第124話 一応の解決
「……大活躍であったな」
ドーレさん宅での聴取から数時間後、場所をアインス男爵の館に移して、事後調整が行われていた。
今は一息ついて、ちょうど雑談タイムに入った所だ。
「そうでもないです。結局、捕まっていた子供たちは無事でしたが、ミラージュの関係者は捕まってませんし、売られた二人の行方も分かって居ません」
騎士団の捜査の結果、捕まっていた3人の子供たちは無事解放された。
しかし、彼らを監禁していたのは、事情を知らずやとわれた貧民街の住人であり、バラバラに監禁された子供たちは互いの安全を担保に脅されており、助けを求めたり出来ない状態であった。
「俺がドーレさんのところに挨拶にいった時点で、事が露見する可能性を考慮に入れて、逃亡の準備をしてましたね」
「その様だな。ひと月前に孤児院から子供たちが逃げ出した時点で、当時の担当者が逃亡。入れ替わりで子供の確保に当たっていた担当者も、君が訪ねた時点で逃亡準備と。手際のよいことだ」
「関係者は増えますが、捜査が真偽官頼みな状態なら、証言の真偽さえご任せれば逃げきれますからね。加えて王都から出れば、捕まえるのは骨が折れます」
マジックアイテムによる通信が可能としても、王都と地方では捜査の精度が大きく違う。
冒険者としてであれば、国境も比較的容易に超えられる。
その地域から逃げ出されてしまうと、捕まえるのは至難の業なのだ。
加えて事件性の低さも影響する。人身売買は重罪だが、奴隷として売られた、という情報はあくまで子供たちの証言でしか無い。真偽官が認知できない勘違い、の可能性も存在する。
殺人などの事件であればともかく、このくらいの真偽不明事件では大きく予算を割いての捜査には踏み切れないだろう。
「イバイヤ・ドーレは事実上王都からは追放、で手打ちになりそうだが、それは良いのか?」
「俺は別に断罪には興味ありませんよ。死刑にするつもりなら止めましたけどね。殺しても何一つメリットがない」
公開処刑が娯楽となっている国はまだまだあるけど、それを肯定する理由は俺にはない。
ただでさえ集合知で人格に影響が出て良そうなのに、拉致られた世界に倫理観まで合わせてやる必要などあるものか。
「王都での行方不明事件の通報と解決、褒章の対象になりそうだが?」
「マッチポンプを疑われそうなので、辞退したいところですね。どうしてもと言うならお金でください。困ってはいませんが、あるに越したことは無いです」
「国も予算が厳しいのでな。封魔弾の買取数を増やそうか」
「それは俺のMPが厳しいですよ」
今は封魔弾の作成より別の事にMPを使いたい。
MPタンクがもっと有ればいいのだけれど、金を出しても中々買えないのだ。
「王家の宝物に、MPを貯められるアイテムが有ったりしませんかね?」
「……聞いておこう。して、今後の事だが……予定通り進めるつもりか?」
「はい。先ほどまでの話に合った通り、貧民街の顔役はコーウェンさんに戻るでしょう。渡は付けてありりますから問題ありません。グレイビアードの次の院長が推薦通りリタさんに成ってくれれば、やり易くて助かります」
勝手に推薦させてもらったのは申し訳ないと思っている。
思い当たる人物の中で、割り当てられそうな人が居なかったのだ。
「封魔弾の増産は期待している。なるべく早く進めるように。それから、貴殿の知っている犯罪組織の情報も提供願いたいのだが」
「後日時間を割きますから、公式の聴取の場を整えてください。今はドーレさんの聴取で手一杯でしょう?2回語るのは時間の無駄です」
「仕方ないな。謁見は八日後に決まった。その際に聴取も合わせて行わせてもらう」
「承りました」
王都内はしばらく厳戒態勢でミラージュは動けないだろうし、ドーレさんは拘束されていて当面は心配なし。
コーウェンさんが復活して、貧民街での活動がしやすくなれば、次の段階に進めるな。
謁見日の流れを調整して、日が暮れる前に男爵の館を出る。
昼飯を食ってないからさすがに腹が減ったな。タリア達は戻ってきているだろうか。
………………
…………
……
「よろしく!じゃないんですよ!レベル上げから早めに戻ってみれば、孤児院の面倒を見ろっていきなり引っ張ってこられて、どういうことですかっ!」
場所は変わってグレイビアード孤児院。
封鎖されて居た立て板は外されて、今は子供たちが日常生活に戻るために片づけの真っ最中だ。
そして今日もタリアとレベル上げに行っていたリタさんがご立腹中。
「いや、ほかに信用できそうな人が思い当たらなくてですね」
「信用していただけるのはありがたいですけどね!行っときますけど、私、育児経験なんてないですからね!孤児院の寮母ってl、19でやる仕事じゃないですから!」
おっと、リタさん一つしか変わらないのか。
「リタさん、そういうのワタルに行っても無駄よ。為せば成る、で後先考えてませんから」
「そのと~り♪」
「開き直らないでくださいっ!」
タリアのフォローになってないフォローに同意して、またリタさんがキレる。
そうカリカリしてると眉間にしわが残りますよ。……言ったら拳が飛んできそうだな。やめとこう。
「騒いでないで、荷運び手伝ってくれよ。ワタルも、ベッド引き上げてくれないと、今晩も地下暮らしになっちまう」
「アンナ、せめて継承はつけろ」
「……裏口ぶち破って不法侵入する男に付ける継承は無いんだよ」
「それで助かっただろ?」
「ワタル、結果良ければすべて良しじゃないのよ?そこわかってる?」
世知辛い。
バタバタとしつつも、グレイビアード孤児院の立て直しは進んでいく。
コーウェンさんの体調が安定したので、リタさんは今日からここに住み込みだ。荷運びは頼まれたのですでに終えている。
逆に体力が落ちているコーウェンさんのサポートは、グレイビアード孤児院で唯一成人していたグレイという少年がやってくれる事に成っている。
彼は今、今回の事件の聴取を受けている真っ最中だが、明日には解放されるだろう。
俺や、ほかに面倒を見れる人が居るタイミングで、リタさんと同じようにレベル上げを行う予定もある。
なんと賢者適性がある期待の新人だ。
アンナが人身売買を知った後、いろいろと支持を出していたのも彼らしい。
他に捕まっていた14歳と12歳の子供二人も無事に戻ってきているので、小さい子供の面倒を見るのは彼ら彼女らにも任せられるだろう。
「……それにしても、2カ月半もあって売られた子供が二人って、少なくない?」
「顧客が居ないんだよ。そもそもクロノスじゃ奴隷の買い手はいないし、奴隷として売られたかも分からん」
そんな話をタリアとしたのは、一通りの仕事が片付いて自宅に帰った後だった。
「そもそも、クロノスでは奴隷の個人売買は禁止。隷属紋があるわけでもないから、いうことを聞かせるのも一苦労。その上、金持ちや権力者は常に真偽官の脅威にさらされているとなれば、そうそう買い手もつかないさ」
「それじゃあ、逆に二人は何で売れたの?」
「表向きは養子の仲介って感じだと思う。孤児院から養子をもらうのはハードルが高いから、そこに付け込んだ形かな。特に、人の余っていると言っても王都から地方農村は厳しい」
ちゃんと育てられる環境があり、引き取り手と子供の相性審査に通らないと許可が下りない。
スキルによる調査が入る分、この辺は地球の先進国より管理が行き届いてるかもしれないな。
「だからなおさらアンナが聞いた、借金奴隷うんぬんが、ちょっとわからないんだ。勘違いか……または、普通は考えられない例外があるのか」
何を考えているかはさっぱりわからん。
「……無事に見つかるといいわね」
「そうだな。国外に連れ出されていない事を祈るしかないな」
こればかりは、俺に出来ることはほとんどない。
ミラージュの関係者が捕まって、情報が出てくるのを期待するしかないだろう。
アンナは三人が帰ってきた事を喜んでいたけど、犯人グループが捕まってないことについては腹を立てていた。捕まって、売られた二人も帰ってくることを期待していたのだろう。
「まあ、この件は当面騎士団任せだよ。俺たちは出来ることを一つ一つやって行こう」
「……ワタルは一気に三つ四つ進めようとしてる気がしてならないけどね」
はは、手厳しい。
だって一つ一つじゃ進みが遅いじゃあないか。
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