、少し街の外に出てみようかしら。貧民街にはいかないほうが良いんでしょ?」
「ああ、その隷属紋がちょっとね。今回の件もあるし、この国で奴隷は貴重だから、トラブルになる可能性が高い」
人身売買は組織的な犯罪だから、貧民街の様子見をした後に、と思っていたら見事に引っかかったわけだ。
タリアからMPタンクのペンダントを受け取って、少しだけ封魔弾を作る。
昨日アンナに
この処MPの消費が大きいから、封魔弾の数を作るのも一苦労だ。
タリアと共にギルドに顔を出し、依頼していた人材募集の確認をする。
「冒険者ギルドに来る人材ではなかなかですね。王都に居る2次職は、他の士官先もありますから。ワタルさんに会ってみたいって方ならそれなりに来ますよ」
「パンダじゃ無いので、見物されても」
「あと、封魔矢の卸しを増やしてほしいって依頼が来ているのですけど」
「それはMP次第です。ポーションとかタンクを用意してくれれば、少し割引して付与だけしますけど」
「それをやるとMP回復ポーションの値上がりがシャレにならないから、さすがに止めようという話になりまして」
「それなら諦めてください」
現在の封魔弾の卸先は、アインスとヒンメルの冒険者ギルド。
アインスは100本単位で送ると、送料向う持ちで3万Gが送られてくる。ヒンメルは10本3300Gで買い取ってくれる。
最初は少量だけ、という話だったんだけどね。方針変更したのだろう。
「それから
「今は
「常時購入するわけには行かないので難しいですね。あとは直接職人ギルドに掛け合ったほうが良いです。紹介状ならお出し出来ますが」
「ではそれでお願いします」
「封魔弾、なるべく多くお願いしますね」
ギルド担当とのやり取りは、だいたいどこでもこんな感じ。
アインス担当の呪いでもかかっているのか、だんだん圧が強くなってくるんだよな。
それからギルドの魔術師から、
復唱法を説明し、その責任は魔術師ギルドに放り投げた。
街中で活動していると、どうしてもこの手の便利魔術を使いたくなってくる。
郊外へ行くタリアを見送った後は、買い出しをしてから貧民街へ行き、昨日と同じく関係が出来そうな店舗を中心にあいさつ回りをしていく。
今日は広場から遠い店舗を回る。それからエイダール孤児院に顔を出して、子供たちの様子を見るのだ。
「あんた、また来たのかい?」
「今日は客ですよ。孤児院に寄付するパンが欲しいのですが、バゲット10本くらいあります?」
「……あるよ。言っとくけど、まけないからね」
「もちろん」
パン屋の女将さんとそんなやり取りをしてエイダールへ。
差し入れの食料を渡した後、魔術の素質があった子供でMPが足りる子供に、詠唱法で魔術を教えた。基本は
グットマンさんは神聖魔術の素質は無いが、MPがあるので
数日で形になるだろう。
それからコーウェンさんの家に顔を出す。
「もし可能でしたら、私に詠唱魔術を教えてくれませんでしょうか」
そう言いだしたのはリタさん。
彼女は
兄が冒険者になったため、顔役だったコーウェンさんを支える意味もあって、外に出る職にはつかなかったとか。
今の職業は裁縫師。糸繰りや針仕事を行う一般職である。
「コーウェンさんの体調が良いなら、
王都周辺なら、タリアにレベリングを任せても平気だろう。
リタさんは内職だというし、善は急げという事で、明日からタリアに頼むつもりで話を勧めた。
バルバスさんが呼び出されていたが、大丈夫だろうか。
日が暮れたらグレイビアード孤児院へ。
新しく教えてもらった
鍵も錬金術のスキルで治して、それから周囲を見渡せる位置に
そんな事をして1日を終え、翌日の早朝にバーバラさんが手紙を携えて戻ってきた。
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