第151話 難民キャンプと暖房機
ウォール辺境伯の側近から話を聴き、屋敷にとめてもらった翌朝から街の周りを確認して回る。
ウォールの街は現在、定住人口は約2万人ほど。それに多い時で短期滞在の変動人口である冒険者や商人などが倍から3倍ほどいるらしい。
難民は街の北側に既に1000人ほど、今なお増え続けている。
南から来る難民が北に陣取っているのは街の配慮らしい。最終的にどれだけの数が流れ着くか不明のため、南側のエリアを空けておくことにしたらしい。
「人口に対して、難民での増加量は精々5%くらい。備蓄からすれば回らない人数じゃ無いが、どれくらい増えるかと、冬の影響が問題か」
冬の間、街の宿泊施設の稼働率はほぼ100%になる。簡易テントで過ごすには少々厳しい寒さなので、宿に泊まれない者は周囲の山村に行く事になる。そうやって戦力となる冒険者を分散させている面もあるので、難民を寒村に送り込むわけにもいかない。
「問題は燃料でしょうか」
「そっちは試作品の暖房機をワタルが量産すれば済むんじゃない?」
「暖房だけだと厳しいな。王都で準備した試作機は、あくまで石造りの密閉された室内で使うことを想定している。今の難民キャンプは、木の枠組みに麻布を掛けただけのテントが多い。あれじゃ暖房焚いてもMPの無駄遣いだよ」
ぶっちゃけ一人で出来ることは限られるな。タリアに
嘆いても仕方ない。出来ることをしよう。
「タリア、バーバラさんと二人で街の外で魔物の捕獲をお願いできる?このあたりの魔物は、アインスや王都より強いから、あくまで慎重に」
物の価値は地域によって違う。この辺りでは王都で100Gくらいの物が150Gとかする場合があり、その分魔物も強くなる。必然的に、魔物が全体的に強くなるのだ。
「レベル上げをするのね。わかったわ」
話が早くて助かる。
「アーニャ、回復用の
「まかせろ」
「ワタル殿はどうされるのですか?」
「俺はとりあえず暖房機の改良型を作ります。あ、街から出る予定は無いので、護衛は不要ですよ。何なら、辺境伯閣下に頼みましょう」
「街中で護衛が不要かと言うとそう言うものではありません。……が、私よりワタルさんの方が強いので、おとなしくタリアさんの壁に成っておきます」
タリアはエンチャント装備モリモリなので、バーバラさんが正面から戦った場合タリアが勝つ。
ビットを使ったアーニャにも勝てないので、全員が装備を整えた場合、一番戦力に成らないのは実は彼女だったりする。護衛騎士としてそれはどうなんだという気もするので、クロノス国外に出たら彼女の強化をしないといけない。
3人を送り出した後、借りている部屋で必要な材料を書き出す。
暖房機に必要なのは魔鉄だが、王都から持ち出したのは10%濃度の物が10キロほどだ。施策には十分だが。数を作ろうとすると全然足らない。
ウォール辺境伯に対策を提案しなければならないが、先に試作品を作っておいたほうが良いだろう。
「難民対策として、私が力になれそうな内容を提案したいのですが、材料が足りません。こう言った物を仕入れたいのですが、急ぎ都合をつけられる商会はありませんか?」
俺の身の回りの対応をしてくれている従僕の方に羊皮紙のリストを渡す。
彼は爬虫類系の獣人のクォーターで、名前はユーティ。黒髪をオールバックにして、黒の燕尾服もどきを着こなすイケメンだ。うっすら肌に浮かぶ鱗が、純粋な獣人であることを示している。
「問題ありません。急ぎなら直接行ったほうが良いと思われますが、いかがいたしますか?」
「直接行きましょう」
ささっと準備して、材木を扱う商会、中古の木箱など雑貨を扱う商会を訪ねて、必要な物を仕入れる。
2時間ほどで屋敷に戻り、辺境伯への面会を夕方前に取り付けて、部屋での作業に取り掛かる。
今回作るのは、コンロを発展させて作った暖房機の改良型である。
まずは魔鉄を
操作用の配線を外部に伸ばして……加熱が付与されないように支えを別金属で作る。
これに
なので装軌車両で一週間走り続ける間に考えていた改良を行う。
中古の木箱のサイズに合わせて、アルミ板を伸ばして蓋の開いた厚さ10センチほどの薄い箱を作る。
その箱の中に十字に組み合わせた木の板を入れて、中央から軸を伸ばし、水を注いで蓋をする。さらにその上にも囲いを付けて、箱のサイズに合わせた羽根を置く。
現在俺が使えるスキルの中に、安定的な風を起こせる魔術は無い。
強風は強すぎるので、ここではプロペラを回すわけだが、人形操作でプロペラを回すのは効率が悪い。しかもアレは接続していないと効果が継続しない。
そこで一番下に貯めた水に錬金術師のスキル、
装軌車両のやビットで使うボールベアリングは量産してあったので、とりあえずそれで軸受けはまかなえる。
プロペラの上に加熱部分を固定して、その上から木枠を被せて固定。
加熱と撹拌の回線を伸ばして蓋をして、魔術発動のためのタッチ部分を作る。
それからまずは撹拌をエンチャント。出来る限りINTを絞って、間違っても吹き飛ばないように調整して……こんなもんか。
2次職に成ってから半月以上、レベルは全く上がっていないのだが、全然上がらなかった魔力操作と魔力感知がそれぞれ4に上がっていた。おかげでこれまでよりスキルが制御できる。
プロペラが動いて風を送っていることを確認してから、今度は加熱部にエンチャントを行う。
最高温度は80度くらい。回線の周り、半径1センチくらいの空間を温めるように……あ、この構造だと配線周囲が熱くなる。作り直し。
ん~……実験してる余裕がないな。最高温度を40度に設定し直して済まそう。触っても暖かい程度で済むはず。
温度が足らんから加熱範囲が重複するようにして、回線自体も温まる様にしておこう。……よし、完成。
なんだかんだで2時間以上かかった。
まだ面会までの余裕は在るけど、とりあえず試運転してみよう。
「……よし、動いている。風は問題ない。温度調整は出来ないけど、かなり暖かい。……しかしうるさいのは考え物だな」
10分動かしたら解体して、可動部の状態を確認。……ちょっと耐久度には難有か。
各箇所に耐久力強化、小音化を掛けて再度組み立て。うるさいのは大きく変わらないが、マシになった。
しかし永続付与で耐久力強化と小音化を入れようとすると、コストが上がりすぎるな。
「……羽根がぶっ飛んで首がぶっ飛ぶ、みたいな事故が起きないとも限らないから、ファンは屋外に設置にするか……それとも囲いをもう一つつけるかな」
金属製の柵をさらに周りに張れば行けるだろう。とりあえず辺境伯に見せる前にやっておこう。
「こちらが解決策ですか?」
一通りの作業が終わったので、お茶を持ってきてもらって、作り置きの軽食を食べる。
「左の金属部分が風を起こす機能、右側の金属部が温める機能。動かしてみてもらえますか?触れて使おうと念じれば動きます」
「私が動かして良いのですか」
「使うのは普通の人ですから。MPは持って行かれますが、多分問題ない量です。ステータスで確認しながら使ってください」
ユーティさんがパネルに振れると、回転音が響いて風が発生する。すぐに暖かい空気が排出され始める。
「……おお、温かい!」
「MPは大丈夫ですよね」
「はい。片側で5ですね。成人している人なら問題なく動かせるはずです。これはどの程度動き続けるのですか?」
「両方とも10分は稼働するようにしました。連続稼働できますが、1度に貯められるMPに限界があって、MP90点分以上は入りません」
90分で自動的に止まってしまうので、動かすにはまたMPを入れないとならない。
加熱は最高温度が低い分コンロより効率が良い。撹拌は効率が良いのか不明だ。
「一家6人居れば十分賄えそうですね。これが量産できるなら、冬の燃料消費はかなり抑えられるでしょう。素晴らしい」
「価格が見合うか要相談ですね。それじゃあ、辺境伯との面会に持って行きましょう」
「どうやって運ばれますか?」
「そりゃ、もちろん
そうして収納空間に暖房機を放り込み、密閉が甘くて水を床にぶちまけたのだった。
……掃除の人、ごめんなさい。
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