第253話 同心・コゴロウの送検術
「さて、こいつらどうしましょうか」
見張りを入れた侵入者は3人。アルタイルさんの話だと他にも怪しい動きをしたやからは居るようだが、確証が持てないので捕らえられなかったとのこと。
組織的な犯罪者っぽいなぁ。
「んん~っ!!うんん~~~っ!」
一人元気なのが居るな。もう少し静かにさせておこう。
アルタイルさんが
「往々にしてこの手の輩に関わると面倒毎になるのである。長居はしないのだから、さっさと憲兵に突き出すので良いのでは?」
「数人のグループなら良いですけど、わざわざうちを狙いますかね?この間から感じる不審者と別って可能性も無くはないですけど、同じグループなら用意周到さから言って、こいつ等だけじゃ終わらないでしょう」
ボラケの法だと、窃盗未遂は罰金か強制労働だったはず。縛り首にされることは無いだろうから、基本的には憲兵に任せればいい。
ただこの手の輩はその程度で諦めるくらいなら、はなっから怪しい橋は渡らない。
「ふむ、それなら冒険者ギルドと商人ギルドに話を持って行くのである」
「ギルドにですか?」
「うむ。建前上は被害が無いので内々に済ませても良いと言いつつ、実際にはギルド経由で圧力をかけさせるのである。ギルドは国際組織であるからな。国の力だと及ばない可能性がある相手にはよくやる手なのである」
フォレスでも貿易商や隣国絡みの事件が起こることはたまにあるらしい。
特に陸地で接する隣国との仲は最悪の部類なため、そう言う場合は国際組織経由で圧を掛けるのだとか。
冒険者ギルド、商人ギルド、魔術師ギルド、それに教会はこの世界でもトップクラスの巨大組織だ。問題がある事もあるが、国とも交渉可能な力を持つ。
「どれ、まずは某がひとっ走り冒険者ギルドへ行ってくるのである」
そう言ってコゴロウは飛び出していった。
「どういたしましょう?たたき起こしで尋問でもしましょうか」
「いや、別にいいですよ。真偽官が居るわけでもないですし、そう長い事留まるわけでも無いので、個別の事案に関わるメリットも無いでしょう」
こいつらが単なる泥棒でも、ミラージュやアヴァランチのような犯罪組織の関係者そう影響はない。
コゴロウが冒険者ギルドの職員数人を連れて帰ってきて、今度は俺が商人ギルドに行って話をする。
「ほう、商人ギルドの副会長どのが出て来られるとは、高々コソ泥の検分に大層な事ですな」
「そちらこそ、冒険者ギルドのギルド長がわざわざとは、よほど何か隠したい事でもあるのですかな?」
……なんでこいつら我が家でメンチ斬り合ってんだよ。
「お~い!通報を受けたのだが何かあった……のだろうな。失礼しました」
ギルドの皆さまとあった瞬間、憲兵のお兄さんが来るッと回って引き返そうとする。
いやいや、帰らないでよ。
『収集付かないことに成りそうなんですけど』
『うむ。予想以上に上が出てきたであるが、ワタル殿いったいどんな商売をしているのであるか?』
『……お金がいっぱい動く商売ですね』
冒険者ギルドが4人、商人ギルドが3人、それに憲兵が2人と大所帯になったな。アルタイルさんが2階に引っ込んでいるので、俺とコゴロウで相手をするしかない。
「えっと、先ほど我が家に侵入してあえなくとらえられた不届き者ですが、幸いにして取られた物も壊された物も無く、簀巻きにされて転がされております。身元が分からない為、改めていただければ想いお声をかけたのですが……」
皆さん暇なんですかね?
「ああ、うちのお得意様に喧嘩売る馬鹿がどこの馬鹿か見ておく必要はあるかあらな。……知ってる顔か?」
「……一人、そちらの男は少し前に食い逃げでしょっ引かれた輩ですね。それ以外の二人は心当たりがありません。少なくとも、最近活動している冒険者ではないと思います」
冒険者ギルドは関係者に心当たり無し。
「ふむ……儂も分からぬが、お前たち、どうだ?」
「そっちの男はシホウ商会をずいぶん前に首になった男ですね。それ以外の二人は記憶にありません」
商人ギルドの担当者は
しかしシホウ商会か。この間醤油を買った時に関わったくらいだけど、関係あるのだろうか。
「基本的には憲兵さんにお任せしようと思うのですが、持って行きたい人いますか」
「ふむ。そっちの男、うちでうちで預からせてもらえるか。話が聞きたい」
「ちょっとお待ちなさい。そいつはこちらでお預かりいしますよ。ただでさえシホウ商会からクレームが上がった人物です。背後関係をハッキリさせないとなりません」
「それこそ、商人ギルドに任せるわけには行かんなぁ」
冒険者ギルドと商人ギルドがにらみ合う。
『こういう場合どうします』
『ふむ。某に任せたまえ』
「ああ、お二方ともそうにらみ合うものでもないのである。我々としては、法の下の範疇であればこの者たちがどうなろうと構わぬが、善き友であるギルドが些末なことで争うのは心苦しい」
コゴロウが大仰なセリフと共に間に入る。
「基本的には憲兵殿にお任せするのが筋なのは言った通り。そうであるな」
「我々を巻き込まないでいただきたい」
すっごい帰りたそうにしている。
そう言えば、この憲兵さんたちは誰が呼んだんだろう?
「であれば、平和的に解決には最も単純な方法を使うのが良し。コレである」
なにが「であれば」なのかさっぱり分からないが、コゴロウが右手の親指と人差し指で輪を作る。
……金で売りやがった。ギルド長と副会長が互いに顔を見合わせる。
「さぁ、泣いても笑っても現金限りの一発勝負。誰も張らねば憲兵殿の総取りであるが、いかがかな?」
さわやかな笑顔で無茶苦茶言うな。
しかしギルドの2組には分かりやすい話だったのだろう。それぞれは引き受け金を提示した結果、シホウ商会の元商人は商人ギルドが、話に上がってなかった身元不明の男は冒険者ギルドが引き受けることに成った。どちらも欲しがらなかった食い逃げの前科持ちは憲兵にしょっ引いてもらうことに成る。
「お手数お掛けした。これで皆とお茶でもいただくと良いのである。横丁の団子屋がオススメであるぞ」
コゴロウはナチュラルに憲兵に賄賂を贈っている。
「どころで、貴殿らはどなたに呼ばれたのであるか?我々は呼んでいないのであるが」
「ん、ああ、詰め所に居たら、この家の前で突然男が吹き飛ばされたと聞いて案内されたのだが……そう言えば、通報してきた男はどこへ行った」
「……居ませんね」
「ふむ。……盗人の一味であるかな。憲兵に突き出された方がマシ、と判断したようである。貴殿らも気を付けられたし」
「ああ、そうだな。注意しよう」
最後に憲兵の二人が、まだ意識を取り戻さない犯人を担いで帰っていく。
「これで各所に牽制にはなったであろう。どうせ皆、最後は憲兵行であろうが、動きづらくなるはずである」
「人身売買モドキの荒業ですね」
「基本的に被害者が納得していれば、憲兵はとやかく言わないものであるよ。彼らの仕事の中で最も優先すべきは、帝人の評判を下げぬため、民の不平不満を除くことであるからな。むろんその中には罪人も含まれるので、罪人だからと言って無法な扱いは出来ぬ。けれどこの程度は許容の範囲内である」
確かに、王や天皇などのシステムを考えると一番重要なのは民衆からの支持になるから、当然国家もそのシステムに沿って組織が編成される。この辺の感覚は全然合わないな。
この一件は結局、東群島で輸出入を行っている大手商会の一つが噛んでいたらしい。
らしいの言うのは、気づいたらその商会が潰れていて、事件がうやむやになったからだ。
その事実を知ったのもボラケを発つ直前だったので、結局何が目的だったのかは分からずじまいのまま忘れ去られることに成った。
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本日2話目を公開したスピンオフ側もよろしくお願いいたします!
アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~
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