第224話 兵器の整備と開発をしよう
縦の修理は一両日で終わるとのことで、その間は首都の周りで活動することに成る。
基本的には料理をしたり、問題無さげなエンチャント装備をギルドに卸してお金を稼いだり、備品を製作したりしながら過ごすことに成る。
「ん~……やっぱ中途半端な性能になるな」
その日は不完全状態で放置されていたフェイスレスMARK2の修理と調整を行っていた。
カマソッツとの戦いで大破し、
替えのパーツはちまちま作っていたので、一気に汲み上げてまずはベースの人型二足の状態に戻してみた。
この形状は操作しやすい。だけどINTをベースにしてステータスが反映されるため、素材の強度が足りていない。特にマニュピレーターの関節は致命的で、今の手で全力で剣を振ると、指の方が捥げる。
稼働機構をなくせば強度は得られるが、今度はMPの消費が多くなりすぎて使いづらい。一瞬だけ使うなら、
「やはり腕はアタッチメントにするか」
マニュピレーターが壊れるのは、そこの強度が人形の平均強度より低いからだ。単なる鉄の棒なら、自身を破壊するのほどの威力は出ないはず。
「耐久力の低い所が減れば、その分平均値が上がって結局他の所が壊れるのでは?」
「……せやな」
ビットを整備していたバーバラさんからツッコミが入ってしまった。
ん~……関節部分だけ強度の高いパーツを使うか。もしくは意図的に強度の低い心材を使って、VITの平均値を下げる。性能は下がるが、使用中の自損は気にしなくて良くなるはず。
ギリギリの戦いをしている場合、予期せぬ破損は致命傷になる可能性がある。INTは思考速度を上げてくれるが、その効果は『反射でしかできない動きを意識的に出来る程度に早くなる』くらいだ。過信は出来ない。
「アタッチメントにするかぁ。右手は剣、左手は……クロスボウでも買って仕込むか」
掌の下半分に細い穴をあけ、予備の剣のグリップをバラシて、タングとか茎とか呼ばれる芯の部分が刺さる様に改良する。これでマニュピレーターを介さず、腕から剣が生えたようにして振るう事が出来る。
左手の加工は、素材が無いからそのままだ。
「ショルダー用のアタッチメントを付けたビットはそちらの二つに成ります。確認お願いします」
「ありがとう」
フェイスレスの肩背面部に、ビットを二つひっかけられるようなアタッチメントを増設した。
ひっかけておけば、フェイスレスを起点としてビットを発進させることが出来る。
「そう言えば、水中で使って壊れていたドローンってどうだった?」
とりあえず形になったので次の作業へ。
廃材を錬金窯で素材に再生成したり、予備パーツを作ったりとやることは色々ある。ただ最近はバーバラさんが一緒に作業をするので、こうして話しながらの事が多い。
「ほとんどが木製の歯車が年輪方向に割けていました。プロペラが割れた物も2つありましたが、そちらも年輪の密度が低い所が割れています。素材強度が付加に耐えられなかったのだと思います」
「ああ、弱い所が裂けたか」
「水を吸ったのも原因だと思いますよ。防水加工はしていませんでしたから。木製だと軽いというメリットは有りますが、強度の均一化は無理ですね」
「普通は高負荷がかかる事なんて無いんだから、今の構造で十分なんだよなぁ。その壊れ方なら水中用は別に作ろうか」
「それでよいと思います。水中用は金属ですよね。準備しますか?」
「ボラケに行ってからにしよう。金属の手持ちが少ない」
たまの移動中に岩石から金属の抽出はしているが、工房を借りているわけでは無いので大量に作ることが出来ない。持っている錬金窯も、両手で抱えられる程度の小さなもの一つだけだ。
ボラケへのルートなら、最悪浮遊船を使って渡ることが出来る。なら、向こうに着くまでは素材を温存したほうが良い。
「わかりました。ところで、浮遊船の改造パーツを作ったのですが見ていただけますか」
「ん、おっけー」
バーバラさんが持ってきたのは、一抱えある木製の箱だった。前面には一メートルほどの棒が箱と水平に飛び出していて、背面には木製の歯車が見える。
「これは?」
「浮遊船の動力です。これまでは
バーバラさんが箱の前面を棒ごと外すと、中には渦を巻いた薄い金属板が入っており、その周囲には歯車が存在した。これは……ばねか。
「薄く大型化した鋼のゼンマイバネを動力にしようとしています。加工は
「了解」
ばね本体に軽量化を永続付与。質量軽減には及ばないが、軽量化だけ常時効果を発動できる。
「ありがとうございます。
「動力カットはどうする?」
「それはメルカバ―同様、運転席から操作できるようにしたいです。ワタルさんが作っている新素材、使えませんか?」
「まだ高圧には耐えられない。やるならパイプだね」
油圧機構を作るため、ゴムチューブを錬金術師のスキルで再現できないか試しているが、納得いく強度がある物は出来ていない。常温で固形の油脂と樹液の構造ベースにして、防水性と若干の弾力がある固形素材は出来たか、耐久性の問題はまだまだ。
ゴムの組成が分かれば、錬金術師のスキルで強制的に分子配列を変換できるのだが……そんな物見たことが有るわけも無く、
「とりあえず、少しづつ改良してみようか。交易ルートの再開案内が来てから動けばいいから、まだ数日は余裕があるしね」
「はい!」
バーバラさんは生産職のスキルを取って以来、いろいろなものを試作している。今回作ったゼンマイ式の動力もその一環。
ぼんやりとした憧れが、メルカバーを見て刺激され火が付いたものの、何を目指せばいいか悩んでいた彼女も、職によって得られる知識を得たことで少しだけ前に進み始めた。
何が分からないかすらわからなかった状態から、わからない事がたくさんあるにクラスチェンジだ。実験的に手を動かしている間に、少しは自身の理解も進んでいくだろう。
……しかしゼンマイを動力にするとは思わなかった。俺のイメージだとゼンマイバネは大きな動力を生み出すには向かない。
でも鍛冶師のスキルにある物質特性強化を使えば、弾性力を強化することは可能だろう。
……それでもキロ単位の重量があるプロペラ機構を、8分動かせるってどういう事よ?
いや、集合知を使えばスキルの効果とかは分かるんだけどね。こんなもの作った人いないから、発生する力の計算は自分でやらなきゃいけないし、そんなのパッと出来やしない。俺なら作ろうとすらしなかっただろう。なかなか面白い発想をしている。
そしてMPの代わりに筋力を動力にしようとするのも中々。ある意味脳筋。
彼女は果たして理系なのか体育会系なのか……。
「もう一つ、このゼンマイ機構を使って作ってみようと思っているものがあるのですが……」
バーバラさんが取り出した設計図を見ながら、話を聞き、必要に応じて助言をする。
うん、自分以外がアイデアを出してくれる環境は良いな。彼女がクロノスの騎士でなければ、もう少し話せることもあるんだけど……。
……この先の事を考えると、王国や特使と言う立場についてももう少し踏み込むべきかもしれないと、そんなことが頭をよぎるのだった。
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□あとがき
明日はお休みの予定のため、次回更新は8/22(月)の22時ごろとなる予定です。
よろしくお願いいたします。
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